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消極男の悲秋暦  作者: 青色蛍光ペン
3/19

3:モノクロは彩に飲まれる

秋月の依頼を渋々受けた川中は現在部室の掃除に忙しい。いくら箒で床の埃をちりとりに集めてゴミ箱に捨てても、全然床が綺麗になる気配がしない。秋月は秋月で机を拭いたり窓を拭いたりしているが、あちらもかなり苦戦しているようだ。


「そう言えば私たちの共通点ってなんかあるのかな?」


不意に秋月が話しかけてくる。流石に10分近く沈黙が続いていたのが気まずくなったのだろう。


「共通点? なんでまたそんな話になるんだよ」


「ほら、多分私たち以外はみんな科学部なんて誘われてないっぽいじゃん。きっと私たちだけ科学部に選ばれた特別に理由があるんだよ!」


「あー、確かにそれは気になるな」


相槌を打ちつつも、少なくとも川中には心当たりがあった。最初の相良の質問がキーになっていたに違いない。とは言っても川中だけは最初からマークされていたような気がしてならないのだが。


「最初の相良先生の質問、あれが鍵なんだろ。ちなみに俺は恩師は居ないって答えた」


「え、私は普通に中学2年の時の担任が恩師って答えたよ? テスト前の自習の時間とか1人1人に時間使って教えてくれたなぁ」


「過去の記憶に浸ってるところ悪いが、二つ目の質問はどう答えたんだ?」


「え、あー、確かみんなと仲良くすること、って答えたかな」


小学生かよ、と頭の中で突っ込みを入れながら川中は考える。どれだけ甘く見ても川中の答えと秋月の答えは似つかない。だったら残る答えは一つしかない。


「吉川、本当に覚悟しとけよ…」


吉川だけは川中が秋月に好意を抱いている事を知っている。川中の事を思ってかそれを他の人に言いふらすような事はしていないため口が硬い奴だと思っていたが、この状況を見るにどう考えても吉川が相良に報告したとしか考えられない。元々マークしていた川中の友人である吉川から情報を集め、川中が好意を抱いている相手に繋がった、と言った所だろうか。つまり川中が秋月に好意を抱いていなければここにいるのは川中1人だけだったのかもしれない。一方秋月は、突然呟いた川中に軽く引きながら言葉を返す。


「そ、そういえば川中君はなんて答えたの?」


「…面倒事を避ける事」


「あぁ…、なんかその、ごめんね?」


川中の言葉に申し訳なさそうな表情を浮かべる秋月。現に今川中は面倒事に巻き込まれているのを見て心を痛めたのだろうか。しかし、彼女は悪くない。全ては相良が元凶なのだ。明日改めて文句を言ってやろう、と心に誓う川中に秋月が話しかける。


「まぁほら、私の依頼が終わったらなんか奢ってあげるからそれで許して?」


片目を瞑って両手を合わせる秋月の姿を見て川中の心は沈み込む。自分が想いを寄せる相手が目の前にいて、その相手から依頼をされている。しかしその頼み事は秋月が想いを寄せる相手の調査。何を間違えたら平穏な生活を求める一般男子高校生がこのような目に遭うのだろうか。複雑な感情が頭の中をぐるぐると回るが、川中は必死に表情を保ちながら言葉を返す。


「い、いや、別にそんなのいらないし…。ほら、そんなことよりもうそろそろ帰らないか? 十分部室として使えるぐらいにはなっただろ」


実験室の中を見渡すと、最初に比べるとそこそこ綺麗になった机や床、曇りが取れた窓が目に入る。ここでなら活動も可能だろう。もっとも、その活動内容は知らされていないのだが。


「うん、そうだね。別に今日から活動開始じゃないから少しぐらい早く帰ってもいいよね」


笑顔で言葉を返して箒を片付けて鞄を持った秋月は実験室の外に向かって歩き出し、ドアから出て川中の方をじっと見つめる。少しの間黙って無視して帰り支度をする川中だが、ずっと向けられる視線に痺れを切らして廊下にいる秋月に話しかける。


「なんだよ、戸締りなら俺がやっとくぞ」


「え? 一緒に帰らないの?」


「あー、なるほど、な…」


どうも秋月と話していると調子が狂いそうになる。吉川のような例外を除いて極力人との接触を避け、面倒事に関わらず、自分の満足いくだけの学力をつけ、平穏に高校生活を送る。そんなライフスタイルの川中にとっては今廊下でわざわざ川中の事を待ってくれている秋月の行為一つとっても、新鮮で奇怪なものに感じる。

帰り支度を終え、カバンを持って実験室から出て鍵をかける。そういえば鍵は職員室にでも返しておいた方が良いのだろうか。そんな川中の脳内での独り言を読み取ったかのように秋月が口を開く。


「その鍵、私達が管理するんだって。多分私無くしちゃうから川中君が持っててくれないかな?」


「お、おぅ、別に構わないが…」


全部押し付けるじゃんこの子、と口を滑らせかけるのをぐっと堪え、実験室の鍵をポケットに突っ込む。今日は早いところ帰宅してさっさと寝よ、と一人早足で歩き始める川中の腕を、秋月がぐっと掴む。


「ちょ、どこ行くの?」


「どこも何も、帰るんだろ?」


「え、作戦会議やらないの?」


「え…?」



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


落ち着いたBGMが流れている店内の隅の席で、川中はカップに入ったココアを口に含む。優しい甘さが口の中を満たしてくれるが、払った金額と照らし合わせると正直満足行くものではない。一方、正面に座っている秋月はクリームがたっぷり乗ったなんたらチーノを美味しそうに飲んでいる。飲み物の名前は忘れた。よくもあんな呪文を詠唱するようなメニューをすらすらと店員に言えるものだ、と変な関心をする。

結局学校を出てしばらく歩いた場所にあるカフェで作戦会議とやらをする事になったのだ。どうやら秋月にとって帰りにカフェに寄る事は「帰る」という行為の中に当てはまるらしい。


「本当に私が奢らなくて良かったの? お金払う時もったいないって顔に出てたよ?」


自販機ならば同じ量の飲み物を2つ買えるのに、とお金を支払っていた川中の考えは秋月に筒抜けだったらしい。最初は秋月が「無理やり掃除に付き合わせたお礼」と川中の分までお金を出そうとしていたが、流石にそれは受け取れない、と丁寧に断ったのだ。


「い、いや? カフェってやつに慣れてないだけだろ。多分」


話しながらカップを持ち上げる川中の手はプルプルと震えている。そもそも人生で一度も来たことのないカフェ、高級な飲み物、そして目の前にいるのは吉川ではなくて秋月。全てがイレギュラーの状況に川中の頭は既に処理が追いついていない。


「あはは、川中君って面白いよね。じゃ、そろそろ作戦の話しよっか」


「別に面白くなんかないだろ。で、作戦って言うからには何かやり方があるのか?」


「うーん…、川中君は何かある?」


一呼吸分の間を置いて秋月が逆に聞き返してくる。やはり何も策はないのか、と呆れながら川中はため息混じりに答える。


「まぁ、普通に直接聞くのが1番なんじゃないか? 変に詮索してバレても怖いし」


これから行おうとしていることは別に呉本が隠したいことを暴くようなものではない。だったら別に隠れてこそこそ調べる必要など無い。


「で、そうなると必要なのは呉本と2人きりになれるタイミングだ。何か心当たりはあるか?」


「もちろんあるよ。部活動が終わった後呉本君は途中まで友達と下校するんだけど、正門を出て右に真っ直ぐ向かって、4つ目の角で友達と分かれて左に曲がるから、呉本君が1人になるのはその時かな」


「やけに詳しいんだな」


ストーカーにも引けを取らない情報に軽い恐怖を感じながら一応メモ帳にその情報を走り書きしておく。


「ま、今はそれだけの情報があればいい。聞き方は後々考えてもいいだろ」


「オッケー! じゃあ次は、文化祭でうちのクラスで焼きそばの出店やりたいんだけど、多分他のクラスとも被っちゃうじゃん? 何か絶対に焼きそばをやれる方法とかないかな?」


話が終わったと思い、カップに残ったココアを一気に飲み干した直後に全く別の話題が降りかかってくる。まだ解放してくれないのか、と軽いため息を吐きながら川中は聞き返す。


「焼きそばが、なんだって?」


「だから、うちのクラスで焼きそばの出店をやりたいんだよ。でももし他のクラスと被っちゃったら抽選になっちゃうんだよね。なんか絶対焼きそばやれる方法ない?」


「なんでそんな焼きそばにこだわってるのか知らないが、そうだな…」


別に川中としては文化祭など1ミリも興味無いのだが、多分クラスで正式に決める前に文化祭楽しみ組である程度決めているのだろう。俺には関係ないんだから巻き込まないでくれ、と断りたいところではあるが相手が相手だ。川中は10秒ほど黙り込んだ後、適当な案を出してみる。


「うちの焼きそばはソーセージを細かく切って入れるんだが、それをあえて切らずに焼きそばと一緒にパンに挟んで焼きそばホットドッグにする、とか?」


「…それめっちゃいい! さすが川中君だよ! 早速明日みんなに話してみよ」


自分でも何言ってるのかよく分からなかったのだが、どうやらお気に召されたようだ。これが万が一正式にクラスの出店の商品になったらさながら参謀か何かである。その後科学部の事や特に意味のない雑談を少しした後、2人でカフェを出る。


「今日はありがと。また科学部でね」


「…分かった」


秋月と別れた後、どっと疲れが体にのしかかる。これじゃまるでいわゆるリア充というやつだ。これまでの平穏が無くなるのを残念に感じつつも、それでいて秋月との時間を楽しく感じていた自分が確かに存在している事も確かである。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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投稿遅れてしまい申し訳ありません。読んでくださっている数少ない方々にはご迷惑をおかけしました。

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