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竜砂少女は世に立つ  作者: 由喜坂由樹
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竜砂日記4  理由

「……やってくれたな」



「……何が?」



 ピーコフルは振り返らず、後方の声に返答する。

 声の主は、村を統べる竜の長たる村長。

 村長の怒りが籠った声を理解しながらも、悪びれずにピーコフルは笑みを浮かべていた。



「まずは二つ聞く……良いな?」



 自らの足でピーコフルの正面に立った村長に、ピーコフルは「どうぞ」と言葉を投げる。

 村長にとってピーコフルは、村で自身を最も知る存在であり、信頼を寄せる人物――ピーコフルにとってもそうであるように。

 故に村長は既にピーコフルの意図に気づき、これは互いに確認を込めた意味での問答であった。



「一つ目……サンドラスを何処に送った?」



「私の故郷――【トレン】に送ったわ」



「お前の故郷か……確かあそこは」



「二十年前に、大陸最大の国家である【タンジーノヴァ】と海域を巡る事件の後に戦争に発展し、僅か五日足らずで首都を占拠。さらには、軍事施設の大半を破壊して降伏させた小さな島国よ……あそこは、閉鎖的だからサンドラスの正体が広まることはないでしょう」



「……二つ目、送った理由は?」



 ピーコフルの故郷たるトレン。

 その国は島国の小国でありながらも今や大陸で最も戦力を誇る国と言われ、国際平和機構にも所属している世界にとっても重要な様々な技術に長けた国家である。

 国の特色をピーコフルから聞いていた村長は、国に対しての情報を事細かく聞かず次の問答に進める。

 故郷のことを久しぶりに話せると思っていたピーコフルはやや残念そうな顔を見せつつも村長の問いに、さらりと答えていく。



「サンドラスの渡りの力は過去の竜たちの中でも特質して高い……人となった渡りの竜で、渡りの力を開花し操れる者は沢山いるけど……大した訓練もせず力を操れたのはサンドラスが初めてよ」



「だからこそ俺は、サンドラスを外に出すのを止めた……鍛錬なしに操る力がいつ暴走するか分からなかったからだ」



「俺だなんて……いつもの我はどうしたの?――ウングード」



「お前と俺の二人きりなら威厳のある態度など必要ないだろう……それに気が立っているからな……続きを言え」



 村長【ウングード】は顔を歪めながら、ピーコフルに先を求める。 

 出会った時からそうであったが、ピーコフルのペースに、ウングードはいつも乱されていた。

 その歩調に腹が立つことも多かったが、不思議とピーコフルとは馬が合った――正確には、ピーコフルの手腕のおかげで、このような関係が維持できていることをウングードは理解していた。



「あの子は年齢的に、精神が未熟……こう言った状態で下手に抑制すればかえって感情を爆発させ、力が暴走する可能性があるわ…村が壊滅する危険性を考えれば外に出した方が賢明でしょう?」



「それに関しては俺や村の者でケアをしていくつもりだった……」



「あの年齢のレディーは意外とヒステリックなところがあるものよ……私も若い頃に家柄の関係で束縛されそうになった時に家を飛び出したから、あの子の気持ちは良く分かるの」



「……」



 女性の感性が分からないウングードは何も言い返せなかった。

 ピーコフルは、ウングードを納得させる為に新たに言葉を紡ぐ。



「さっき言った通り、トレンは閉鎖的な国だからサンドラスが竜であると露見する可能性は低いわ……それに知り合いに事情を当てた手紙も書いたから、サンドラスから手紙が渡れば大丈夫よ」



「知り合いか……お前が故郷を離れてどれだけの時が経ったと思っている」



「心配しなくても戦争の時にテレビで知り合いの顔は何人も見たわ……特に愛弟子が居る場所は分かっているから、そこに送ったつもりよ」



「本当に本人なのか?……お前はまだしも普通であれば……」



「師が弟子の顔や仕草を見間違えるはずがないでしょ?……理由は不明だけど、あの子も【永い時】を生きる術を持っていたみたい……まあ、あの子は異質中の異質だから私としては納得ね。けれども安心していいわ。あの子はいい子だからサンドラスを悪いようにしないはずよ」



 ピーコフルは、故郷に置いてきた弟子の顔を思い浮かべる。

 本来であれば、【もう会うことはない】と思っていた弟子が生きていたことは二十年前のピーコフルにとって衝撃であったが、戦争があった以上は下手に動けず気づけば弟子が生きていた真相を探求出来ないまま二十年が経っていた。



「そんな不確定な理由で…全くお前は……(しかし、サンドラスの精神が不安定になり渡りの力が暴走する可能性があったのも事実……ピーコフルの意見を完全に否定はできないか…だが……)」



「サンドラスの精神を安定させる為に外に出し、竜であることがバレないように閉鎖的な場所と頼れる者の所に送り、事情を記載した手紙も書いた……これなら問題はないでしょ?」



 ウングードは、無音のため息を付きながらも無理やり自身を納得させた。

 ウングードとしては、サンドラスが送られた場所を聞き出して連れ戻すつもりであったが、強引ながらも筋の通ったピーコフルの理屈に気づけば黙らされていた。

 しかし、ウングードは同時に問題点があることを思い出し、ピーコフルに問いかける。



「確かに一見すれば問題ないな――サンドラスが手紙に気づけばな」



「あっ――そうだったわ!!」



 ピーコフルが思い出しかのように空を見上げて叫ぶ。

 それは、ピーコフルが今回の騒動で起こした唯一の失敗であった。



「俺が来るのを察知して【渡りの力】で急いで空間を開きサンドラスを送ったようだが、あの時のサンドラスの意識は手紙にいく余裕がなかったはずだ……見知らぬ場所に送られて、手紙の存在に気づく余裕があるのか?」

 


「ポ、ポケットに突っ込んだから何とか気づくでしょ。サンドラスは賢いから……一応、連絡するようにも書いたから、連絡がなければ私が直接出向くとするわ」



「……」



 再び無音のため息を付いたウングードは、ピーコフルと同じように一度空を見上げ目を閉じる。

 サンドラスよ、強く生きよ――サンドラスに訪れるであろう困難に対し、ウングードは静かに祈るのであった。


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