1:無味乾燥の秋
この度はこの作品に興味を持っていただきありがとうございます!
この作品は、「やさぐれ男の越冬記」シリーズに関連した部分が数カ所ございますので、そちらの方を読んで頂ければ一層この作品を楽しむ事ができると思いますので、もしよろしければご一読ください。
投稿は毎週水曜日投稿を予定しています!
主人公の川中一樹君のゆったりとした高校生活の一端を楽しんで頂ければ幸いです。
窓の外を眺めていた。
桜は既に散っており、地面にも花びらは見られない。代わりに木々にはこれから青々と広がる事になるだろう葉っぱ達が小さく顔を出している。「俺」はこれまで廊下側の席に座る事が多かったため、今回の席替えで窓際に座って窓の外を見た時の感動は格別だった。基本的に友人はおらず、休み時間はずっと窓の外の景色を眺めている。
「ねぇ、いつも外見てるけどそんなに面白い?」
突然声をかけられて驚いて振り返ると、そこには淡いピンク色の髪で正面から見て右側がサイドテールになっている女子がアメジスト色の瞳でじっとこちらを不思議そうに見つめていた。
「えっと…」
「秋月由良。…というか1年の時も同じだったのに名前覚えて無いなんて、変わってるんだね。川中君」
名前を呼ばれた途端、周囲の景色がぐにゃぐにゃと歪んでいく。周りの生徒達は溶けるように変形していき、窓の向こうに見えていた木々の葉は水に1滴混ぜられた絵の具のように空に向かって溶け出していく…。
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「…中、おーい、川中。かーわーなーかー!」
「うぐっ!?」
紺色の髪の男子生徒は聴き慣れた声と教室の喧騒に意識が覚醒し、跳ね起きる。目の前には友人である吉川緋色が半笑いで川中の事を眺めている。濃い紫色の髪が特徴的な男性だ。どうやら夢を見ていたらしい。先程まで寝ていたのは川中一樹。夢の中ではなんだか友達のいない可哀想な人みたいな感じではあったが、実際は吉川という友人がいるし、席も窓側では無い。なんなら今日は10月1日。初夏なんてとっくに過ぎ去った後だ。
「寝てたのか…」
「めちゃくちゃ気持ち良さそうに寝てたから起こそうか悩んだんだけどな、ほら」
そう言って吉川が指さした先を見ると時計は昼休み終了の10分前を指している。
「ちょ、昼休み終わるじゃん!」
慌てて鞄から昼食の弁当を取り出す。起こしてくれたのはありがたいが、普通昼休みが始まると共に起こすものでは無いのだろうか。そんな疑問を抱きながら弁当を食べ進める川中を眺めながら、吉川は別の疑問を口に出す。
「そういや教育実習生の人どんな人なんだろな」
実は今日、昼休みの次にあるホームルームの時間に教育実習生の紹介があるらしい。先生からは生物担当の女性、とまで聞いているがそれ以外は謎である。
「ま、どんな人が来ても俺には関係無いんだけどな」
「あー出た出た。川中の『俺には関係ない』」
吉川に指摘され、川中はバツが悪そうに黙り込む。川中は消極的な人間である。体育祭のようなクラス全体で何かやるイベントならともかく、自由参加の打ち上げだったり、隣のクラスで何かしらトラブルがあった時に野次馬として見に行くなどの事は決してしない。全て「俺には関係ない」と切り捨ててぼーっと考え事に浸り込む時間に使うのだ。
今回の教育実習生とやらも同じで、授業中に当てられたりしたら最低限は答えてやるつもりだが、教育実習生と世間話などをするつもりは毛頭無い。全てはこの静かな学校生活の背景の一部なのだ。だが、と吉川の方を見る。濃い紫色の髪の彼はなぜだかしつこく川中に絡んでくる。そのしつこさと言えば一級品で、どれだけ断ろうとしても接着剤のようにくっついてくる。いつしか彼の誘いを「俺には関係ない」という理由で断る事自体が面倒になり、今では友人として関わっているのだ。
「ごちそうさまでした」
休み時間が終わるギリギリで弁当を食べ終わった川中が片付けるのを見て吉川は「俺も席に戻るわ」と立ち上がる。そして去り際に口を開く。
「教育実習の人、面白い人だったらいいな!」
「…そうだな」
返答するがもちろん微塵もそんなことは考えていない。今の普通の生活が崩れないのであれば面白い人が来ようとつまらない人が来ようとも、「俺には関係ない」と言うやつだ。適当に筆箱からシャーペンを取り出した所で5限目開始のチャイムが鳴り響く。
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ホームルームが始まり、先生が適当に連絡事項を述べていく。必要そうな事だけ必要最低限度にメモを取っていると、話題は教育実習生の話に変わる。
「では、相良さん入ってきて下さい」
先生が一声教室のドアの方に声をかけると同時に扉が静かに開く。そして赤色の長髪に白衣と言う変わった格好をした女性が教室に入ってくる。その顔立ちは驚くほどに美人で、教室内に小さくどよめきが広がる。本や漫画などで美人の転校生が教室に入ってきたら教室がざわめくという描写を多く見かけるが、まさしく現実でそれが起こっている。白衣の女性は教壇に立ち、手に持っていた大量の資料らしきものを教卓に置いて口を開く。
「今日から2年C組と生物の授業を手伝わせて頂く相良まつりです。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる相良と名乗った女性に教室の生徒たちから拍手が送られる。川中も生物を担当するから白衣なのか、などというどうでもいい感想を浮かべながらぱちぱちと手を叩いていたが、頭を上げた相良とふと目が合う。教室内の生徒を見ながら喋っているのだから目ぐらい合うのが当然だろう。しかし、相良の視線は明らかに川中を故意に捉えている。思わず川中が目を逸らすと、再び相良が話し始める。
「…さて、堅苦しいのはここまでだ。さっきも言ったが、私がここのクラスを担当することになった。そこで、だ。まずはこのホームルームの時間と次の生物の時間を使ってここの生徒1人1人と3分ほどの面談を行う。順番は出席番号の後ろからだ」
先程との態度や話し方の違い、そしていきなりの面談という暴挙に再び教室内が騒がしくなる。川中は担任に目線を向けるが、担任はこの様子を微笑ましそうに眺めているだけだ。どうやら担任もこの件は把握しているらしい。
「じゃあまずは渡部、廊下で待っているぞ。教室に残っている諸君は隣のクラスに迷惑にならない程度ならば席の移動と雑談を認める」
相良はそれだけ言い残して余っている生徒用の机と椅子を二つ、そして最初教卓に置いた分厚い資料を持って廊下に行ってしまう。一瞬教室内に沈黙が訪れるが、呼ばれた渡部が廊下に出るのをきっかけに一気にざわざわし始める。
「想像以上に面白そうな人が来たな」
席の移動が許可されていたためか、早速吉川が川中の机にやってきた。
「…楽しそうだな」
「だっていきなり個人面談だぜ? 授業とかも絶対破天荒な感じになるに決まってるし、遊びに誘ったら絶対乗ってくれるタイプだろ! あとめちゃくちゃ美人だしな」
どうやら相良は吉川のハートをいきなり掴むことに成功したらしい。それによる相良のメリットは皆無だろうが。
「美人…ねぇ。俺はどうも苦手かもしれん」
「そういえばめちゃくちゃ川中の方見てたよな。知り合いか?」
「いや、多分知らない」
他人から見ても川中の事を凝視しているように見えていたという事はやはりあの視線は偶然ではなかったという事だ。その答えが出た途端面談が嫌に恐ろしくなってくる川中だが、帰ってきた渡部が吉川に声をかける。二、三言会話を交わし、吉川は川中に軽く手を振って廊下に出て行ってしまう。
その後5分ほどしてから吉川が教室に戻ってくる。次の番の人に声をかけ、再び川中の机にやってきた。
「随分長かったな」
「いやー、相良先輩、なかなか面白い人だな」
「先輩?」
「まぁここの卒業生だしな。先生よりも先輩の方がしっくりくるだろ?」
「なるほど」
「あと川中、どうやらこればかりは『俺には関係ない』じゃ済まなそうだ」
吉川の最後の不気味な言葉が頭から離れないままホームルームの時間が終了し、休み時間を挟む。そして生物の時間となり、再び面談が再開する。先程の視線といい吉川の言葉といい不安要素があまりにも多すぎる。いっその事自分の番が来ないまま終わらないかと机に伏せていた川中だが、肩を叩かれて身体を起こす。
「あの、次川中の番」
顔を上げるとクラスメイトの木下がそこに立っていた。どうでもいいことだが、さっきの渡部や今ここにいる木下、その他ほとんどのクラスメイトのフルネームを川中は知らない。
重い腰を上げて教室のドアを開けて廊下に出る。既に相良は椅子に座って待機しており、資料をめくる手を止めて川中の方を向き、笑みを浮かべる。
「やあ、君を待っていたんだ」
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