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第24話~ふたりの後悔

 俺達が行く当ても無くぶらついていると、遠くに見覚えのある服装の女性が見えた。


 フリルのついた冒険者受けしそうなスカートにチェック柄のベスト、冒険者ギルドの職員だ。


 女性は俺に気が付くとこちらへ向かって走ってくる。

 近づくにつれ、その顔も見覚えがある事に気付いた。


「エミリじゃないか、どうしたんだ?」


「ヴァンさん、無事に帰って来て良かったです…!ギルド長に聞きました、ワイバーン級になったんですね!すごいです!」


 エミリは両手を胸の前で握り、いかにも尊敬の眼差しでこちらを見つめてきた。

 その行為に、俺は悪い気はしないわけだが、背後からの殺気と舌打ちはどうしたものか……。


「大した事じゃない。わざわざそれを言う為に来たのか?」


「い、いえ!実は王都からヴァンさんへ招集がかかったんです。それでヴァンさんの宿まで呼びに行くところでした!」


 ようやく来たか、リッチキングの報酬の件だろう。


「ギルド長に代わって来てくれたのか、仕事中だったのに悪かったな、迷惑じゃなかったか?」


「そんな、迷惑だなんて!む、むしろ私が自分で……」


 エミリはモジモジと女の子らしい仕草を見せる。

 後ろの舌打ちが二つに増えた気がした。


「あ、あの……ところでそちらの方達は?」


 舌打ちのせいかはわからないが、エミリは後ろの二人に気付いたようだ。

 思わずサッと視線を逸らすシムカとは対照的に、アンシェは高身長を活かして見下ろす様にエミリを睨みつけていた。


「こいつらはシムカとアンシェ、まぁ仲間みたいなもんだ」


「ちょっと!みたいなって何!?ちゃんと仲間って紹介してよ!」


「マスター!仲間とはなんですか!?ちゃんと所有物一号と紹介してください!」


 俺の発言にすかさず二人が訂正を求めてくる。

 内容に違和感を覚えたがそのままにしておこう。


「しょ、所有物!?こんな綺麗な方を所有物ってヴァンさん……」


 どうやら、そのままには出来ない様だ。

 エミリはさっきまでのキラキラした瞳を濁らせ、無機質な物を見る様な目で俺を見ている。

 せっかく築いたエミリへの好感度が水泡に帰した瞬間だった。このドMドラゴン、疫病神か。


 俺がどう挽回しようかと思案していると、後ろからズイっと一歩踏み出してきたアンシェが口を開いた。


「小娘が、さっきから聞いていれば馴れ馴れしいにも程がありますね。用事が済んだのならさっさとギルドへ帰りなさい、マスターが迷惑しているのがわからないのですか」


 アンシェがエミリを睨みつける。

 エミリはビクっと体を震わせ、俺を見る。

 頼むからそんな目で俺を見ないでくれ。


「アンシェ、どこの世界に勝手に喋る所有物があるんだ?所有物(もの)所有物(もの)らしく黙って立ってろ」


「はいマスター……!ありがとうございます!」


「エミリ、うちのバカがすまなかった。俺は迷惑なんてしてないから気にしないでくれ」


 ふっ、決まったな。

 部下を叱責して怯えた女性を優しくフォロー、完璧だ。これでエミリの好感度は取り戻したはず。


 嬉しそうなアンシェとは対照的に、シムカは俺をバカを見る様な目で見つめていた。


「は、はい。あ、私仕事があるんでした!あはは……そ、それではまた……!」


 急に片言になったエミリを見ると、無機質な物を見る目はゴミを見る目へと変わっていた。

 エミリは軽く会釈だけすると、逃げる様にギルドへと走って行く。


「あーぁ、やっちゃったね。ヴァンってバカなの?否定すればいいのに、自分から所有物(もの)呼ばわりして罵倒までするなんて」


「!?」


 隣へ来たシムカが、呆れ顔でこちらを見ている。


 俺はさっきの一連の会話を思い返してみた。

 そこにいたのは、ドヤ顔でカッコつけながら『女性を物同然に扱うゴミ野郎』だと自らアピールする男だった。


 血の気が引くのと同時に、恥ずかしさが全身を駆け巡る。穴があったら入りたいとはこの事だ。


 やってしまった……。

 いくら顔が良くなって口が達者になっても、中身までは変わらない。

 これが十年間引きこもっていた恋愛偏差値30のリアルだった。


「ま、まぁ……そんなに落ち込まなくてもさ?他にも可愛い子はいるんじゃない……?例えば、胸がおっきくて大人っぽいロングヘアーの子とかさ……?」


 そう言いながら、チラッチラッとシムカがアピールしてくる。アンシェは自分の事だとばかりに胸を張っている。


「どこにいるんだ?子供っぽい巨乳と大人っぽい貧乳しか見当たらないな」


 ショックが大きくて冷静ではないので、生返事で答えた。

 二人はショックを受けた様に崩れ落ちる。ドMのアンシェも貧乳は気にしているらしい。


「と、とにかく!ヴァンの事を特別に思ってる人だっているんだから、元気だしなって!」


「わかったからほっといてくれ……。今は冗談に付き合ってやれる気分じゃない……」


 揶揄ってくるシムカをよそに、俺はひたすらさっきの失敗を反省していた。

 次は絶対上手くやってやる、同じ失敗は二度と繰り返さないのが俺だ。


「わかってないじゃん……。ヴァンのあほ……」





 翌朝、俺達はグリンを出発していた。


 あの後しばらく落ち込んでいたが、シムカ達に引きずられる様にギルドへと向かった俺は、ギルド長から話を聞いたのだった。


 どうやら勲章の授与があるらしく、直接王様との謁見もあるらしい。

 出来ればササっと済ませたいのだが、そういう訳には行かないので報酬の為に我慢する事にした。


 授与式は丁度一週間後、つまりそれまでに王都に到着すればいいという訳だ。


 王都はグリンから大して遠くない。バーンに乗って行けば数時間で着く距離だ。

 なのに何故こんなに早く出発しているのか、原因はシムカのワガママだった。


 俺達は今、馬車に乗っている。


「マスター、揺れの方は大丈夫でしょうか?」


 御者役を買って出たアンシェが問いかける。


「あぁ、馬車が良い物だからな。宿屋のベッドより快適だ」


「こんなふかふかなソファ、貴族様でも使ってないよ!!」


 旅らしい事をしたいというシムカの要望で馬車での移動になったが、中々悪くないもんだ。

 シムカも大はしゃぎで楽しんでいる様だし、正解だったかもな。


「ヴァン、すごく機嫌良さそうだけどどうしたの?ひょっとしてヴァンも馬車が楽しいとか!?」


 シムカが仲間を見つけたと嬉しそうにしているが、馬車が楽しい訳では無い。

 だが機嫌が良いというのは正解だ。


 偶然ではあるが、アンシェが人間の姿になった理由がわかったからだ。


 事の発端は、この馬車をポーチから出す時だった。

『パンプキングカー』という名称の高ランクの馬車を出そうとしたのだが、取り出せたのは何の変哲も無い普通の馬車だった。

 かぼちゃの形をしているのが特徴の馬車なので、間違えるはずが無いと何度も試してみたが、結局かぼちゃの馬車は取り出す事が出来なかったのだ。


 その後、仕方なくその馬車を使う事にしたのだが、使ってみると性能自体は『パンプキングカー』のままである事が判明したのだ。


 つまり、見た目だけが変わってしまったという事だ。

 そしてこの馬車と古龍には、実は実装されたきっかけにある共通点が存在した。


 この二つはどちらもアイデアコンテストの入賞作品であり、公募によって採用されたものだったのだ。


 二つとも、初期設定や物語の背景に存在しない特殊な存在なのだ。

 それが原因で元の姿では顕現出来なかったのだろう。

 念の為に他の公募アイテムでも試してみたので、この考えで間違いないという結論に至った。


 アンシェが何故他のドラゴンではなく人間の姿になったのかはわからなかったが、アンシェ曰く「自分の願望を強く念じていたらこうなった」という事らしい。


「マスター、数十メートル先にギャングウルフを確認しました。行って参ります」


 アンシェはそう言うと一瞬で馬車から姿を消し、数秒後には何事も無かったかの様に戻ってきた。

 しばらくしてアンシェの言っていたポイントに到着すると、道の脇には無残な姿へと変わり果てたギャングウルフ達が積み上げられていた。


「アンシェ、助かるよ」


「とんでもございません。マスターのお役に立てるのが私の喜びですから」


 このやり取りは既に数回目だ。

 始めはアンシェのあまりの早業に驚いたが、すぐに古龍である事を思い出し納得した。

 この馬車同様、性能面に変化が無い事がわかって安心した位だ。


 一方でシムカはそうは行かなかった。

 一回目の時は何が起きたのかも理解できていなかったし、回数をこなして理解が追い付いてくると、今度はあまりの強さに完全に閉口していた。


 先輩風を吹かせていた相手がとんでもない化け物だと知って、自分の過ちに気付いたのだろう。

 後悔を匂わせるワードをいくつもブツブツと呟いていたから間違いない。


「シムカ、先輩として今度モンスターが出たらアンシェに手本を見せてやったらどうだ?」


「それはとてもいい考えですね。マスターと寝食を共にする程の人物が、どれ程のものなのか是非見てみたいものです」


 俺が冗談っぽく呟くと、アンシェも話に乗ってきた。

 アンシェは変態だが、案外賢いし空気が読める。だからこそ、こういう冗談が言えるのだ。


「ちょちょ、ちょっとヴァン!へ、変な事言わないでよ!!どどどうしよう……弱いのがバレたら殺されちゃう……」


 そうとは知らないシムカはガタガタと肩を震わせ、完全に怯え切っていた。

 その様子を見て、アンシェがクスクスと優しく笑っている。


 案外良いコンビかも知れないな。

 シムカには後でネタばらししてやるとしよう。



 こうして俺達三人を乗せた馬車は、王都へと向かうのだった。

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