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第13話~途切れゆく意識の中で

「ヴァン!ちょっと待ってよ!」


 シムカが結界へと手を伸ばす。


「結界に入るな!出られなくなるぞ!」


「ひぇ!?」


 慌ててシムカは手を引っ込めた。


 無属性魔法『絶対領域(レッドゾーン)』は、自らを中心に結界を発生させる魔法である。

 しかしこの魔法は、通常の結界魔法とは真逆の性質を持っていた。

 通常、結界と言えば外部からの攻撃を遮断し、防御に使う魔法である。


 絶対領域(レッドゾーン)は術者本人を含む、結界内にある()()()()存在の脱出を許さない。

 それは実体を持たない魔力であってもだ。


「さぁ、根競べといこうか」


 不敵に笑ってみせるヴァンだが、その額にはじっとりと汗が浮かんでいた。


 暴走したリッチキングの魔力が、結界内で爆発的に拡散する。


「グオォオ゛オ゛オ゛アアアア゛!!!!!!」


 リッチキングが絶叫する。

 魔力が暴走した事による苦しみか、暴走した魔力に当てられた事による痛みかはわからない。

 どちらにせよ、リッチキングはもがき苦しみ、生物としての形を維持する事さえ困難な状況にあった。


 だがそれは、ヴァンも同じであった。

 今までの人生で決して味わった事の無い痛みが体中を駆け巡る。

 全身を重機でミンチにされている気分だ。

 意識が飛びそうになる。


「ま…ずい…、思った以上だ…」


 始祖王アインスの指輪でさえ防げない程の魔力だ、並の冒険者なら気付く間も無く消し飛んでいるだろう。

 気を抜いた瞬間に終わりだ、回復魔法を使う余裕さえ無い。


 幸い、絶対領域(レッドゾーン)は発動後オートで起動し続ける為、魔力が漏れだす心配は無い。

 しかし、それにはもちろん理由がある。この結界の解除条件にも関わる事だ。


 この魔法は一度唱えると自らの意思で解除する事は出来ない。

 解除する方法は二つ、術者が死ぬか、結界内の術者以外の全ての生物が術者に対し敗北を認める事。


 言い方を変えれば、ヴァンが死亡した瞬間に結界内の魔力が解き放たれるという事だ。


 ヴァンはひたすら耐え、待ち続けた。


 やがて、リッチキングの身体が魔力によって砕かれ始めた。

 腕は砕け、脚は切り刻まれ、胴体は引きちぎられる。


 頭部だけとなったリッチキングは、遂には完全に消滅してしまった。


「まだ…だ」


 ヴァンは集中を解かない。


 先程までリッチキングがいた場所には、赤黒く光るペンダントが浮かんでいる。

 ペンダントはまるで生命を持っているかの様に脈動し、そのスピードが徐々に速くなっていく。


 ドクンッドクンッドクンッ!!!!


 失った頭部が、胴体が、脚が、腕が、巻き戻しのビデオの様に再生されていく。


 そして再生されたかと思うと同時に、またしても絶叫が響き渡る。


「グオォオ゛オ゛オオオアアアアア゛!!!!!!!!」


 まるで先程の繰り返しの様な光景だ。

 ヴァンは筆舌し難い苦痛の中でニヤリと笑った。


「言っただろ?根競べだって…」





 シムカはへたり込んでいた。

 結界の中は見る事が出来ない、暴走した魔力が先程の落雷の様に光を放っているせいだ。


 しかし、絶叫は聞こえる。リッチキングの絶叫が、何度も何度も木霊している。


 ヴァンはどうなってしまったのだろうか。

 無事ではない事くらいはシムカにもわかった、それ程までに異常な光景だったのだ。


「君!!これは!?これは一体何が起こっているんだ!!?」


 突然、上空から声が聞こえる。

 シムカが見上げると、そこには凶悪なモンスターがいた。


「ワイバーン…?ワイバーンが喋ってる?」


 既に正常では無かったシムカは逃げ出す事もせず、ただ茫然とワイバーンを見つめていた。

 ワイバーンはシムカの前へゆっくりと着地する。

 すると慌てた様に二人の男がワイバーンの背から駆け下りてきたのだった。


「リッチキングはどうなった!!!ヴァンは…ヴァンはどうなったのだ!!!」


 貴族の様な佇まいの男が肩を掴み揺らしてくる。


 ワイバーンに乗った得体の知れない男、本来ならば警戒するべき相手。


 しかしシムカは、その男の口から出た青年の名前を聞き、抑えていた感情が決壊したのだった。


 男の腕を掴み、胸の中へと倒れ込む。

 崩壊したダムの様に溢れ出す涙を拭こうともせずに、シムカは叫んだ。


「ヴァンが!!うっぐ…ヴァンが!あの中に゛いるの゛っ!!!!お願い!助け゛て!!!」





 どれ位経っただろうか。

 遠くなる意識の中で考える。

 もはや痛みも感じなくなってきた。


 消滅する度に再生を繰り返すリッチキング。

 二十までは数えたが、それから先は覚えていない。


 あの禍々しいペンダント、あれこそがリッチキングを暴走させ、再生している。

 数年前、取り損ねたあのユニークアイテムだ。


 もし俺があのアイテムを所持していたらどうなっていただろう。

 同じユニークアイテムは二つと存在できないはずだ。

 もしかしたらペンダントを持っていない状態でリッチキングは復活したのかも…。


 ありもしないたられば考える。


 あぁ、なんで山なんか斬るかなぁ…。


 自業自得じゃないか……あぁ……シムカと…約束…守れな……。




 俺の意識は、そこで途切れた。













 途切れたはずだった。


 温かい力が身体に沁み込んでくるのを感じる。

 失っていた視界が、ぼんやりと戻り始める。


 あぁ、生きてる…。


 徐々に意識が覚醒していく。


 なにが起きた…神様は…まだ俺に諦めるなって言ってくれてるのか?


 ありもしない事を考える、都合のいい解釈だ。


 いや…どうだっていいか。とにかく、俺はまだ生きてる…。



 やってやる…根競べの続きだ…!

 俺の身体が消し飛ぶか、お前の魔力が尽きるか…!


 俺は、絶叫し崩壊していくリッチキングを睨みつけた。

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