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第5話~ギルバート

「貴様!何者だ!!さっきの竜はどこだ!」


 どうやら原因は俺だったらしい。


「は?竜だって?乗ってきた奴の事なら帰ってもらったぞ、そんな事より槍を下ろせよ、何の真似だ?」


 十年間引きこもってたコミュ障とは思えない饒舌ぶりだ。

 だが、この口調はどうにかならないのか。ナメられたら終わりってこういう事か…。


「帰ってもらっただと!ふざけるな!一瞬目を離しただけ間にあんな大きな竜が消えるなんておかしいだろ!なにをした!」


 強い口調で威圧してくるが、脚はガクガクと震えているのがわかる。

 なんでかわからないが警戒されているらしい。


「おいおい、なんなんだよさっきから。召喚した従魔を住処に帰しただけだろーが」


 言い合いをしていると門の中からぞろぞろと衛兵らしき奴らが集まってきた。

 連中は一定の距離を保って警戒しているが、中から一番偉そうなおっさんが近づいてくる。

 歳は40~50だろうか、鈍い赤髪を後ろで束ね、カールした前髪は触覚の様に垂れている。

 180センチ程の長身は縦だけじゃなく横にもでかく、しっかりと鍛えられているのがわかる。

 体格の割に立ち振る舞いに粗暴さは感じない、育ちの良さが伺える。


「竜が出たと聞いて来たんだが!!?…これは?」


 おっさんが思っていた光景では無かったようで、肩の力は目に見えて抜け、すぐに冷静になっていた。


「はい、こちらに向かって竜が飛んでくるのが見えたので何事かと思っていたら、竜の背にこの男が乗っていたのです。これは只事では無いと思い応援を呼ぶために中に声をかけたのですが、振り向くともうそこに竜の姿は無かったのです」


「この男が竜の背に?それに竜が消えたと…」


「はい、間違いありません。先程から説明を求めているのですが、召喚した従魔を帰しただけとか訳が分からない事を言っていて…」


「従魔?召喚?わからないな…君は何者なんだね?」


 ようやく俺のターンが来たので一番言いたい事を言ってやる。


「何者なんだね?じゃねーよ、槍を下ろせ。話はそれからだ」


 穏便に行こうという気持ちとは裏腹に口が止まらない。あの本め…


 衛兵のおっさんが門番に頷くとようやく槍が下ろされた。


「これでいいだろう、聞いた事を説明してくれるか?」


 おっさんは門番より話が分かる様だし、ここで揉めていてはグリンに入る事も出来ないので大人しく従う。


「さっきも言った通り自分の従魔に乗ってきたんだよ、グリンに用があってな」


「従魔というのはなんだ?その竜はどこに行った」


 従魔とはなんだと言われても困る。

 従魔とはなんだとはなんなんだ?と聞き返したいくらいだ。

 アナライにはテイマーという職業があってモンスターを従わせる事が出来る。

 NPCがテイマーに言及するシーンも当然ある。わからないはずないのだが…


「あー、と。本当にわからないのか?からかってる訳じゃなく?それともここの住人は無知なのか?」


 俺の発言に門番は眉をひそめるが、おっさんに制される。


「本当に知らないし無知でもない。仕事柄商人や冒険者から色々な話を聞くからな、俺が知らないならほとんどの人間が知らない事だろう」


 くそ、どうなってるんだ。この世界はアナライと同じであって全ての事柄はゲームに準拠する、という俺の仮説が早速崩れてしまった。

 思うところはあるがとりあえずは今の状況をどうにかしないと。


「従魔とは従わせたモンスターの事だ。召喚とは従魔を呼び出す魔法だ。俺は従魔を召喚してそれに乗ってきた、用が済んだから元居る場所へ帰した。これでいいだろ?早く通してくれないか」


 要点を掻い摘んで早口で捲し立てる。

 色々と調べたい事もあるので、こんなところで時間をかけている暇はないのだ。


「モンスターを従わせるだって!?にわかには信じがたいな。そもそも私はその竜をこの目で直接見てはいないからな、本当に竜が現れたのかも…」


「それは間違いありません!」


 遠回しに嘘つき呼ばわりされた門番が焦った様に割って入ってくる。


「ほら、これで信じるか?急いでるんだ、さっさと通してくれないか」


 俺はアイテムポーチから小箱を取り出すと、目の前でバーンを召喚してやった。

 こういう手合いには論より証拠で見せてやるのが一番手っ取り早い。


「なっ・・・!」 「ひぃ!!!」


 目の前に現れたワイバーンに、遠巻きに様子を見ていた衛兵たちも声を上げる。

 ここまでの流れから驚かれるのは予想済みだったが、その中でひと際驚いていたのは俺の予想外の人物だった。


「こ、これは、ワイバーンじゃないか!!どういう事なんだ!説明しろ!!」


 声をあげたのは偉そうなおっさんだった。

 しかも他の奴らが何もないところから突然竜が現れた事に驚いているのに対して、おっさんはワイバーンだという事に驚いている様だった。


「さっきハッパ草原で見つけたから従魔にしたんだ」


 隠しても仕方ないのでありのまま話す。


「ハッパ草原!?やはり間違いない…緊急討伐対象のワイバーンだ…」


 どうやら知っているワイバーンだったらしい。


「緊急討伐対象?それは悪かったな、勝手に倒しちまって」


「何を言ってるんだ!放置すればいずれは町にやってきて大惨事を招いたかも知れないんだ!君は英雄だぞ!こうしちゃおれん、すぐに報告しなければ」


 おっさんは興奮気味に捲し立てると衛兵の一人を呼びつけ、言付けを頼んだ。

 その衛兵は大慌てで町の中へ入っていった。冒険者ギルドにでも報告に行ったのだろう。

 おっさんはと言えば、召喚や従属化の事なんてすっかり頭から抜けてしまった様だ。


「とりあえず、俺の言ってる事は信じてもらえたんだろ?」


 俺はバーンの頭を撫でながら、おっさんに問いかける。


「あ…あぁ、にわかには信じられんがな。あのワイバーンが人に頭を垂れて撫でられているなんて」


 おっさんは相変わらず驚愕しているようだがいい加減にイライラしてきたので話を進めさせてもらう。


「んな事はどうでもいいんだよ!町に入れるのか入れないのかどっちなんだ!」


 俺の言葉にハっとしたおっさんが我に返る。


「あぁ、すまん。確かにワイバーンを従わせているのは事実のようだな。町の中にそいつを連れて行くのは大問題だが、さっきの様に消してしまえるのなら問題ないだろう」


「じゃあ入ってもいいか?」


 すると横から門番がまた割って入ってきた。


「先程までの話は竜の背に乗ってきた事に対するものだ。ここからは通常通りの手順を取らせてもらう」


 英雄だからと言って特別扱いは無いらしい。


 門番が続ける。


「とはいえ、難しい事はない。身分証を提示するだけだ、問題が無ければすぐに通れる」


「身分証はギルドカードでいいのか?」


「もちろん、冒険者ギルドでも商業ギルドでもギルドカードなら一番確かな身分証明になる」


 それを聞いて安心した、俺はポーチからギルドカードを取り出すと門番に見せた。

 ギルドカードは陽の光に反射して黒く輝いている。


「おい、なんなんだこれは。ふざけているのか?」


 門番がキッとこちらを睨みつける。


 またこのパターンか、ゲームのギルドカードは身分証にならないのか?


「時間が惜しいのにいちいちふざけるか、間違いなくドラゴン級冒険者のギルドカードだろ。なにが問題だ?」


 ダメ元で強がってみる。わからない事はとにかく聞いて情報収集したいというのもある。


「ドラゴン級?いい加減にしてくれそんなランクは存在しないし黒いギルドカードも無いんだよ」


 やれやれ、と門番が面倒くさそうに答える。

 さっきまでワイバーンに怯えていたとは思えない太々(ふてぶて)しさに逆に関心してしまう。


 すると会話を聞いていたおっさんが口をはさんできた。まだいたのかこのおっさん。


「悪いが、そのギルドカードを私にも見せてくれ」


 門番と話していても埒が明かないのでおっさんに従う。

 正直この状況で頼れるのはおっさんしかいない。

 おっさんはまじまじとギルドカードを見つめる。


「ふぅむ、こんな黒いカードは見た事ないが…それよりも素材だ。何でできているのか想像もつかない程の硬度だ、魔力減衰もほとんど感じられない。それにギルドカードとしての出来も素晴らしい、記述されている項目や方式も普通のギルドカードと同じだ。真似しようとして簡単に出来る物じゃない」


 流石はおっさん、路傍の石の門番とは目の付け所が違う。

 いけいけおっさん、がんばれおっさん。


「が、このカードを身分証として認める訳にはいかない」


 期待した俺が馬鹿だった。

 お堅いお役所仕事はこれだから困る。


「なにが駄目なんだよ」


 一応聞いてみる。


「さっきも言ったようにこんなカードは存在しないんだ。君のいうドラゴン級とやらもね。無い物を認める訳には行かない、当然だろう」


 まぁそりゃそうだ。

 しかし困ったな。


「こいつが使い物にならないのはわかった、で、俺はどうしたらいい?」


「その様子だと住民カードも無いんだろう。身分証がないという事自体が中々無いからな、本来であればここよりもっと大きな町に行って新たに住民登録をするほかない」


「本来…って事はなにか方法があるんだろ?」


 ニヤリと笑っておっさんを見つめる。


「フッ、気付いたか。その腰元の剣ミスリル製だろ、遠目でも逸品だとわかる。他の装備だってよく見れば素晴らしい素材を使っているな、防御力には難ありと言った感じだが」


 品定めでもする様に全身を見てくるおっさんに気色悪さを感じつつ、我慢する。

 見た目装備はこだわりまくったからな、最高級の素材を使っているので肌触りは抜群だ。

 NPCには見た目装備という概念が無いかもしれないので防御力についての言及も当然か。

 しかし、ミスリルが逸品っていつの時代だとツッコみたくなる。

 ミスリルゴーレムが出現するダンジョンが出来てからは手の届かない存在では無くなったし、ミスリルドラゴンが乱獲される様になってからはバザーで投げ売りされまくって初心者御用達のアイテムになったはずだ。


 違和感について考えているとおっさんが続ける。


「そして何よりも君はワイバーンの脅威から町を救った。間違いなく只者じゃないとわかる。速やかに冒険者ギルドで新規登録を済ませると約束してくれるのなら特別に入場を許可しよう」


「そんな事独断で決めていいのか?それにワイバーンだって討伐対象だったものである証拠も無いし、俺自身が脅威になる可能性だってあるだろ」


 折角おっさんが許可をくれたのについ疑問を口にしてしまう。

 だが当然の疑問だ、スルーは出来ない。


「ハハハ、私は君が思っているよりも偉いんだ、これくらいの権限はある。ワイバーンの件だが、君はハッパ草原と言ったね?あの近辺にはワイバーンなんて本来絶対に生息しないんだよ、子供でもそんな嘘はつかない。今回の出現を知っていたのはこの町の冒険者ギルドと一部の国の兵だけだ。」


 なるほど、ハッパ草原で従属化したという証言自体が証拠になりうると。

 というか、おっさん偉かったんだな。おっさん呼ばわりしてごめんな、おっさん。


「そして最後の質問についてだが。これに関しては私の勘だな、君が町を脅かす存在とは思えなかった。これでは理由にならないかね?」


 口角を上げウインクしてくる。

 ぶん殴ってやりたいがそう言ってもらえること自体は有難いし、なにより町に入れてもらえる事になったので我慢した。


「理解したよ、じゃあ入っていいんだな?」


 ジロっと門番の方を見ると「ど、どうぞ…」と弱弱しい声が聞こえてきた。


 丁度そのタイミングで先程おっさんが冒険者ギルドに送った衛兵が戻ってきた。


「ギルバート様!ギルド長がお呼びです!」


 おっさんに話しかけているので、おっさんがギルバートなのだろう。


「わかった。よし!丁度いい、一緒にギルドまで行くか、()()()


 突然名前を呼ばれて驚いたが何の事は無かった、さっきギルドカードを見た時に確認したのだろう。


「勝手に行ってくれ、俺は一人で問題ない」


「そうは行かないな。速やかにギルドへ行って身分証を作るのが条件だったはずだ。寄り道は行かんよなぁ?」


「チッ、わかったよ。()()()()()


 ハハハッ!と大声で笑うギルバートに肩を抱かれ、俺は町へと歩き出したのだった。

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