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第8話~唯一無二

 冒険者ギルドを出た俺とギルバートは、町の入り口の門の前まで来ていた。

 昼間にギルバートや門番とひと悶着あった場所だ。

 どうやら門番は交代の時間を迎えたらしく、見た事の無い人物に代わっていた。


「早速だがワイバーンを出して欲しいのだが構わないか?」


 ああ、と頷き俺はバーンを召喚した。

 門番は心底驚いていた様だが、報告は受けていたのだろう、ギルバートが目配せすると落ち着いて業務へと戻った。


「このワイバーンでブール村まで何分かかる見立てだ?もちろん最短で」


「40~50分って所かな」


 俺が答えるとギルバートは顔を顰める。

 辺りは段々と色を変え、夕刻まで少しという所まで来ていた。


「とにかく急ごう、一刻の猶予も無い」


「いや、その事なんだが俺は…」


 その時だった、町の方から音が聞こえてきた。

 一定のリズムで音を奏でながら猛スピードで近づいてきたそれは、背に何かを乗せている様だ。

 あっという間に門へと到着し、最後にヒヒーンと(いなな)くと、音の正体であった馬は俺達の前で停止した。


 そして、遠目で確認出来なかった馬の背に乗っていたのは、ギルド長だった。


「間に合って良かった!!ヴァン!なんて無茶な真似をしようとしてたんだお前は!」


 突然のギルド長の登場に驚いていた二人だったが、その上での唐突な発言に少しばかり混乱してしまっていた。


「一体何事だ?タイムリミットまで時間が無いというのに」


「ギルバート将軍!申し訳ありません!お時間は取らせませんので!」


 馬から降りると、ギルド長は先程のエミリとのやり取りを俺たち二人へと話し始めた。


「ヴァンが魔法が使えないだと?バカな、魔法無しでワイバーンの討伐を成功させたというのか!」


 ギルバートが丸く開いた目でこちらを見る。

 ギルド長はと言えば、自ら死にに行く若者を叱る様な目で俺を見つめている。

 対する俺は、始めこそ意味が分からず呆気に取られていたが、段々と状況を飲み込む事が出来ていた。


「あぁ、理解した。俺が属性欄に無って書いたもんだからエミリが勘違いした訳か」


 エミリクイズ第三問の答えもこれでわかった。

 フッとつい笑いが漏れてしまう。


「勘違いだって?」


「そうだ、ちゃんと魔法なら使えるから安心してくれ。無って書いたのはスペースが足りなかったせいだよ、無属性の無だ」


「「無属性…!?」」


 ギルバートとギルド長の台詞が綺麗に揃う。

 いい歳したおっさん二人がハモるな、耳心地が悪い。


「無属性と言えば失われた属性(ロストエレメント)ではないか!本当に使えるのか!?」


 ワイバーンが強敵、召喚魔法や従魔が存在しない、ミスリル装備が超高級品、リッチキングのストーリーが未完結。

 大体()()()()()()わかって来たつもりだったが無属性もだったか。

 ロストエレメントと言うのは聞き覚えが無いが、この世界における初期設定的なものに関わってくるのだろう。


 ここまでの出来事で俺はある程度()()()をつけていた。

 恐らく、いや間違いなくここはアナライの世界だろう、そしてもう一つ。


 ここはサービス終了時点の世界では無く、過去の世界である可能性が高い。

 過去の世界という言い回しに違和感はあるが、要するに色々な機能が実装される前の世界。


 アプデ前の世界だ。


 100%とは言い切れないが、俺の中では既に確信めいたものを感じていた。

 細かい所まではまだ掴めていないが恐らくVer4.0、いや、Ver3.0以前のはずだ。


 そうなると属性欄が狭かったのも頷ける。

 初期のアナライでは、始めに選択した一つの属性しか使う事が出来なかったからだ。


「おい!ヴァン!ギルバート将軍の質問に答えろ!どういう事なんだ!」


 すっかりと自分の世界に入り込んでいる俺に痺れを切らしたのか、ギルド長が声を荒げる。


「すまん、考え事をしてた。無属性魔法だったな、使えるぞ。丁度使おうと思ってたんだ」


 信じられないという様子の二人を差し置いて俺は話を続ける。


「日没まで残り30分ちょいって所だ、このままじゃ間に合わないだろ?ギルバート、あんたはバーンに乗っていけ」


「あんたはって、君はどうするつもりなんだ?ヴァン」


「こうするんだ」


 そう言うと俺は複数の魔法を唱えた。



 ――肉体強化(フィジカルブースト)




 ――脚力向上(ハイエンドラン)




 ――付与魔法(エンチャント)性能上昇(オーバークロック)




 ――超高位魔法 限界突破リミットブレイク




 一瞬だけ爆発的に広がった魔力が、吸い込まれる様に俺の身体へ凝縮されていく。


「な、なんなんだこれは…」


 ギルバートの目には異様な光景に映っていた。

 見た事も無い魔法を唱えたと思ったら爆発的な魔力を感じ、ヴァンの元へ収束していった。

 その姿は淡く光を纏い、身体は陽炎の様に揺らめいている。

 言葉で言い表せられない感情が彼を包み込んでいた。



 スッ…



 瞬きを、しただろうか?

 少なくとも見惚れていたはずだ、見逃すはずは無い。

 しかしその視線の対象となった青年は、気付いたら目の前から姿を消していた。


「これが無属性魔法だ、もちろん一部に過ぎないけどな。今使ってるのは主に身体強化の魔法だ。これで走れば5分で到着出来る」


 俺はギルバートの背後から声をかける。

 驚いたギルバートが咄嗟に振り向いた。


「なんて魔法だ…信じられん。だが、確かにこれなら。うむ、了解した。先にブール村へと急いでくれ、私はワイバーンで後を追おう」


 すると、少し離れて見ていたギルド長が声をあげた。


「ま、待ってくれ!俺も乗せて行ってくれないか!?」


「好きにしな、時間がないんだろ。急ぐぞ」


 俺はぶっきらぼうに答えると、バーンに二人の事を頼み、ブール村へと走り出した。




 ブール村へ向かいながら、俺は思案する。

 この後に繰り広げられるであろう戦闘についてだ。


 リッチキングの戦い…あの時のレベル上限は200~300ってところか。

 如何せん昔の記憶だけに正確な情報を持ち合わせていないのが悔やまれる。


 当時の俺と比べれば遥かに強くなった。

 ステータスは勿論装備も充実したし、リミットブレイクの様な魔法も当時は持ち合わせていなかったものだ。

 そうは言っても相手はリッチキング、たった一人で倒す事が出来るのか…俺は自問する。


「念には念を、だな」


 俺はアイテムポーチから二つのアイテムを取り出した。


 指輪と腕輪、どちらも並の魔道具では無い事は一目瞭然だった。

 その二つをそれぞれ装備し、呟く。


「今回使えそうな()()()()()()()()はこの二つだけだからな」



 ユニークアイテムとは、名前の通り「唯一無二」のアイテムを指す。

 100万人以上がプレイするゲームで同じ物は二つと存在せず、譲渡も破棄も出来ない自分だけのアイテムだ。

 主に大会の優勝賞品や、超難関ダンジョンの最速踏破報酬等で手に入れる事が出来た。


 中には完全な運でしか手に入らない物もあり、初心者がうっかり手に入れるといったケースもあったのだが、基本的には持っていること自体が廃プレイヤーの証であり、手に入れる事が多くのプレイヤーの最大目標でもあった。

 その能力は例外無く凄まじく、ゲームバランスをも壊しかねない為、いくつかのアイテムはPvPや討伐イベントにおいて使用禁止の措置を取られていた程だ。


 ユニークアイテムは大きく分けて三種類あり、武器・防具・魔道具である。

 その中で魔道具には、戦闘で主に活躍する装飾品と、戦闘とは無関係な便利グッズがある。


 そんなユニークアイテムを俺は五つも持っていた。一つ持っているだけで羨望の対象である物を五つ。

 自慢じゃないが、複数持っているプレイヤーは数える程しかいないだろう。


 特に装飾品のユニークアイテムは当たりで、二つも手に入れたのは幸運だった。

 一方で、意外な事に武器や防具はハズレの扱いを受けていた。

 ハズレとはいえ勿論強力なのだが、理由はアナライがMMORPGである事に起因している。


 武器や防具はアップデートによって更新されていくのである。

 手に入れた瞬間は他より桁違いに強いであろうユニーク武器も、数年経てば量産品と変わらない攻撃力になる事もザラであった。


 勿論ユニーク装備にはステータスを凌駕するだけの特殊効果が付与している事もあるのだが、効果を取るかダメージを取るか、天秤にかけなければいけない時点で唯一無二とは言い難いだろう。


 ちなみに俺が山を両断したあの黒剣もユニーク武器なのだが、あれは数少ない()()()()の中の一つであった。



 俺は、ステータス越しに二つのアイテムを解析してみる。





 始祖王アインスの指輪


 始まりの王アインスの魔力が宿った指輪。

 その価値は計り知れず、国一つに等しいとも言われている。


 装備時

 一定レベル以下の全物理ダメージ無効化

 一定レベル以下の全魔法ダメージ無効化

 状態異常耐性【特大】(重複可)





 惑乱の腕輪


 古の大賢者が命を賭して製作したと言われる腕輪。

 大賢者の怨念が宿っていると言われており、その絶大な力の代償に使用者の活力を蝕む。


 装備時

 使用する事で指定範囲内の全対象に【睡眠・魅了・混乱・暗黒】いずれかの状態異常を与える。

 対状態異常耐性完全無効化。

 使用時消費MP【特大】





 相変わらずのチート装備に思わず苦笑する。

 とはいえ指輪は最前線では状態異常耐性の効果しか使えなかったし、腕輪はこのレベルになるまでMP消費がきつすぎて持て余していたのだが。




 確認を終えた所でブール村が見えてきた。


 はるか遠くの山にひと際大きな太陽が沈んでいく。

 夜の帳が、ゆっくりと世界を飲み込もうとしていた。



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