砂竜日記5 目覚め
「ん……ここは?」
サンドラスが目を覚ましたのはベットの上であった。
ふかふかのベットから周囲を見渡すと目に付いたのは幾つものパソコンと、ゲーム機の数々。
サンドラスの両親は海外で有名な会社に勤めており、同時に多忙であった。
数年に一度帰る両親は、砂漠の村には無い物をお土産として持って帰り、その中にはゲーム機もあった為、サンドラスはゲーム機の知識もあった。
一見するとゲーム好きな男性の部屋にも見えるが、ベットの近くの机には化粧品が乱雑に置かれているので女性の部屋であるとサンドラスは気づく。
そして、サンドラスは部屋の全体を見渡して思う――ここは砂漠の村の中ではないと。おそらくピーコフルによって別の地に飛ばされたのであろうと。
ピーコフルが使ったのは間違いなく渡りの力であったと思いつつ、ピーコフルが力を使えた理由、ここに飛ばした理由を考えようとした時であった。
「あっ……目が覚めましたか!!」
突然、ドアが開きびくっとなったサンドラスの目に入ったのは自分と同じくらいの年齢に見える茶髪の青年。
おっとりした雰囲気の少年は、驚いたサンドラスに「驚かせて、すみません」と緊張しながら頭を下げつつ安堵の笑みを浮かべた。
多分ではあるが、ピーコフルに何処かに飛ばされた自分を運んでくれた人物なのだろうと察したサンドラスは悪い人ではないと直感ながら感じ、状況を整理するため言葉を投げた。
「あなたがここまで運んでくれたのね、ありがとう……私はサンドラス・フレンフード…あなたは?」
「俺は【エクス・ナート】と言います……近くの砂浜までランニングしていたら、サンドラスさんが倒れていたので俺がここまで運びました……服装から見て海外からの観光の人だと思いますが何故あそこに?」
「それは……」
サンドラスは言葉を詰まらす。
ピーコフルによって砂漠とは別の地に飛ばされたことや、自分が竜であることはもちろん言えない。
まずは、ここが何処であるか知る必要がある。
「ごめんなさい……私も気を失って色々と混乱してるの……状況を整理したいから聞くけど、ここって何処なの?」
「えっと、ここはトレンのカモミール地方です」
「トレン?……地図とかある?」
「地図ですが……そうだ確か机に……」
エクスは、机の引き出しを開け一枚の紙を取り出す。
紙に描かれていたのは世界全てを記した地図。
エクスは現在地を指で示した。
そこは、サンドラスが住んでいた砂漠の村から海を越え、遥かに離れた島国であった。
「……(とりあえず場所は把握した。トレンはどこかで耳にした記憶があるけど思い出せないわね……ピーコフルさんの最後の言葉を考えるならここに送ったのには理由があるはず……けど、詳細を聞く前に意識を失ったから分からないわね)」
「……大丈夫ですか?」
「えぇ、少し頭が晴れた気分ね」
「一応、先生が診て下さったのでサンドラスさんの体自体は大丈夫だと思います」
「……先生?」
「この家に住まわしてくれている俺の恩人である人です……詳しいことは省きますが、その人は医療の心得があるので昨日の夜にサンドラスさんの体調を見てくれました」
良く見ると体の一部には包帯が巻かれており、治療が施されたことが一目で分かった。
傷はピーコフルとの戦いで負傷した箇所だろうと理解し、エクスに礼を言う。
「見ず知らずの私にここまでしてくれてありがとう…何か礼でもできればね」
「気にしないで下さい……倒れている人を放っておくなんてできませんよ。それに、俺はサンドラスさんを運ぶまでしかしてないですから」
「砂浜に放置されていたらもっと危険な目にあっていたかもしれないわ……エクスに助けてもらって本当に良かったわ」
エクスの善意に満ちた人柄は不思議とサンドラスの心を落ち着かせた。
実際、エクスに助けてもらって良かったと思うのはエクスのような善人とは程遠い人間が沢山いることをピーコフルから教えてもらっていたからだ。
もし、そのような人物が倒れた自分を見つけたら、どのような目に合っていたか想像しただけでもサンドラスにとっては恐ろしかった。
「なんか照れますね……えっと――朝食の用意をしてきます!」
「えっ、そこまでは……」
サンドラスの言葉より早くエクスは、ドアを開け外に出て行ってしまった。
本当に何から何まで申し訳ないと思いながら、サンドラスは一人の時間で改めて状況の整理をするのであった。