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竜砂少女は世に立つ  作者: 由喜坂由樹
12/18

竜砂日記12 竜の一撃

「……」



「苦痛を微塵も感じさせない佇まい……驚いたね」



 立ち上がったサンドラスから呼吸の乱れは見られない。

 ヒルファンドは、立ち上がること自体は期待していたが、息を切らし痛みに震えた満身創痍を予想していた。

 今のサンドラスの瞳、佇まいは長く戦い続けたヒルファンドからしても強者の立ち振る舞いを感じさせた。

 実際は、サンドラスの体に蓄積されたダメージは消えずに残り続けているが、サンドラスは痛みを忘れる程にヒルファンドに集中していた。

 


「私は負けない……例え貴方がどれほど格上だろうが……負ける訳にはいかないの……(触れればあらゆるモノを操作できる渡りの力で、ヒルファンドの霊力の壁を突破しようとしたけど、顔面を捉えた時に容易に受け流されて渡りの力を使えなかった……渡りの力を使う余裕がないなら、記憶の中のピーコフルさんに懸ける!!)」



「……(ああ、何でかな……あの眼、あの人にそっくりだ……あの人に似ていたからサンドラスちゃんに、ここまで意地悪しちゃったんだろうな)」



 目を閉じれば思い出すヒルファンドにとって大切な記憶。

 記憶の中の、【師】と呼べる人物にサンドラスはよく似ていた。

 負けず嫌いで、曲がったことを許さない高潔な師は、ヒルファンドにとっては崇拝の感情すら抱かせた。

 師の姿が今のサンドラスと重なったヒルファンドは、サンドラスの闘志に応えようと思った――国の治安を護る軍人としてではなく、純粋な武道家として。



「……いいよ、ここからは無粋なことは止めようかな。私の最も信頼する【肉体の力】と【武の技】で戦うよ」



 ヒルファンドが両手を叩くと辺りの結界は消失する。

 結界など言う拘束はこの戦いにとっては邪魔でしかない。

 サンドラスの本気に対して向き合うなら、ヒルファンドも余計な技を維持することは無礼であると確信したからだ。

 ヒルファンドは、防御の構えを取るサンドラスに駆け、右手の拳から先制を仕掛けた。



「――はッ!!」

 

 

「流す!!」


 

 ヒルファンドが操る体に回転と遠心力を加える戦闘武術。

 血肉、骨の全てを頭と体で完璧に操作し、肉体全てを一つに纏めて放つ一撃は、あらゆる物質を削り、破壊する破壊拳となる。

 対するサンドラスは、体を回転させ水のごとく攻撃を受け流す防御の技。

 ピーコフルから教わった護身術は、あらゆる攻撃を体の全てを纏め回転で受け流す、ヒルファンドの操る武術と対になる防御術である。

 二人の技が奇しくも、同じ回転を軸に置いている理由に二人は興味を示さない。

 ヒルファンドは、戦いに対する高揚感。サンドラスは、村を護るための使命感。

 二つの感情は、戦いに対する情報以外を完全にシャットアウトしていた。



「本当に凄い――その若さで、私の連撃を止められる存在はエクスくらいだと思っていたよ!!……さっきより、明らかに技の精度が上がっているかな!!」



「……くっ!!(まだだ……まだ隙が見えない)」



 ヒルファンドの連撃を辛うじて受け流すサンドラスと喋る余裕があるヒルファンドとの差は、やはり大きい。

 そして、ヒルファンドの一撃がサンドラスの防御を僅かに崩し、地面の砂に手を付けさせた。

 態勢が崩れたサンドラスに連撃の雨が降り注ごうとした時、サンドラスは冷静に手に力を込めていた。

 


「……砂竜槍!!」



「……無駄!!」



 サンドラスは咄嗟に砂を操作し、技として砂竜槍を生み出す。

 ヒルファンドは、回転を活かした右手で砂竜槍を握りつぶそうとする。



「……そこ!!」



「(砂はフェイク!!……目が……!!)」



 砂を握りつぶした瞬間、硬質化していた砂が柔らかく弾け飛びヒルファンドの目に付着する。

 砂竜槍がヒルファンドに効かないことを理解していたサンドラスは砂竜槍の砂が、ヒルファンドに潰されると同時に視界を奪うように仕向けていたのだ。



「……これで決める!!」



「……!!」



 ヒルファンドほどの達人を相手に、絡めて手は何度も通じない。

 サンドラスは、一呼吸と共にピーコフルが行った衝撃を後ろに伝える技を記憶から読み取り穿った。

 視界が戻ったヒルファンドは、左手で防御するが衝撃を流す技の前では防御は無意味。

 例え体が霊力で強化されていたとしても、竜の一撃をもっとすればヒルファンドの霊力の壁すら突破は可能である。

 


「よし!! 手応えあっ……えっ?」



「……まさか、その技を使えるなんてね」



 手から伝わる確かな手応えを確認しようとヒルファンドの顔を見ようとした時だった。

 サンドラスの腹部に、ヒルファンドの右手の手刀がめり込んでいた。

 ヒルファンドが、腕を引き抜くとサンドラスは力なく地面に倒れ込んでしまった。



「なん、で……立てな…い…の?」



「私は医者でもあったから、人体の構造は完璧に把握しているかな。今のは体の動きを麻痺させる経穴を突いたかな……起き上がれないのは当然だとしても、喋れるのは大したものだよ」



「…完…璧…に…決まっ…た…のに」



「確かに決まっていたよ……その証拠に」



「!!……義手」



 ヒルファンドの左手から異様な金属の軋む音がなる。

 ヒルファンドが右手を左手に当てると、左の腕はぼとりと砂へと落下した。

 精巧に作られているが、ヒルファンドの左手は血が通っていない仮初のものであった。

 思い返せばヒルファンドが攻撃を行うときは必ず右手から入っていた。

 左手が義手であることを、サンドラスに悟らせないようにすることが狙いであり、さらにはサンドラスがピーコフルの技を使用することを最初の一撃の時点で考慮していたのだ。

 


「衝撃が体に流れていく前に、義手の接続を切り離したよ……流石に危なかったかな…けど、裏拳を放った時に使っていれば結果は違ったかもね……最も、裏拳から衝撃を伝達させるのは体の動きの関係上、とても難しいから今の貴女の練度だと厳しいかな」



「くっ……私、の技を、読んでいたのね……(早く動け…動け私の体!!)」



「可能性は考慮していたよ……本来なら十分は動けないのに、もう回復しかけているね……貴女との戦いは楽しかったけどそろそろ軍人に戻らせてもらうよ……まずは動きを止めるために――両足は折っておくかな」



「!!」 

 


 痺れが回復していないサンドラスにヒルファンドの手刀が振り下ろされた。

 これから襲い来る痛みにサンドラスは目を瞑ってしまうが、痛みは一向にサンドラスには来なかった。

 何故なら彼女の目の前には一人の少年が、庇うように立っていたからだ。


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