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竜砂少女は世に立つ  作者: 由喜坂由樹
1/18

竜砂日記1 始まり

「今日も変わりない一日……けど【外】に出たらもっと色んな体験ができる」

 

 見渡す限り砂色で染まった何もない夕暮れの砂漠の世界。

 長い黒髪を揺らす少女は空に向け、虚構に景色を思い浮かべ希求する。

 少女の名はサンドラス・フレンフード。この地に古くから住まう『人ならざる者』の一族の一人。


「そろそろ戻ろう……村長からの呼び出しは絶対だし」


 面倒だと思いつつ彼女は高揚感を隠せない。

 今日は十八歳の誕生日の前日。村のしきたりにより若い少年少女は十八歳の年と共に、この閉鎖的な砂漠の世界より外に出向き学を積み、自身の成りたい職を見つける事が村を統べる村長の言葉によって許される。

 狭い砂漠の世界から新たな世界に旅立てる事を子供の頃から夢見ていたサンドラスは期待を胸に村へと戻る――だが村に戻った彼女を待っていたのは予想外のものだった。


「……え?……今、何と?」


「村の者たちで話し合った結果だ……サンドラス、お主を外に出すのは中止とする」


 白髪を後方に束ねた白い装束を着る筋肉隆々の褐色の老人である【人ならざる者の頂点に立つ村長】はそう告げる。

 サンドラスは動揺を隠せず、村長は諭す様に理由を述べる。


「我らは砂漠を生きる【渡りの竜】……長い時の中で我らは竜の姿を捨て人に成り、種族を存続させる為に力を抑え慎ましくも数を増やし生きている……身体能力こそは常人の四倍から十倍はあるが一般的にはそれだけだ…力を小さな体に凝縮した弊害として寿命は人より少し多いくらいではある……とは言え竜としての歴史と竜としての誇りは枯れる事なく受け継がれている」


「その話は耳にたこが出来るほど私も村人も聞きましたよ…と言うか村長は人となる前の時代から生きている本物の竜ではないですか」


 約百人前後が暮らす村は砂漠の中にあるが砂漠の先にあるピラミッドや遺跡が観光名所であり、同時に観光者を宿泊させる施設がある為、ライフラインが完備されており暮らす人たちも、見た目は普通の人間と変わりない。

 しかし、彼らは種族としては人を超越せし竜であるのだ。

 かつて特定の住居を持たずあらゆる世界を渡る竜であった彼らはその習性の為、渡りの竜と呼ばれた。

 だが、竜であるが故の人など比にならない獣性に悩まされ数を減らしていた。

後に彼らは自らの滅びを回避する為に、竜の姿を捨て人に成った。

 人と成った竜たちから獣性を制御し、また新たに生まれた竜も人の形で生まれ獣性を抑える事に成功した。

 人と成り長い時が経った竜の一族であるサンドラス達は一部の力を除けばもはや人と言っても過言ではない。

 今の村人の大半はサンドラスと同じく短い時を生きる竜の人である。

 最も目の前にいる村長や一部の村の竜は、人となる前から存在した原初の渡りの竜であるのだ。

 才能も力も知識も桁違いの村長たちは自身の力を制御し、悠久とも言える時代を生きている。

 その村長が何故、何度も聞かされた話をされ自身の希望を妨げるのかサンドラスには理解ができなかった。


「竜の姿を捨てた我らの中には我らが竜であった頃の【渡りの力】に目覚める者がいる…サンドラス、お主もそうだ」


「渡りの力……触れた対象を自由自在に操り自身に取り入れる事もできる力…私たちが人に成れた要因」


 渡りの竜はただの竜ではない。

 竜でありながらも極めて特異な異能を持ちわせている。

 その力を使い人に触れた事で竜は人へと変化した。

 渡りの力は村人全員ではないが、一部の才能ある村人は扱う事ができる。

 サンドラスもその一人である。


「普段のお主は砂を体に纏い肌が日に晒されるのを防いでいる……その程度の操作なら何も問題ない……しかしお主、村の外で戦いを想定して力を使ったな?……それも一度や二度では済まない数を……」


「そ、それは……」


「我はその事を深く禁止している……理由は分かるな?」


「竜の力に飲まれ力を暴走させる危険性がある為です……」


「そうだ……そもそも我らが砂漠に住まうのも無暗に人の目に触れない為だ。力を扱えば人として生きていく事が厳しくなる。そんな我らがリスクを冒して外の世界に定期的に行くのは人の生き方を学ぶ為だ。そして外の世界に行く者たちを我らが一人一人見極めるのも、その危険性を考慮した上だからだ」


「勝手に暴力的に力を振るってしまった事は謝罪します……しかしながら私は力を制御できています……だからお願いします、私を……」


 ならん――村長の言葉がサンドラスの懇願を切る。


「力を支配する以前の問題ではない。我はお主が力を純粋な力をして扱う所を何度も見てきた……その時のお主は笑っていた」


「笑っていた…?」


「その様子だと自覚なしか……お主は力を扱う事を楽しんでいたのだ……かつての我らの一族は様々な派閥があった。調和を目指す者、平穏を求める者、力で全ての生物を屈服させる者……力で屈服させる者は他者を屈服させる以上に力を振るう事に喜びを感じおった……その時の者たちの顔とお主の顔はあまりにも似すぎている」


 村長は過去を想起する。

 サンドラスが村の外で力を振るったのを止めなかったのは、かつての暴力的な仲間の面影を感じ、見極める為だった。

 その後、力を振るう事を楽しむ姿がサンドラスから垣間見えた時点で村長はサンドラスを外に出すべきでないと結論づけた。


「だから私を外に出さないと?」


「そうだ……似ているからだけでと言うなよ?……我は長い時を生きる竜だ。過去の経験で、お主が外に出ればその力を暴発させ被害を出すことが目に見えて分かる…今は精神が成熟するのを待て……精神が大人に育てば再び外に出すことを考える」


 サンドラスは反論の言葉を紡ごうとするが、村長の威圧感に押され言葉が出ない。

 同じ竜であるが、存在としては圧倒的に格上。

 サンドラスは本能で理解した――今の村長には自身の言葉は届かないし、自業自得の自身が言葉を紡ぐ権利などありはしないと。

 サンドラスが失意の中で村長の家から出た時には夕暮れは夜へと変わっていた。

 月が隠れ曇った空は今のサンドラスの心情を表すようだった。


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