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第12話~小さな村の守り神

「おりゃあああ!!!」


 シムカが先陣を切り、敵陣に突っ込んで行く。

 あのバカ…無鉄砲にも程があるぞ。


 先頭にいるスケルトンソルジャーにシムカの戦斧が横薙ぎに襲い掛かる。


 スケルトンソルジャーは真っ二つになり、上半身は勢いよく弾け飛んだ。

 しかし、戦斧の勢いは殺され二匹目を断ち切る前に弾かれてしまった。


「嘘っ!硬すぎ!!」


「スケルトンソルジャーは相性が悪い!!無茶をするな!!」


 武装したスケルトンには、それぞれ特徴があった。

 スケルトンソルジャーはただでさえ高い物理耐性が更に強化されている。

 スケルトンメイジは魔法耐性が物理耐性同様に高い。

 スケルトンアサシンは耐性こそ変化はないものの、素早さ補正がかなり強化されている。


 今のシムカではスケルトンメイジ以外の相手はきついだろう。

 しかし、スケルトンメイジは集団の奥に隠れるように配置されており、このままでは攻撃が届きそうもない。


 攻撃が途切れた隙を逃さずスケルトンソルジャーがシムカに襲い掛かる。


 辛うじて反撃を防いだシムカだったが態勢を崩されてしまう。

 流石は上位種だ、一体ずつの能力で考えてもユニコーン級の冒険者と遜色が無い。


 すかさずシムカの周りを敵が取り囲む。

 統率まで取れている、これはリッチキングの操作によるものなのだろう。


 シムカはたまらず跳躍し、態勢を立て直した。


 敵の数は推定で約三千。

 はっきり言ってシムカの手に負える数では無い。


 長引けばまだ数が増えるかも知れない。

 やるなら短期決着だ。


「シムカ!もう下がれ!あとは俺がやる!」


 シムカが何かを言おうとこちらを振り返る。

 その瞬間だった。


 死角からいくつもの影がシムカのすぐ傍まで迫っていた。


「!?」


 一瞬の隙を付かれ防御が間に合わない。

 無数の短剣がシムカに襲い掛かる。


「させるかよ!」


 俺は手を伸ばした。


 それと同時にシムカの目の前に異空間が現れ、そこから飛び出した俺の手がシムカを掴み引っ張った。


 間一髪、短剣は空を切りスケルトンアサシンは突然消えた標的をキョロキョロと探している。


「今のは…?」


「時空間魔法だ、俺とシムカのいる場所を繋げた」


「ありがとう…助けてくれなかったら死んじゃってたね、あたし。悔しいけど、役に立ちそうにないや」


 自分の無力さを痛感したのだろう、俺の服をぎゅっと掴んでくる。


「大丈夫だ、あとは俺に任せろ」



 ――飛翔(フライ)



 俺はシムカを抱きかかえ、飛び上がった。


「え!?ちょっ!!飛んでる!?」


 俺の魔力によって生成された粒子が、背中へ集まり羽根となる。

 その羽根は眩しい程の光を放っていた。


「見つけたぜ、大将」


 アンデッド軍団の後方にそれはいた。

 骨で作られた玉座に座り、頬杖を付きこちらを見ている。

 間違い無くリッチキングだ。

 アンデッド故その表情に変化は無いが、怒りのオーラが見て取れた。


「大事な部下を焼き殺されてご立腹かぁ?」


 俺がわざとらしくニタリと笑うと、リッチキングは立ち上がりこちらへ手をかざした。


 それを合図とする様に、スケルトンメイジが一斉に魔法を放ってくる。


 炎弾、氷柱、雷撃、風刃、土塊。

 あらゆる属性のオンパレードだ。


「ヴァン!?ちょっと待って!死んじゃう!?」


 シムカの叫びをかき消す様に、魔法の弾幕がヴァンを包み込んだ。


 満足気にヴァンを見上げていたリッチキングだったが、黒煙が晴れると再び怒りを爆発させた。


「貴様!なぜ生きている!!」


「へぇ、驚いた。リッチキングってのは流暢に喋るんだな」


 そこには不敵な笑みを浮かべるヴァンがいた。


「あぁ、そうそう。なんで生きているかって?こんな低レベルの魔法じゃ何万発打っても俺には一ダメージも与えられないってだけだ」


 勿論これは始祖王アインスの指輪の効果である。

 シムカも着弾直前にマントで包みこんだ事で、事なきを得ていた。


「忌々しい人間が…強がっていられるのも今のうちだ!」


 再びスケルトンメイジが攻撃態勢に入る。


「悪いがあんた以外は眼中に無いんだ」


 俺は剣を持つ手を天に掲げた。


 すると、無数の星が煌めく夜空が暗雲によって覆われていく。


「この魔法は!?くっ…」


 リッチキングはスケルトンメイジの攻撃を止めさせ、すぐさま防御魔法を展開させる。

 数百体の防御魔法によってアンデッド軍団は鉄壁の構えとなった。


「そんな紙装甲で防げるかよ!!くたばれ!!」




 ――天雷!!!




 無数の雷がアンデッド軍団を襲った。

 激しい落雷の連打により周囲はまるで昼間の様に明るく、耳をつんざく様な轟音が辺りを包む。

 まさに天変地異の様な異様な光景は、当然ブール村からも観測する事が出来たのだった。





 住民にとって、目の前の光景は信じ難いものであった。


 戻ってきた呪術師から、ヴァンという青年が只者では無いと聞いた。

 その後村の入り口が炎に包まれ、村の終わりを覚悟したがアンデッド達は一向に襲ってはこなかった。

 もしや、あの青年が?そんな事を考えていたら、今度は眩い光の羽根を纏った青年が姿を見せたではないか。


 住民の一人からポツリと声が漏れる。


「フォルス様…」


 すると堰を切った様に、次々と声が上がった。


「フォルス様だ!!」

「守り神が来てくださったんだ!!」

「あの青年はフォルス様の化身だったんだ!!!」


 希望を見出した者は歓喜していたが、それは全体の半分程度であった。

 ある者は相変わらず絶望し、ある者は半信半疑と言った風だった。


 しかし、弾幕の様な攻撃にも耐える姿を見て段々と気持ちが湧き上がってくる。


 まさか、本当に…?


 そして、青年が天から雷を呼び起こすと、もはや疑う者など誰一人としていなかったのであった。





 時間にして一分程だろうか。

 先程までの光景が嘘の様に静まり返り、周囲は暗闇を取り戻している。

 しかし、その魔法の残した爪痕が、あれは幻では無かったと証明していた。


 付近の木々は無残にも焼け崩れ、岩は穿たれ地面は不自然なほど変形している。

 そしてその中心部には、焼け焦げた大量の骸が散らばっていた。


 魔法耐性のおかげなのだろう、スケルトンメイジだけが叩き落とされた羽虫の様にピクッピクッと体を震わせていた。


「あれま…全部やっつけちゃった…ひぃ!」


 マントからぴょこっと顔だけ出して周囲を確認するシムカだったが、リッチキングと目が合うと慌ててマントの中へと戻った。


「人間よ…貴様は何者だ!?先程の魔法、この時代の物では無いな?」


「それを聞いても意味は無いだろ。どうせお前はここで死ぬんだ」


「貴様ごときに…こ、この我が、負けるだとぉ?ふざけるなぁ!!」


 リッチキングは先程までの怒りを通り越し、肩をわなわなと震わせている。

 それと呼応する様に、胸元に輝くペンダントが赤黒く光を放つ。

 鈍く点滅するように光るペンダントは、まるで脈動しているかの様であり、尋常では無い禍々しさを擁していた。


「憎い…憎い…!憎イ…人間ガ…憎イィィ!!!」


 リッチキングの魔力が暴走する。

 辺り一帯を消し炭にしうる程の魔力だ。


「おいおい…こんなもん解放されたら村を守るどころじゃねぇぞ」


 魔力はどんどんと唸りを上げていく。

 迷っている時間は無さそうだ。


 俺はマントに包まってしがみつくシムカを引っぺがすと、後ろに放り投げた。


「ちょっと!乱暴すぎ!ていうか一人にしないでよ!?」


「そこで待ってろ」


「待ってろって、ヴァンはどうするのよ!?」


「ちょっと決闘(タイマン)してくる」


 嫌だなぁ…。

 俺は溜め息を吐き、魔法を唱えた。



 ――絶対領域(レッドゾーン)!!



 禍々しいオーラを放つ結界が、俺とリッチキングだけを包み込んだ。

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