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第6話~元ドラゴン級冒険者

 交易の町グリン。


 豊かな緑に囲まれ、近辺のモンスターのレベルも低いこの町は、立地にも恵まれクローブ王国でも有数の交易の場となっている。


「らっしゃいらっしゃい!今日はホロホロ鳥が安いよ!」

「そこの兄ちゃん!グリン名物スライム饅頭はもう食べたか?」

「買い取りなら万屋(よろずや)アルフへ!どんな物でも買い取りますよ!!」


 商人達の活気が心地良い。

 町へ入ってからずっとこの調子だ。

 しばらくはこの町で世話になってもいいかもしれないな。


 そんな事を考えていると隣にいるギルバートが話しかけてくる。


「そんなにキョロキョロとしてどうした?町は初めてじゃないだろう」


「ああ、ただ良い町だと思ってな」


「確かに言えているな。私もこの町には来たばかりだが、ここは良い。住民が活気に溢れてる」


 驚いた。てっきりギルバートはこの町の兵隊長かなんかだと思っていた。


「私がよそ者で驚いたか?顔に出ているぞ」


「それも驚いたが、それよりもよそ者が俺なんかを勝手に町に入れる権限を持っていた事に驚いたんだよ」


 表情を隠しきれなかった事に恥ずかしさを感じ、ぶっきらぼうに答える。


「あぁ、それか。それは…おっと」


 ギルバートの足が止まる。


「到着だ。ここが冒険者ギルドだ」


 ここに来る途中に見たどんな建物よりも、ひと際立派な建物が目の前にあった。

 商業を中心としている中規模の町にしては大きすぎるその建物は、この世界における冒険者の重要性をそのまま表している様だった。


 さぞ賑わっているのだろう、俺達はそのまま建物へ足を踏み入れる。

 しかし、想像とはあまりにも違う光景に思わず足が止まってしまった。

 何十人もの冒険者が一度に来ても余裕がありそうな大広間に対し、あまりに人が少なすぎたのだ。


 いかにも冒険者始めたてといった風貌の若いやつらが数人。

 あとはうだつの上がらなそうな冒険者風情がぱらぱらとまばらに居るだけだ。


「ガラガラじゃねーか、冒険者ってのは流行りじゃないのか?それとも深刻な冒険者不足っていうんじゃないよな?」


「違う、全員同じ依頼を受けて仕事の真っ最中だ」


「同じ依頼?そんな大規模な依頼があったのか?」


 言い切ったところでハッと気付いた。


「ああ、あったんだ。さっきまでな」


 ニヤっと笑ったギルバートが肩を叩いてくる。

 俺が気付いた事を分かった上で言ってきやがる。


「ギルバート将軍!!お待ちしておりました。ワイバーンの件は間違いないのですか!?」


 一人の男がカウンターの奥から速足で向かってくる。

 ギルバートより少し年上だろうか、体にはいくつもの戦いの跡があり元冒険者といった感じだ。


「あんた、将軍様だったのか」


 思っていたよりずっと偉かったという事に内心少しだけ焦りを感じ、今までの言葉遣いに申し訳なさも感じたが、魔法にかかった()()の方は我関せずだった。


「いかにも、態度を改めるなら今のうちだぞ?」


 眉をクイッと上げてこちらを見るギルバート。

 誰が改めるか。と呟くとハッハと笑って肩をバンバンと叩いてくる。

 やりづらい相手だ、なるべく今後関わらないようにしよう。


「あの、そちらの方は?」


 カウンターから出てきた男が怪訝そうにこちらを見つめる。

 面倒なのでギルバートに目線を送る。代わりに頼むの意味だ。


「彼はヴァン。先程知り合った冒険者志望の若者だ。ヴァン、こちらの方はこの冒険者ギルドの長だ」


 カウンターの奥から出てきたからギルドの関係者だとは思っていた。

 年齢と雰囲気からしてギルド長というのも納得だ、将軍様程の驚きはない。

 俺がギルド長に目を向けると、相変わらずこちらを怪訝そうに見ていた。


「冒険者志望の若者…ですか。それにしては装備が新米のそれとは思えませんな。言い過ぎかもしれませんが百戦錬磨の風格さえ感じます」


「ふむ、流石だな。彼は冒険者志望ではあるが新米ではない。最初の話に戻るが、ワイバーンの脅威は間違いなく去った。このヴァンの手によってな」


 ギルバートは腕を組み、腰を反る。まるで自分の功績かの様だ。

 ギルド長は目を真ん丸にし俺とギルバートを交互に見る。

 人が少なくしんと静まっていたせいで会話が聞こえていたのか、他の職員や周りの数少ない冒険者もざわざわと騒ぎ始めた。


「本当に!?この若者が!?詳しく聞かせてください!依頼を出した冒険者は夜まで戻らないでしょうが、ここには他の目もありますのでどうぞ奥の部屋へ!」


 ギルド長は俺たち二人を誘導する。

 それに従ってギルバートがカウンターに向かって歩き出すが俺は動かなかった。


「ヴァン、どうかしたか」


「俺は行かない。ギルバートには事情は話したはずだ、あんたら二人で話し合ってくれ」


「理由を聞いても?」


 何故断られたのか不思議でしょうがないといった感じでギルド長がこちらを見る。


「冒険者志望だって言ったろ、俺は冒険者登録しに来たんだ。依頼も受けてない俺が達成報告をしなきゃいけない義務はないだろ」


 不機嫌そうに答えると、すかさずギルバートが口をはさんだ。


「残念だが、義務は生じる。特に今回は大勢の冒険者が駆り出され町への脅威も大きいものだった。倒した時の細かい状況は無理強いしないが、少なくとも倒したと証明できる証拠は提出しなくてはならない」


 将軍らしく真面目な顔でこちらを真っ直ぐと見つめてくる。

 確かに理に適っている、ギルド長はまだバーンを見ていないのだから言葉で報告されても納得できないだろう。

 言葉遣いは汚くなっても、こういう理論武装に弱いところは変わっていないようだ。


「わかったよ、ただし証拠を見せるだけだ。それ以外は何も答えない。いいな?」


 二人は頷く。


「ギルド長、確か裏に解体用の広いスペースがあったな。そこまで案内を頼む」


「広いスペース?なんでまた?」


 牙か爪でも見せられると思っていたギルド長が訪ねるが、いいからいいからとギルバートに押し切られそのまま案内する事となった。


 到着するなり俺は、ポーチから小箱を取り出しバーンを召喚した。

 無意味な押し問答はいらない、時間短縮だ。


「ワ、ワイバーン!!?」


 口をあんぐりと開けて百点の反応を見せるギルド長。

 しかし流石はギルド長というべきか、叫びこそしたものの悲鳴も上げずすぐに臨戦態勢に入っていた。


「従わせたんだ、敵意は無い。ほら」


 俺はバーンの頭をポンポンと叩く。

 従魔やらテイムやらと並べ立てても面倒になる事はわかりきっていたので、わかりやすく伝えたつもりだ。


 信じられないといった雰囲気のギルド長を無視して俺はバーンを小箱に戻す。


「今のが証拠だ、分からない事はギルバートに聞いてくれ」


 そう言って俺は元居た大広間へ踵を返し歩き出す。


 するとギルバートが声をかけてきた。


「ヴァン、本当にありがとう。君がいなければどうなっていたか」


「冒険者たちが大勢討伐に向かっていたんだろ、それにあんたが出ればなんの問題も無かっただろ?()()()


 振り返らずに答える。

 謙遜しているつもりはない、この世界ではどういう訳かワイバーンは強敵なのだろう。

 それでも俺じゃなきゃ倒せなかったなんて事は無いはずだ。

 少なくともギルバートはワイバーンより強い、間違いなく。


「確かに冒険者たちでも倒せたかも知れない、しかしあくまで多大な犠牲を払えばだ。この町の冒険者は言っちゃなんだが王都と比べるとレベルが低いからな。そして私は出る訳には行かなかったのだよ。モンスターの討伐は冒険者の領分だからな。今回は特例であるが故派遣されたに過ぎない。出現したのがワイバーンだった事と、ここが商業の町であった事だ」


 なるほどな、弱い町に強いモンスターが出現するというイレギュラーか。

 ギルバートはあくまで町の護衛として来ていたわけだ。


 俺は手をひらひらと振り、歩き出す。


 後ろでギルド長がなにか言っていたようだが、あとはギルバートに任せればいいだろう。


 大広間に戻るとカウンターに向かう。

 カウンターの奥には何人かの女性職員がいたが、全員に見つめられたのは少し予想外だった。

 将軍ギルバートの知り合いだという点か、ワイバーンを倒したという点か、それともこの甘いマスクか。

 この状況でとぼける程鈍感ではないので冷静に分析するが、答えは出なかった。


 気を取り直して一人の女性に声をかける。

 こげ茶の髪を後ろで一つに結っている。

 愛想があり整った顔立ちは、正直タイプだと言わざるを得ない。


「さっきの話聞いてたと思うけど、冒険者登録したいんだ。いいかな?」


「はっはい!!喜んで!!!」


 エミリという名札を胸元につけた女性は顔を赤らめる。

 どうやら三択クイズの正解は3番だったようだ。


「エミリっていうのか、いい名前だな」


「ふぇっ!?」


 ぼそっと呟いた言葉だったが、効果は抜群だった。

 エミリは顔をゆでダコみたいに真っ赤にしている、イケメン恐るべし。


「あ、そうだ。先にランクについて説明してもらってもいいか?」


「はっはい!ランクはですね、七段階で構成されています、一番下からスライム、ウルフ、ゴーレム、ユニコーン、キマイラ、ハイドラ、ワイバーンとなります、そのクラスのモンスターをパーティで討伐できる事が昇格条件の一つになります!」


 真っ赤なエミリが一息で言い切るとはぁはぁと肩を揺らす。


 ついつい可愛い…と思ってしまった、気を取り直して真面目にエミリの説明について考える。

 記憶違いでなければランクの上がり方はゲームも同じだったはず。

 ただし、途中でフェンリル級、ドラゴン級と二つのランクが追加されているのだ。

 ギルバートもドラゴン級は存在しないと言っていた。

 なんとなく違和感の正体がわかってきた。


「なるほど、説明ありがとう。それじゃあソロでワイバーンを倒した俺はワイバーン級の資格あり、かな?」


「えっっ!!討伐したとは聞いてましたけどソロでですか!?信じられません!!」


 冗談っぽくカマをかけてみたが、やっぱりか。

 予想は徐々に確信迫っている。


 驚きを隠しきれていないエミリに登録用の書類を渡され、記入していく。

 記入欄は思ったよりも簡素なものだった。


 名前、性別、年齢、得意武器、属性、備考欄


「これだけでいいのか?細かいステータスやレベルは?職業欄もないけど」


「はっはい!ゴーレム級までのギルドカードには細かい記入事項は必要ありません!自信がある方は備考欄にレベルや所持スキルを記入していただければ昇級やパーティ編成で有利になります!職業はレベル10にならないと授かれないので、登録用のこの書類には無いんです」


「へぇ、でもこれだけの情報で身分証の役割を果たせるのか?」


「登録するときに魔力を流していただきますので、身分の証明に問題はありません!」


 なるほどな、ゴーレム級までは半人前って事か。

 職業の事も確認がてら聞いてみたけど、やっぱりゲームの設定と同じみたいだ。

 ワイバーンをソロで倒す事が信じられない世界、なのにその(ことわり)はアナライそのもの。

 寝る前にでも考えをまとめるとするか。


「それでは記入が終わりましたらお呼びつけください」


 エミリはそういうと席を立ってしまった。

 記入なんて一瞬だろ、と思ったがわざわざ席を立った理由を考えてみる。

 ワイバーン討伐の話をしたから、備考欄に山ほど自慢を書くと思われたのかも知れないな。

 そんな気は無いのだがちょっと恥ずかしい。


 年齢はヴァンの見た目に合わせて20としておいた。

 得意武器はロングソード。


 そして次の属性欄を書こうとしたところで手が止まった。

 使うことが出来る属性魔法の種類かと思ったのだがスペースが小さすぎる。

 性別欄と同じように一文字程度の幅しかない。

 聞こうにもエミリはいないので、少し考えて一番得意な属性を書く事にした。


 備考欄には「ワイバーンのソロ討伐」とだけ書いておいた。

 いちいちスキルなんかを一つずつ細かく書くのが面倒なだけであって、昇級に有利ならこういう事は迷わず書く。

 話を聞く限りワイバーンソロ討伐なんて、スキルを100並べるよりインパクトがありそうじゃないか。

 レベルは迷ったが書かない事にした。

 この世界の事がわかるまでは、()()は出したくない。


 記入を終えると丁度エミリが戻ってきた。

 前髪が少し濡れている、顔を洗っていたらしい。

 おかげで真っ赤だった顔は健康的な色を取り戻していた。

 第二問は全然わからなかった。悔しい。


 用紙を渡すと、エミリは一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに奥へと引っ込んでいった。

 奥でカードの発行をしてくれるのだ。

 待っている間にエミリの驚いた理由を考えよう、エミリクイズ第三問だ。


 大広間のソファでそんなくだらない事を考えていると、二人組の男が大慌てで入ってきた。

 男たちはなにやらカウンターでやり取りをすると、奥の部屋へと入っていったのだった。

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