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消極男の悲秋暦  作者: 青色蛍光ペン
19/19

最終話:そして冬が訪れる

「やっと…、見つけた…っ!」


肩で息をする川中の様子を見て呉本は不思議そうな表情を浮かべる。ようやく出会えた2人の様子を見て、何事かと集まっていた人達が1人、2人とその場を離れて行く。そして何事も無かったかのように人の流れが元通りになった頃、呉本が口を開く。


「一体どうしちゃったんだ、川中らしくねーよ?」


一体俺の何を知ってそんな事を言ってるんだ、と言い返したくなった川中だが、らしくない事をしていたのは確かなので言い返すのは無しにすることにした。その代わりに軽く息を整え、一気に言葉を吐き出す。


「話がある。…実は」


「あー! 居た居た!」


川中が話し始めた瞬間、遠くの方から聞き慣れた声が聞こえてくる。その声の主は川中の姿を確認すると急いで駆け寄ってくる。どうやら彼女は川中の後を追いかけてきていたらしい。

秋月は駆け足でこちらに向かって来ていたが、川中と一緒にいる人物に気付く。そしてその人物の正体を理解した秋月が川中達の元に近付くにつれて速度が落ちていく。そして川中の前に到着すると今にも泣き出してしまいそうな表情で川中の目を見つめる。


「川中君、何する気なの…?」


「ちょ、なんで秋月さんがこんなとこにいんだよ。川中、どういう事だ? お前ら友達だったのか?」


呉本は一気に色々な事が起こりすぎていて既に頭がパンクしそうになっている様子である。川中は秋月から目線を逸らし、代わりに呉本の目を見据えて口を開く。


「秋月はお前の事が好きだ。付き合ってやれ」


その言葉を聞いた呉本は驚き、秋月はたちまち崩れ落ちてしい、その瞳から涙がポロポロと溢れ出てくる。


「やだよ…、まだ…、科学部終わってない。…川中君と友達になったばかりなのに」


「そうだ、俺たちは友達だ。もうこんな茶番をするのは終わりだ」


呉本の頭がさらに混乱する。どうしたものか頭が追いつかない呉本は、とりあえずどちらかと言えば冷静な川中に話しかける。


「えーっと、これはなんなんだ。お前が何かやったのか?」


「…そうだ。俺が全部悪い」


「川中君…!」


川中の言葉に何か言いたげな秋月を手で制してさらに話を続ける。


「あの時…、公園で話した時に俺は嘘をついた。あの時既に秋月は呉本に気があったし、俺も秋月に好意を抱いていた。…だけどその後俺の好意が秋月にバレてしまって、それでも俺は気にせず呉本と付き合えばいいって秋月に言ったんだが、秋月は色々手伝ってくれた礼にしばらく俺と付き合う事を提案した」


川中が簡潔にまとめた内容に嘘偽りはない。川中は一息置いて続きを話そうとしたが、呉本が口を挟んでくる。


「ちょ、おい。って事は俺と秋月さんは両思いって事なのか? いやでもそうだとしたらなんで秋月さんはそれバラされて泣いてんだよ」


やはり呉本は秋月の違和感については気付いていない様子だ。しかしそれをいちいち説明する時間もないため、川中は一旦頭の中を整理した後に話を続ける。


「そうだ。呉本と秋月は両想い。でも俺はそれを分かっていながら秋月の提案を受け入れてしまったんだ。だが茶番はもう終わりだ。2人が両想いって事実が発覚した以上、秋月はもう俺に気を遣いながら付き合い続ける必要なんか無い」


そう言い放ち、川中はその場から立ち去ろうと振り返って歩き始める。しかし川中の腕を何者かが掴んで引き止める。その手はふるふると震えているためすぐに誰だか分かってしまった。


「…秋月、もう終わりなんだ。この世界の全員に好かれるなんて不可能なんだ。薄々分かってるだろ」


「それでもせっかく科学部でいつも全然話さない川中君と仲良くなれたのに…、それでも呉本君が好きで、私はどうしたら良かったのかな」


今にも消えてしまいそうな声で助けを求める秋月だが、川中は無情にも秋月の手を振り払い、そのまま全速力で駆け出す。その背中を追いかける者は居なかった。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


結論から言えば、川中の修学旅行は最悪だった。変に騒いだせいで視線は痛いしあの後勝手に班を離れた理由を教員に問い詰められた。そして後に吉川から聞いた話だと、秋月と呉本は無事付き合いはじめたらしい。ちなみに吉川だけはいつも通り笑って川中の話を小馬鹿にしたような態度で聞いていたのだが、川中にとってはそうしてもらえる方が気が楽だったため吉川には内心感謝している。

修学旅行の間秋月と顔を合わせる機会は何度かあった。彼女はその度に笑顔を浮かべてはいたのだが、どう見ても作り笑いである。呉本とも1度目が合ったが、秋月から事情でも聞いたのか、川中を責め立てるような事はしなかった。

そして今現在、川中は実験室で頬杖をつきながら相良に修学旅行での出来事を洗いざらい話していた。相良は実験室に持ち込んだ自分の荷物をまとめながら話を聞いていたが、川中の話が終わったと見て手を止める。


「…まぁこんな所ですよ」


「ふむ、なるほど…。つまり君は私の提案を無視したわけだな」


「そうなるんでしょうかね」


実際は、相良の提案なんてあの時頭から抜け落ちていた、というのが真実だ。それでも相良からすればそう見えるのだろう。


「で、秋月を盛大に振った感想はどうだい?」


「それ、吉川にも聞かれましたよ。そうですね…、正直俺は悪いとは思ってないんですよ」


「ほぅ、なぜだい?」


「説明が少し難しいんですが、俺は秋月の中途半端にぐらぐら揺れていた2つのジレンマの内のひとつを取り除いたに過ぎないと思ってます。その結果秋月は無事呉本とくっつく事ができた。そして今の結末は、秋月が俺の好意に気付かなかった場合の未来と同じ結末のはずです。それは相良先生にとっても都合がいいんじゃないですか」


川中の言葉を聞いた相良は表情に笑みを浮かべる。


「なるほどなるほど。そこまで考えれているなら上出来だ。君は私が見てきた問題児の中でも最も優秀かもしれないな。さて、あの2人がくっついたと君は言っていたのだが、それについてはどう思ってるんだい? 呉本が妬ましくないのかい?」


「別に。…あいつらがどうなろうと俺には関係ないですよ」


「君は最後までそれだな。まぁその感じだとこの先も大丈夫だろう。でも川中、今回みたいに何かに巻き込まれる機会はこれから先生きていく中でたくさんあるはずだ。全てから『俺には関係ない』って逃げ出せる保証はどこにも無い。その時に今回の騒動の経験が活かされることを祈るよ」


「なんか、教師みたいですね」


「当然だ。私は最初から最後まで君の恩師だ」


相良の実習の期間は修学旅行直後まで。つまり今日この荷物整理が終わってこの学校を後にした途端彼女は一旦教師では無くなるのだ。その後数分ほど相良と川中は話をしたが、それが終わると相良はあっさりと学校を後にした。相良も川中も見送りなんて必要なかった。あの様子だとまたいつか不意に再会するだろう。2人ともそんな気がしていた。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「その感じだと本当に今日で終わりらしいですね」


四季高校の正門を出た直後、相良は後ろから声をかけられる。相良が振り返るとそこには木山が塀にもたれて立っていた。


「…なんだ君か。わざわざ待っていてくれたのかい?」


「今日が教育実習最終日って風の噂で聞きつけましてね。川中…でしたっけ。あいつの結末を聴きに来た」


「ふむ、それは構わないのだが外は冷える。近くのカフェにでも入ろうか」


木山は相良の提案に賛成し、2人で学校の近くのカフェに入って各自飲み物を注文する。そのカフェは新科学部結成初日に川中と秋月が行ったカフェなのだがそんな事を2人は知るはずもない。川中達は席に座り、相良が木山が来なくなった後の事、主に修学旅行の事を木山に伝える。


「…なるほどな。結局我慢できなくなったわけだ」


「全く、君みたいな鋭い人間とは付き合いたくないものだね」


木山が言っているのは水族館で相良が川中に対してクマノミとイソギンチャクの共生関係について説明した部分である。相良は木山の前では傍観者を貫くと言ったものの、最後の最後で川中を刺激したのだ。


「で、思ったように手のひらで転がせたのか?」


「愚問だね。何かしらアクションを起こすだろうとは予想していたが、案の定川中は私の想像を超える規模でアクションを起こした」


相良はコーヒーカップの中で湯気を躍らせているコーヒーに口をつける。心地良い苦味が口に広がる。


「君達みたいな変わり種を思い通りにコントロールするなんて、私のような並の人間には無理な話さ」


あの時相良は川中にクマノミの解説をしながら考えた。川中と秋月がクマノミとイソギンチャクのように利害関係で付き合い続けてもお互いに幸せならばそれで構わないのではないか。逆に、川中と秋月が別れてしまってもそれはそれで川中は元の平穏な生活に戻って秋月は呉本と付き合うというお互いに幸せな結末を迎える事ができる。どう転んでもみんな幸せハッピーエンド。だが案の定結末は先程口の中で転がしたコーヒーのように苦々しい結末を迎えた。

そんな反面相良の表情は穏やかである。きっかけは相良が作ったとは言え、川中は自身で決断して動いた。その結果は側からみれば良く無いものかもしれないが、それは川中が出した答えであり、周りの人間が「違う、そうではない」と言えるものではないのだ。

相良は再びコーヒーカップに口をつける。コーヒーは早くも少しぬるくなってしまっている。冬が近づいているのだろう。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

ずるずるといろんな人間に影響を与え続ける木山伝説もここで幕が閉じます。

木山事件を起こした張本人である木山、伝説を追う事になった黒木、伝説に影響を受ける上月、伝説に振り回される川中の4人にフォーカスを当てて4つ(細かく言うなら5つ)の章に分かれていたやさぐれ男の越冬記シリーズでしたが、厳しい評価をして頂いたり、その反面ちらちらと良い評価も頂けたりと一喜一憂しながらなんとか最終話に持ってくる事ができました。

なんだかパッとしない終わり方だなとは筆者自身も思っているのですが、あまりファンタジーなものではなく、なんだか身近にも起こりそうな出来事というテーマで書き進めていたので、このなんとなく良くはない後味が残るグッドでもバッドでもない終わり方はむしろ狙い通りに書けたと感じています(それを良いと受け取る方の方が少ない事は承知の上ですが)。

やさぐれ男の越冬記シリーズを書き終えて、一旦小説という媒体での創作活動はお休みになります。再び何か物語を作りたくなる日がいつ来るのかは分かりませんが、そんな日が来たらまたお会いできれば嬉しい限りです。

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