第18話~騎士隊長クラスの少女
ここから第二章となりますが、ネタバレ防止の為に2章のタイトルはある程度話が進むまでつけない方向で行こうと思います。
俺達は今、上空にいる。
ワイバーンに乗って、ブール村からグリンの町へ戻るためだ。
シムカは俺がワイバーンを召喚すると驚いた様子だったが、ギルバート達が乗ってきたのを見ていたからか、その反応は予想の範囲内のものだった。
グリンへ戻る一時間弱の間、俺達は色々な事を話した。
余りにも濃い一日だった為に忘れそうになるが、俺達はまだ出会って数日だ、お互いの事なんてほとんど知らないのだ。
「…だからこの腕輪はあたしの宝物なんだ。あ!もちろんヴァンがプレゼントしてくれたペンダントも宝物だからね!」
シムカの話によると、右腕に付けられている腕輪は両親が残してくれた唯一の物らしかった。
腕輪をシムカへと手渡し出掛けたまま、とうとう戻ってこなかったらしい。
要するに、形見みたいなものだ。
ちなみにペンダントをプレゼントした記憶なんて俺には無い。
シムカがその華奢な体躯で巨大な戦斧を操れるのは、どうもその腕輪の効果らしい。
シムカの許可を得て鑑定をしてみた所、この時代にしてはかなりの逸品である事がわかった。
丘巨人の腕輪
丘巨人が持つ大槌を削り出して作られた腕輪。
装備した者は比類なき力を得ると言われている。
装備時
身体能力強化【大】(重複可)
重量補正軽減【大】(重複可)
ついでに件のペンダントも鑑定してみる。
不死王リッチキングの首飾り【呪→無】
リッチキングの魔力が込められた首飾り。
その強大な怨念により、人類を超越する程の力を宿している。
【光魔法により解呪済】
装備時
身体能力強化【大→中】(重複可)
状態異常耐性【特大→中】(重複可)
自然回復速度強化【特大→大】
再生能力付与【極大→大】
ユニークアイテムの方は流石としか言いようが無い。
それにしても、どちらも近接攻撃主体のシムカには相性抜群と言ってもいい。
「シムカ、レベルはいくつだ?」
「えーっと、ちょっと待ってね。確かよんじゅう…え!!?」
ステータスを開いたシムカが固まった。
「どうしたんだ?」
「レベル…65になってる。こないだまで42だったのに」
一夜にして万を超す数のアンデッドを倒したんだ、当然と言えば当然だろう。
「そりゃ良かったな、ちなみにレベルの上限ってあるのか?」
「上限は100レベルだよ?っていうかヴァンも100でしょ?どう考えてもさ」
レベル100…思ったよりも低いな。
となると、手掛かりになりそうなのは…
「魔王の名前ってわかるか?」
「田舎者だからってバカにしてない?魔王の名前を知らない人なんて存在しないよ!」
シムカは頬をぷくっと膨らませて詰め寄ってくる。
「ほう?じゃあ答えて見ろよ」
「やっぱりバカにしてる!グリムでしょ!魔王グリム!!知ってるってばまったくもう…」
魔王グリム…初代の魔王だ。
この魔王の討伐イベントがあったのはサービス開始して二年が経った頃だったか…。
つまり、それよりも前であるのがこれで確定した。
考えてみれば、複数属性の魔法が使える様になるのもグリム討伐の前後だったか、辻褄も合う。
「悪い悪い、そんなに怒るなよ。それにしてもレベル65って中々高いんじゃないか?」
「高いなんてもんじゃないよ!65って言えば一流の冒険者か騎士隊長クラスだよ!」
俺の言葉に一気に機嫌を直したシムカは笑顔で答えた。
それを聞いて俺は新たな疑問を抱く。
「だったらレベル42っていうのも中々って事だよな?お前どうやってそんなに強くなったんだ?冒険者ランクは?」
特に冒険者ランクは気になる。レベルとランクの指標みたいなものは欲しい所だ。
「あたしはずっと一人でモンスターを倒してただけだよ、この腕輪のおかげだけどね。冒険者ランクは無いよ、あたし冒険者じゃないから」
そうか、そうだった。
シムカの話によれば、狩ったモンスターは不定期でやってくる行商人に直接売っていたらしい。
懇意にしてもらい今の装備も新調してもらったとか。
相手からすれば無知な少女から買い叩けるわけだから親切にもするってもんだ。
村の困窮ぶりから見ても間違いないだろう。
だからシムカは冒険者にはならなかったんだ。
そしてレベルに関してもそうだ。
シムカは常にソロで討伐をしていた。
アナライでは経験値はパーティメンバーで均等に分配される様になっている上、人数が少ない程経験値補正が働く仕組みになっていた。
大勢でボコるよりも、一人で倒した方が早く強くなる。現実世界に当て嵌めるとなるほど納得の仕様だ。
経験値を独占していたシムカは、他の冒険者より何倍も早く強くなれたのだろう。
話を聞けば納得だな、シムカの強さの秘密がこれでわかった。
「ちなみに職業はなんだ?まさか村人のままって事は無いだろう?」
「うん、職業は一年に一度だけ村に来る神官様に変えてもらってたよ。今は上級戦士になったところ」
上級戦士はランク3の職業だ。恐らくこの時代の最上位は4か5のはず。
そして今のシムカなら…。
「熟練度はどうなってる?もう次に行けるんじゃないのか?」
「え?こないだ上級戦士になったばっかりだよ?そんなすぐに…あ!」
気付いたように慌ててシムカがステータスを確認する。
「すごいよヴァン!もう熟練度が満タンになってるよ!」
レベルと違い転職の為の熟練度は、モンスターを倒した数に比例する。
つまり、万のモンスターを倒したシムカは当然熟練度も溜まっていたわけだ。
「やっぱりか、あとで落ち着いたら試したい事がある、付き合ってくれ」
「わかったよ。あ…町が」
思いの外話が盛り上がったので、あっという間にグリンへ到着した。
こんなに会話のキャッチボールが出来る様になるとは少し前じゃ考えられないな。
しかし、町を見つけてからシムカの顔が暗くなった事に、俺は気付かなかった。
初めて来た時と同じ様に門の傍でワイバーンから降りたが、前回とは様子が違う。
俺達が門の前まで来ると、門番は背筋を伸ばしこっちに向かって敬礼をしてくる。
よく見れば俺に槍を突き付けてきた奴だ。
「おいおい、どうしたんだよその変わり様は。今日は槍を突き付けなくていいのか?」
揶揄う様に言ってみる、この世界に来てから本当に性格が悪いったら無い。
「揶揄わないで下さい…前回は失礼致しました。リッチキングの事は耳に入っています。どうぞお通り下さい」
態度の変化でそんな気はしてたが、もう情報が回ってるのか。
「揶揄って悪かったよ、それじゃ遠慮なく入らせてもらうぜ」
俺がギルドカードを見せる事も無く門を通過しようとすると、門の前で固まったままのシムカがいた。
「シムカ、どうした?早く行くぞ」
「ヴァンごめん。あたし、入れない…」
シムカは申し訳なさそうに、胸の前で人差し指同士をツンツンしていた。




