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竜砂少女は世に立つ  作者: 由喜坂由樹
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竜砂日記3 圧倒的な差

「行きますよ――砂竜砲!!」



「(渡りの力で砂を球体に形成……圧縮した砂の塊は砲弾と言っても差し支えない……けれど)」



 サンドラスが地面の砂に手を触れると、砂は瞬く間にバスケットボール程の球体に変質する。

 渡りの力を受けた砂の球体は宙に浮き、サンドラスの次の指示を待つように静止――直後にサンドラスの一言を受け球体は凄まじい速度でピーコフルに発射される。

 当たればただでは済まない砲弾に対し、ピーコフルは表情一つ変えずに態勢を低くし、少しだけ体を後ろにねじる。



「なっ!?――がっ」



 まるでばねの様にピーコフルは一瞬で砂を蹴り加速し、サンドラスの一撃を黒剣で切り伏せる。

 あまりの流れの速さにサンドラスは驚愕――棒立ちになるサンドラスの隙を、ピーコフルは見逃さない。

ピーコフルは、その速度を維持したままサンドラスの懐に潜り込み、腹部に人とは思えない程の威力を誇る蹴りを入れる。

 サンドラスの体は吹き飛ばされ、鉄の柵へと容赦なく叩きつけられる。

 今まで味わった事がない衝撃に、サンドラスは胃が逆流するかのような痛みと不快感に襲われ、胸元を抑え必死に耐える。

 ピーコフルは、教え子たる相手を叩き伏せたにもかかわらず、涼しい顔を浮かべ口を開く。



「渡りの操作は人間である私が見ても大したものね……だけど、強大な力は際立つ程に対策は容易になるのものよ……訓練をした時に、きちんと教えた【技】を使いなさい」

 


「ぐっ……まだまだ!!――砂竜槍」



「はぁ……話を聞かないなんて強情ね」



 サンドラスはピーコフルの忠告を聞かずに、再び地面の砂に手をかざすと地面の砂は鋭利な槍とも棘とも取れる形に変容し、一メートルを超える槍は次々と形成され、波のようにピーコフルに押し寄せる。

 これは、サンドラスが渡りの力を戦う為に試した力の中で一番の攻撃範囲を誇る。

 人だろうが魔物だろうが空に逃れる手段がなければ防御したとしても物量で押し切る事が出来る。

 砂竜砲を放った際のサンドラスはピーコフルの急所を避けるように放ったが、先の痛みで余裕が消え失せたサンドラスの一撃は人であれば命を奪いかねない威力となっていた。

 ただし、それでもピーコフルの余裕は崩れない。

 彼女は知っている――戦いの世界とは目に見える巨大な力で制せる事ができる程、甘くないと言うことを。



「――脆いわ」



「砂竜槍の生成が追い付かない!?」



 槍はピーコフルの剣技によって次々と元の砂へと崩れていく。

 目に留まらぬ剣捌きは、美しい踊りを目にしているかのようにサンドラスを釘付けにする。

 美しく、派手で静か、緩やかに見えて、速い――ピーコフルの完成された技はサンドラスの思考に矛盾を生じさせ、気づけばピーコフルはサンドラスの首元に黒剣を置いていた。



「普段から貴方に護身術は教えているでしょう?……この技だって初見ではないでしょうに」



「……実践で目にするのは初めてですよ……(確かに普段から、護身術は教えてもらっていた……けど、本気の戦いだとここまで凄いなんて)」



 ピーコフルが竜たちに教えた技は、人が扱う護身術と言えるものだった。

 護身術は、正しい体の使い方、力のかけ方を知らなければまともに機能しない。

 故に、竜たちにとっては強大な自身の肉体の制御を磨くのに適した訓練でもあった。



「実践をやると、この場所がもたないからね……さて、まだ続ける?」



「私は外の世界に行くと決めてます――まだ諦めきれない!!」



「……ふぅん」



 首元に押し付けれら剣を払う為にサンドラスは腕をしならせ手首を狙う。

 そして、手首に一撃を受けたピーコフルの剣は、宙に舞い地面の砂に落ちる――ただし、一撃を当てたと感じたのはサンドラスからの視点。

 実際は、ピーコフルは当たると同時に手首を後ろに逸らして威力を軽減していた。

 剣を持とうと思えば持てた筈であるが、あえて捨てたのは同じ土俵で戦う意思表示でもあった。



「いいわね……中々に鋭い威力ね」



「舐めないで下さい……当たりさえすれば!!」



 サンドラスがピーコフルから学んだ体全体を使い腕をしならせる徒手空拳を、ピーコフルは全て防御する。

 竜たるサンドラスが放つ剛力は、通常であれば人間の体を容易く破壊してしまう――にもかかわらずピーコフルは、無傷でサンドラスの技を捌いている。

 竜と人であるが、そこには圧倒的な経験の差と技術の差があった。



「技は悪くないけど、もう少し頭も使いなさい……ごめんだけど――これで終わりにするわ」



「――!!」



 言葉と共に、ピーコフルはサンドラスの頭を鷲掴みにして地面に叩きつけた。

 サンドラスが何とか抜け出そうともがくが、人とは思えない力がサンドラスを拘束し、動きを封じる。



「村長の言う通り貴女は、まだまだ未熟……だから、腕を磨いて来なさい……詳細は――あっ」



「な、なに……体が!?」



 地面にいたサンドラスだったが突如として体は砂の底へと沈むような重力から解放された感覚に襲われる。

 最後に見たのは、ペロリとした舌を出して申し訳なさげに笑うピーコフルだった。

 そして、小さくなっていくピーコフルの姿が消え、サンドラスの意識は暗い奈落へと落ちていった。

 

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