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消極男の悲秋暦  作者: 青色蛍光ペン
4/19

4:作戦開始

「いやー、それは傑作だな!」


科学部に無理やり入れられた次の日の昼休み、その日の出来事を聞いて吉川は笑いが止まらない様子である。


「…何もそこまで笑う事ないだろ」


「あの川中が、秋月さんと2人で部活動に入れられて、おまけに2人でカフェで作戦会議だろ? おまけにその内容は…、まぁそれはここでは大きい声で言えないか」


いくら昼休みで教室が騒がしいとは言え、2人の会話が誰の耳にも入らない保証などない。それが分かっている上で話を切った吉川はやはり根は良い奴なのである。


「そもそも全部お前のせいだろ。面談で相良先生に何言ったんだよ」


「それは言えないな。でも秋月さんのこと話したのはちょっと悪い事をしたな。なんか巻き込む感じになったみたいだし」


「あー、それは気にしなくてもいい。なんか楽しそうだったし。むしろ俺に謝罪しろ俺に」


「何言ってんだよ、むしろ感謝して欲しいぐらいだ。秋月さんと2人でカフェで話せたんだろ?」


「…本当に事情分かってんのか?」


「ごめんごめん、事情はちゃんと分かってる」


川中が不機嫌そうになってきたのを見て、吉川はからかうのを一旦中断する。本当に人の感情のコントロールが上手いやつだな、と感心半分呆れ半分の感想を抱く。


「そういえばその呉本だけど、軽音楽部と一緒に文化祭でライブをやるらしいぞ」


「ライブ? 呉本は楽器ができるのか?」


「いや、軽音楽部に頼んで1からギターを練習してるらしい。それを文化祭でお披露目なんて青春って感じだよなぁ」


「なるほど…、な」


思わぬ情報に川中は持っていたペンの先を机にコツン、と軽くぶつける。呉本がギターを練習して文化祭でお披露目。この情報は使えるかもしれない。


「その顔、何か企んでるな?」


川中の仕草を見て、吉川がニヤニヤと笑いながら問いかけてくる。会話の流れもあってその内容が件の作戦についての事である事は明白である。


「まぁな。お前の無駄話のおかげで作戦は決まった」



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


授業中川中が頭の中で色々と作戦を練っている内に、あっという間に放課後になる。実験室の鍵を持つ川中は真っ先に実験室に向かい、机に座ってのんびりと窓の外を眺めていたりした。


「あ、やっぱり先に来てたんだね」


ドアが開く音と共に秋月の声が川中の耳に入ってくる。顔をドアの方に向けると、そこには秋月だけではなく吉川の姿もあった。


「へぇ〜、実験室ってこんな感じになってるんだな」


「なんでお前まで居るんだよ」


「川中が科学部ってのに入ったって聞いたらどうしても気になってな」


話しながら吉川は秋月に続いて部屋に入り、周囲を見回す。


「なるほど、まさしく化石って感じだな」


「化石? 何言ってんだお前」


「科学部は2年前までこの学校に存在してたらしいんだ。だからここの部屋は多分2年前の形のまま放置されてる。シーラカンスとかカブトガニと同じ生きた化石ってやつだ」


「…よく分からんが、相良先生から聞いたのか?」


「いや、ちょっと風の噂でな」


吉川は無駄な知識に関してはこの学校全体を見てもトップクラスだろう。川中は呆れ顔だが、それを聞いていた秋月は素直に驚く。


「へぇ、じゃあ私達が入学するのと入れ違いで無くなっちゃったって事だよね。知らなかったなぁ」


「雑学とかこの学校の秘密とか知りたかったらいつでも声かけてくれよ」


吉川が得意げに話していると実験室の扉が開き、相良が姿を表す。


「ん、確か君は…、吉宗君、だったか?」


「いや吉川っすよ。川中が部活に入ったって聞いて気になっちゃって来てみたんですよ」


「ふむ。まぁ川中と秋月以外の部員を入れるつもりは無いのだが、遊びに来るのなら大歓迎だ」


「そういうことならまた遊びに来ますよ。じゃ、これ以上居ても初部活の邪魔だろうから俺はそろそろ帰らせてもらうぞ」


「は? おい待て…」


川中が呼び掛けるのを無視して吉川はひらひらと手を振って部室から出て行ってしまう。一瞬実験室に沈黙が流れるが、相良が手をぱん、と合わせて話し始める。


「さて、今日から君たち2人と科学部を立ち上げるのだが、自己紹介…、はしなくても大丈夫そうだな。じゃあ活動内容について話していくぞ」


相良は話しながら白衣のポケットからメモ帳を取り出してパラパラと捲り始める。


「とりあえず私は11月の修学旅行直後まで教育実習生としてこの学校の世話になる。それまでのイベントとしては文化祭と修学旅行を挟む事になるのは君達も知っているはずだ」


「なるほど…な」


秋月は首を傾げたまま話を聞いているが、川中には既におおよその話の内容が掴めてしまった。


「君たち2人には、文化祭と修学旅行の特別な準備を担ってもらう。…とは言っても、何も責任重大な仕事を押し付けるわけではない。食材の買い出しや後片付けのような雑用を任せるだけになるだろうな」


「うーん…、別に私はいいですけど、なんで私と川中君なんですか?」


「君たち2人が暇そうだったからな。あと、君たちにはお互い因縁があるのだろう?」


因縁、というのは恐らく呉本の件の話だろう。そして秋月は知らないだろうが、川中が秋月に抱いている想いもその因縁の中に含まれているに違いない。


「君たち2人になれる時間を作った方が作戦も進みやすいかと思ってな。お節介だったとしたら悪いが、もう仕事は最後までしてもらう」


「強引だ」


「これが私のやり方だからな。ところで、クラスの生徒たちからは文化祭の出店で焼きそばをやりたいけど他との被りがどうたらこうたら、みたいな話を聞いたのだが、そこらどう考えているのかね」


「それなら大丈夫ですよ。焼きそばホットドッグ、他のみんなに話したら結構絶賛でね、多分それに決まるかも。焼きそばやれるし他とも被らないしで最高ですよ」


「焼きそば…ホットドッグ? 実にユニークな物を考案するのだな。君の案なのか?」


「いや、昨日川中君に相談したら考えてくれたんですよ」


秋月の言葉に釣られて相良は川中の方を向き、ふ、と笑みを浮かべる。


「君はそういう事に興味は無いのだと思っていたのだがね」


「…あんなもん考えた内にも入らないですよ。で、結局俺たちは何をしたらいいんだ?」


「うむ、とりあえず焼きそばホットドッグとやらについては次のロングホームルームの時間にでも決まるだろう。で、君達には材料の買い出しと、文化祭終了後の作業の手伝いをしてもらう。買い出しは強制だが、後者については任意で構わない」


「って事は、今のところは何もやる事は無いんですね」


川中は相良の言葉に面倒臭そうに返答して立ち上がる。腕時計を確認すると時計は5時過ぎを指している。まだ部活が始まってそんなに時間は経っていないが、サッカー部の部活がいつ終わるかわからない。行動は早過ぎるぐらいがちょうどいいのだ。これから川中が何をするのか察したのか、緊張した表情の秋月と一瞬目が合うが、川中はすぐに目を逸らして相良に向き直る。


「今日はこの後用事があるので先に帰ります。いいですか?」


「ああ、そういう事ならば仕方ない。今日伝えたい事は粗方伝えたからな。この後は自由行動という事にしよう」


相良の言葉に無言で頷き、川中は実験室から出る。そのままグラウンドの近くの自販機に寄り、適当にペットボトルのお茶を購入する。取り出し口からお茶を手に取りながらグラウンドを確認すると、ユニフォームを着た生徒がサッカーボールのパスの練習を行なっている。


「…持久戦になりそうだな」


独り言を呟いてその場を立ち去り、正門を出て昨日秋月に聞いたポイントへと向かう。携帯電話を取り出して時間を確認するが、あまり時間は経っていない。電柱にもたれかかり、鞄から文庫本を取り出して栞が挟まれたページを開く。ここから約1時間半、川中は呉本がここを通るのを待つ事になるのだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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