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第22話~古龍のアンシェ

 男の鋭い拳が眼前へと迫る。

 無駄のない動きを見るに、近接戦闘を得意とした職業なのだろう。

 仲間のチンピラ二人はその様子をニヤニヤと見ている。


 正直言って手を出す必要は無い。

 装備している指輪の効果でこれくらいの攻撃は無効化されるし、そもそものステータス差で殴った拳の方がダメージを受けるだろう。


 だが、こちらが争う意思が無い事を示したにも拘らず、わざわざ追いかけてきて攻撃まで仕掛けてきたのだ。

 出来れば係わりたくは無かったが、これを許せる程俺は出来た人間ではない。


 俺は半歩下がって拳を躱す。

 すかさず伸びきった拳を左手で掴み、相手の腕へ右手で手刀を振り下ろした。

 メキメキと鈍い感覚が伝わってくる。


 骨を折ってやるだけのつもりだった。

 しかし、手刀は骨を砕いた後も勢いが収まらず、そのまま男の腕を切断してしまった。


「ぎゃああああ!!腕が…俺の腕があああ!?」


 鮮血が噴き出す切断面を押さえながら、男が絶叫する。

 仲間の二人も、突然飛び込んできた予想外の光景に動けない様だった。


 俺は男の胸倉を掴む。


「いいか?俺は別にお前らにビビってた訳じゃない。雑魚の相手をする程暇じゃないだけだ。始めからお前らなんか眼中に無いんだ、わかったら今すぐに消えろ」


 乱暴な口調もこういう時は役に立つ。

 男を睨みつけると、完全に怯え切った様子でコクコクと頷いた。

 しかし、それまで黙っていた仲間の一人が口を挟んできた。


「て、てめぇこんな事してタダで済むと思ってんのか!!俺達が『闇夜ノ鴉』だって忘れたとは言わせねぇぞ?お前は終わりだ、相手を間違えたな…ヘヘ」


 ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべてはいるが、その額には冷や汗が滲んでいた。


「ゴミ漁りのカラスの事なんて興味無いな。だが、仲間に報告されてまた絡まれるのも面倒だな。よし、全員殺しておくか」


 俺はわかりやすく殺気を込めた魔力を放出する。

 もちろん殺すつもりなんて無い。これ以上面倒事が起きない様に釘を刺しておくだけだ。


「ひ、ひぃぃぃいいい!」

「お、おい待てよ!!」

「クソが…!てめぇ覚えてろよ!!」


 胸倉を掴まれていた男が逃げ出すと、他の二人もあっという間に逃げていった。

 しっかりと落ちていた腕は拾っていった様だ、後で回復してもらうのだろう。


 ふと辺りを見ると、ざわざわと人だかりが出来ていた。

 ドアが開かれたままだったせいで、ギルド内からの視線も突き刺さる。


 だから係わりたく無かったんだ、有名になるのは結構だが悪評はごめんだ。


 すると、ギルド長がやってきた。


「おいおい、騒ぎを聞きつけて来てみれば…。あんまり問題を起こすな、あんまりひどいと俺にも庇い切れないぞ」


「今更やってきて何言ってやがる。それに迷惑が掛からない様にわざわざ建物の外に出てやったんだ」


 それに先に手を出してきたのは向こうだ、正当防衛と言っても差し支えあるまい。


「はぁ…。それにしても闇夜ノ鴉に手を出すとはな。面倒な事にならんといいが」


「有名な連中なのか?」


 仮に襲われても問題は無いだろうが情報を持っておくに越した事は無い。


「有名も有名だ。王都を拠点にしているクランでこの国じゃ知らない奴の方が珍しい。メンバーは50人以上の大所帯で全員がシルバーカード以上の冒険者だ」


「あんな雑魚でもシルバーかよ、大した事無いな」


「話は最後まで聞け。幹部連中は全員ゴールドカードでワイバーン級もまじってる。それにあいつらは悪名高い事で有名なんだ、逆らう奴がいないのをいい事に犯罪スレスレの事までやってやがる」


 なるほど、冒険者の皮を被ったチンピラ集団ってわけか。


「それで、なんでそんな奴らがこの町にいるんだ?拠点は王都だろ」


「大方ワイバーン討伐の話を聞きつけたんだろう。冒険者達が軒並み出払っている隙に町で好き放題しようとしたに違いない」


 王都じゃでかい顔が出来ない下っ端連中が、威張る為にわざわざ遠征に来たってわけか、アホだな。


「まぁこれ以上係わらない様に釘は刺したし、大丈夫だろ」


「連中はナメられて黙ってるような奴らじゃない。気を付けておいた方が身の為だ」


 どれ程ヤバい連中かはわからないが、正直負ける気はしない。


「ま、大丈夫だろ。そんな事よりカードはもう発行出来たか?」


 我関せずといった俺の態度に呆れ果てていたギルド長だったが、溜め息をついた後小さく頷いた。


 俺達は新しいギルドカードを受け取り、ギルドを後にした。




「あーもう!あいつら本当ムカツク!あたしの事子ども扱いした上に胸ばっかりジロジロ見てさ!」


 ギルドを出てからシムカはずっとこんな感じだ。

 腕を切り落としたのは、やり過ぎだと怒られるかと思っていたが、杞憂に終わりそうだ。


「それで、店巡りはどうする?」


「また今度にする。そんな気分じゃ無くなっちゃったよ」


 チンピラ共のおかげで面倒事が一つ減ってくれた、感謝はしないけどな。


 結局俺達はそのまま宿に戻る事にした。


 宿に戻ったシムカはギルドカードをまじまじと見つめている。

 かれこれ一時間は経っている、余程嬉しかったんだろう。


 夕食は思っていたよりも豪勢で驚いた。

 食べ終わる頃にはシムカの機嫌も元通りになっていた。


 風呂から出て部屋に戻ってくると、シムカは既に寝る態勢に入っている。

 元々規則正しい生活を続けていた様で、夜は弱いみたいだ。


 俺はベッドへ寝転がり、今後について考えた。


 憧れていた世界へやってくる事は出来たが、この世界での目的というものが俺には無い。

 正直言って、やろうと思えば殆どの事は出来てしまうだろう。


 王都の一等地に豪邸を立てて遊んで暮らす事も出来るし、世界中を飛び回ってみるのも面白い。

 魔王を倒して英雄になる事だって出来るかも知れない。


 だが、リッチキングの様な一件もある。

 俺の行動次第で、この世界では登場しないはずのモンスターや魔王が出てくる可能性もゼロでは無いのだ。

 油断だけはしてはダメだ、死んだら終わりなのだから。


 俺はおもむろにベッドから起き上がり、目の前にアイテムポーチを置いた。

 そしてポーチからアイテムを二つ取り出す。


 山を斬った剣と、黒い家の形をした小箱だ。


 俺は五つのユニークアイテムを持っている。

 そして、その五つが今目の前にある。


 リッチキングとの戦闘で装備していた指輪と腕輪。

 そしてこの三つだ。


 まずはアイテムポーチ。

『ヴェリオットの胃袋』というユニークアイテムで、能力は至ってシンプルだ。

 容量無限のアイテムポーチ、そして保存しているアイテムは決して劣化しない。

 劣化しないアイテムポーチは珍しい上に、有ったとしても容量がかなり小さいのでありがたい。


 そしてユニークアイテムという点が強力な利点となっている。

 ユニークアイテムは決して奪われない。

 つまりこのポーチの中身がどれだけのお宝であっても、盗まれる心配が無いのだ。


 次に山を両断した剣。

『【暴食】ペインドレイン』というロングソードで、第三魔王を討伐した際のダメージトップの報酬だ。

 かなり古い武器なので、本来であれば後期の武器より性能は劣るのだが、この剣においてその心配は無い。


 敵を倒す度に攻撃力が上昇する、これがこの武器の能力だ。

 上限は無く無限に上がっていくのだが、もちろんそんなに甘いものでもない。

 上がり幅がとにかく小さいのだ。制作側も、実際に上げられる数値を見越した上で無限としたのだろうが、手にしたのが俺だったのが想定外だったのだろう。


 この武器だけを何年間も装備し続け、寝る間も惜しんでひたすら狩りまくった結果、この武器の攻撃力は最新の物にも勝る数値となっていた。


 更に、MPを消費して攻撃力に上乗せするという能力まで付いている為、単純火力では最強と言っていい。


 そして、最後の一つ。

 俺は黒い小箱を手に取った。


 小箱には鎖が巻き付いており、禍々しいオーラが漂っている。

 これは『古龍の巣』というアイテムで、文字通り古龍が封印されている。


 正確にはテイムした古龍の子供が入っており、当然召喚する事も可能だ。

 俺が覇龍剣士になった理由もこいつが居たからだ。


 もしこいつを召喚して操る事が出来れば、今後の戦いがかなり楽になるだろう。

 だが、不安もあった。ここはゲームと違って現実だ、古龍と言えば成体なら体長百メートルを超える巨体で、人間なんて太刀打ちできないほど強い。

 基礎ステータスだけなら俺よりも上だ。


 そんなヤバい龍を、俺は素材稼ぎの為に邪険に扱ってきたのだ。

 召喚した途端に俺に襲い掛かってきたら正直勝つ自信が無い。

 どうするべきか、俺は決断しなければならなかった。




 深夜、俺は町の外の平原にいた。

 あれから数時間経ち、シムカが完全に眠ったのを確認してやってきたのだ。古龍を召喚する為に。

 迷ったのだが、現時点での戦力を把握しておいた方がいいと思ったのが一つ。

 そして、いざとなればすぐに小箱に帰せばいいというのがもう一つの理由だった。


 周りに誰もいないのを確認し、小箱を取り出す。

 俺は、古龍を召喚した。



 ――召喚(サモン)、アンシェ!!



 途轍もない魔力が解き放たれる。

 その衝撃で『古龍の巣』が粉々に破壊されてしまった。

 想定外の出来事に固まっていた俺は、召喚されたものに更に驚く事となった。


「な…誰だ!?」


 目の前に現れたのは、メイド服を着た綺麗な女性だった。

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