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消極男の悲秋暦  作者: 青色蛍光ペン
17/19

17:不吉な予感

川中はごくりと唾を飲み、恐る恐る定食屋の扉を開ける。狭い店内には本当に誰もいない様子で、後から入ってきた秋月もキョロキョロと店内を見渡す。すると奥の方から中年の女性が出てきて笑顔で2人を迎える。


「あらあら、君たち修学旅行の人達かい?」


川中は秋月の方を一瞥する。こういうコミュニケーションは秋月に任せるのが適任だと判断したのだ。秋月も川中と数ヶ月話していたからか川中の視線の意図を的確に読み取り、ニコニコと笑顔を浮かべながら口を開く。


「はい! お昼の時間で何食べようか迷ってたんですけど…、ここって今は開いてますか?」


「うんうん開いてるよ。残念なことに他にも学生さんがいっぱい通り過ぎて行ったんだけど、誰も入ってきてくれなくて寂しくてね。席はどこでも空いてるから好きなところに座ってよ」


川中の読みは当たったらしい。流石に川中達以外全員とまではいかないだろうが、今頃しおりに載ってた飲食店はパンク寸前になっているに違いない。そんな事を考えながら、適当に目に入った席に秋月と向かい合って座る。すると先ほどの女性が湯呑みとメニューを持ってきて机に並べる。


「あんた達もしかしてカップルかい?」


不意に女性は川中に向かって質問する。まさか飲食店の店員に、しかも初対面でこんなことを聞かれるとは思っておらず、川中は狼狽えながら答える。


「いや、その…、どうなんでしょう、ね?」


「もう、隠す必要ないでしょ? 私たちはちゃんとしたカップルだからね」


「あははは、まぁ仲良さそうで何よりよ。決まったら適当に呼んでね」


秋月の割り込みに女性は笑いながら店の奥に消える。川中が店の見た目で想像していた量の数倍はありそうな量の料理が載ってるメニューを眺めていると、秋月が頬を膨らませながら腕をつついてくる。


「私たち付き合ってるんだよ? 別に隠さなくてもいいじゃん」


「それはそう…なんだけどな」


付き合い始めてしばらく経ったが、やはり川中の脳内にかかっているもやは晴れない。それが不安感なのか罪悪感なのか、正体は川中自身にも分からない。そのもやは秋月と話せば話すほど徐々に濃さを増して行くように川中は感じていた。

その後さっきの女性を呼んで注文し、数分間雑談していると料理が運ばれて来る。


「はいお待たせ。こっちが揚げ物の定食でこっちが親子丼ね。会計するときはレジのベルで呼んでね。じゃあごゆっくり」


一礼して再び店の奥に消える女性。川中は秋月の注文した定食を眺める。秋月は一枚だけ携帯電話で写真を撮ってから食べ始めるが、川中の視線に気付く。


「ん、どうしたの?」


「いやなんというか、結構量多そうなんだけど食べ切れるのか」


ぱっと見ただけでもエビフライとトンカツが数切れ、他にも一目では判断できないが何かしらの揚げ物が数個皿に乗っている。食べ盛りな高校生ですら大満足しそうな内容を果たして秋月は食べ切れるのだろうか。


「大丈夫大丈夫、私こう見えて結構食べれるから。それよりも川中君も早く食べないと冷めちゃうよ」


秋月に促され、川中は親子丼の鶏肉を一片箸で摘み、口に放り込む。


「…うまい」


そこから川中は一心不乱に食べ続ける。ふわふわの卵でとじた鶏肉は丁度いい大きさに切られており、火の通りも丁度良くてとても柔らかい。さらに鶏肉だけじゃなく玉ねぎや細長く切られたかまぼこも一緒に入っていて味に変化が付けてあり、箸が止まらない。瞬く間に親子丼を食べ終え、一息ついて秋月の方を見ると、彼女もほとんど定食を食べ終えている。かなり早く食べ終わったと自分で思い込んでいたのだが、あまり早くなかったのだろうか。それとも秋月の食べるスピードが異常に早いのか。答えは分からないがほとんど同時に食べ終えた2人は会計を済ませて店を出る。

この後全員で観光地を見て回ったが、途中急に降り始めた雨によって急遽全員でホテルに向かうことになった。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「いやー、突然の雨だなんてなんか不穏だな。悪いことでも起きるんじゃないか?」


ホテルの狭い一室で持参したタオルを使って雨で濡れた体を拭き取りながら吉川が川中に話しかける。


「今この状況こそその悪いことなんじゃないのか?」


吉川の言葉に川中は顔をしかめながら答える。今回泊まるホテルはまさかの2人部屋で、ほとんど友人がいない川中は吉川と相部屋にならざるを得なかったのだ。学年での観光では秋月と雑談しながら観光地を回っていたのだが、突然の雨によって吉川と2人きりで部屋に閉じ込められるという事態となったのだ。せっかくの楽しい時間が台無しである。


「まぁそう言うなよ。それに明日には晴れるみたいだし」


体を拭き終えたのか、今度は携帯電話で天気を確認する吉川。修学旅行はあまり良くない滑り出しだが明日には回復するようだ。それなら構わないか、と川中が一旦安心していると、ノックもせずに川中達の部屋のドアが開け放たれる。2人同時にドアの方を向くと、相良が部屋に入ってくる。若干息が荒れている様子を見るに急ぎの用事らしい。


「今日の方針が決まったから伝えておく。晩飯まで部屋で待機だそうだ。大人しくしておくんだぞ」


「え、それって今日はこれ以上イベント無しってことですか?」


驚いたように吉川が声を上げる。それに釣られて川中が携帯電話を確認すると、時計は本来ホテルに着くはずの時間の2時間前を表示している。川中は冗談じゃない、と小声で呟き、吉川と一緒に相良に抗議する。


「こんな奴と2時間以上仲良く部屋に篭ってるなんて無理です」


「ちょ、こんな奴は無いだろこんな奴は」


吉川の矛先が川中に向くのを見て相良はため息を吐いてポケットに入入れていた小箱を川中に放り投げる。川中が小箱を受け取って見ると、古びたトランプのようだ。


「私に言われても上の指示だから残念ながらどうしようもない。あんな奴でもこんな奴でもなんでもいいから仲良くしたまえ。そのトランプは3年前の夏に科学部の旅行先で使われていた曰く付きのものだが、まぁ暇つぶしぐらいにはなるだろう」


言い終わるとほぼ同時に相良は部屋を出て行ってしまう。恐らく他の部屋の生徒にも同じような事を言って回らないといけないのだろう。川中はどうしたものかと視線をトランプに落とす。箱は古びているが、中身は数回しか使われていないのかあまり傷んでいないようだ。トランプを眺めていると吉川が後ろから覗き込んでくる。


「3年前の夏か。相良先輩、わざわざ俺の注意を引きつけるような言い方をしやがったな」


だから相良はあんな回りくどい説明をしたのか、と川中は納得する。3年前の夏と言えば、確か吉川が相良を含む科学部の告白の現場を目撃した時期だ。川中は吉川にトランプを手渡して問いかける。


「お前が目撃した時にこれは使われてたのか?」


「まさか。そんな変な現場じゃない。相良と木山が隠れて見守っていた事を除けば至って普通って感じだったな」


「…それを普通とは言わないだろ」


川中は突っ込みながらベッドに横たわる。こんな連中に見守られながら告白した科学部の2人を哀れみながら目を閉じて仮眠を取ろうとすると、吉川が川中のベッドに腰掛ける。


「今寝ても夜寝れなくなるだけだぜ。一戦どうだ?」


川中が目を開けて体を起こして吉川の方を見ると、箱からトランプカードを取り出した吉川の姿が目に入る。この後川中と吉川は夕飯の時間までババ抜きとポーカーを楽しむことになった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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