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第20話~父性本能

 店を出るとシムカは地面の砂に絵を描いて遊んでいた。

 よく見ると犬や猫の()()()()を描いていたようだ。


「おい、シムカ」


「わっ!?ちょ!無し無し…!見ないでー!」


 俺が声をかけるとシムカは慌てて立ち上がり、砂を足で踏みつけた。

 あっという間に犬と猫は砂粒と混ざり消えてしまう。


「い、いきなり声かけないでよー!変態っ!」


「別にお前がお子様趣味を持ってようが揶揄ったりしないから気にすんな」


「うぅ…。そ、それでお金は手に入ったの?」


 俺はシムカに金が入った麻袋を広げてみせた。


「き、金貨あああ!?すごい…初めて見た。一体なにを売ったの!?」


 シムカは身振り手振りを加えてオーバーリアクションで騒いでいる。

 お子様趣味よりよっぽど面白い。


「部屋に着いたら話す、さっさと宿屋に戻るぞ」


「金貨…金貨…」


 ブツブツ呟くシムカを連れて、俺は宿屋へと向かう事にした。




「いらっしゃいませ!あぁ、さっきのお兄さん」


「部屋の準備は出来てるか?」


 俺は銀貨三枚を手渡した。


「はい、もちろんです。こちらが部屋の鍵になります。こんな時間ですけど何か簡単なお食事でも用意しましょうか?」


 女将はおつりを渡しながら尋ねてくる。


「いや、せっかくだけど遠慮しておく。夜は食べるから用意しといてくれ」


「はい、お任せください。部屋は二階の一番奥になります」


 俺達は女将に礼を言って部屋へと向かった。


「へぇ、なかなかいい部屋じゃないか」


「すごいね!あたしの部屋より広いよ!」


 用意してもらった部屋は12畳ほどの大きさだった。

 内装はベッドとタンスに、小さめのテーブルという簡素なものだったが、掃除が行き届いているのか清潔感があり好印象だ。


「ヴァン!!すごい!このベッドふかふかだよ!ふかふか!」


 ベッドに腰かけたシムカが騒ぎ出す。


「他にも客はいるんだ、あんまり騒ぐなよ。お前それでも年上か?」


 実際には年下なのだがそれにしても酷い。とても22歳の行動では無い。


「う…、ごめん。気を付ける」


 シムカは素直に謝り、大人しくなった。

 予想外だ、どうやら自覚しているらしい。


「それで、さっき売ってきたものだが…これだ」


 俺は先程の様にポーチを一つ取り出した。

 それを見たシムカはポーチを指差し目を丸くした。


「それってヴァンの不思議の袋!?他にも持ってたんだ!」


 不思議の袋というネーミングセンスはさておき、ポーチに関してはシムカも興味があったらしい。


「俺の使っている物とは別物だけどな、大量の物を収納できる点では同じだ」


「そんなに貴重な物、売っちゃっても良かったの?」


「売ったのは一番容量が少ない物だ、大中小とあるうちの小だな。まぁそれでもその戦斧100個くらいは入るけどな」


 シムカは十分すごいじゃん!と言いたげな顔をしているが構わず話を続ける。


「そんで、今出したのが大中小の大だ。屋敷が丸々入るだけの容量がある。これをお前にやる」


 俺はポーチをシムカに向かって放り投げる。

 しかしシムカはピクリとも動かず、ポーチは地面へ、ポス…っと落ちた。


「え…えええええ!?何言ってんのヴァン!?そんなの貰えないよ!!」


 しばらくの沈黙の後シムカが絶叫した。

 小声で金貨が…金貨が…と呟いている。

 小で金貨三枚だ、大なら何枚かと計算しているのだろう。


「お前の戦斧は目立ちすぎるんだよ。最終的にどうせ渡す事になるんだから素直に受け取ってくれ」


 めんどくさいやり取りは出来れば省きたい。

 でも…でも…と言っていたシムカだったが観念したようだ。


「わかったよ、でも貰うのは小でいい。小でも戦斧は仕舞えるし、お屋敷なんて仕舞わないから」


 このやり取りが面倒なんだよなぁ…

 俺は次々とポーチを取り出した。あっという間にポーチの山が出来上がる。


「今出したのは全部大のポーチだ。小と中は自分でいくらでも作れるし、大も大量に余ってる。わかったらさっさと受け取れ」


 アイテムポーチ【大】は戦闘職の俺には作る事が出来ないが、課金ガチャの中当たりとして定番となっていた為、廃課金の俺にはゴミ同然だった。


 シムカは呆気に取られていたが、俺の言いたい事を理解したのかようやくポーチを受け取った。


「ヴァン、ありがとね!」


 満面の笑みを向けてくるシムカ。

 急にそんな表情をするな…不意打ちはズルい。


 俺は気持ちを落ち着かせる様にポーチを一つずつ拾い上げていく。


 シムカは戦斧を出したり仕舞ったりして遊んでいた。

 取り出す度におー!とかわぁー!とか騒いでいる。

 大人しくするのは不可能な様だ。


「さてと、暗くなるまでにはまだ時間がある。冒険者ギルドに行くぞ」


 俺の言葉に戦斧を仕舞っていたシムカの手が止まる。


「え?お店巡りは!?」


「身分証も無いのに町の中をうろつく気か?リッチキングの報酬も貰いたいし、お前もついでに冒険者登録すればいいだろ」


「そっか、あたし冒険者になれるんだ…ヴァンのおかげだね!ありがとね」


 再び満面の笑みでシムカが見つめてくる。


 素直は結構だが、シムカを見てると色々と心配になってくるな…。

 一人になった途端、簡単に騙されるタイプだ。


「お前、勝手に一人になるなよ。何かを決める前に絶対俺に相談しろよ」


「え?急になに!?」


 しまった。つい30過ぎのおっさんの本音が出てしまった。


「いや…何でも無い。とにかくギルドに言って店巡りはそれからだ」


 俺達はギルドへ向かう事にした。

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