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第10話~斧鬼

 気が付けば、夜の帳は下りていた。

 辺りはすっかり暗くなり、遠くの方では梟の鳴き声が響いている。

 骸骨達にとっての()が始まったのだ。


 瞬間、激しい地震の様な衝撃が村全体を襲った。

 すかさず探知魔法を使用すると、村人達が警戒していた方向から巨大な魔力を感じ取ることが出来た。

 その周囲に小さな魔力源が増えていく。

 リッチキングが生み出したワイトやグール共だろう。

 油断していたわけではない、だがその増えるスピードが想定外だった。

 始めはポツポツと増えていた反応は気付けば爆発的に増えており、祠があった場所一帯をあっという間に埋め尽くした。


「来たか!?」


 慌てて駆け付けたシムカが祠の方を見つめる。


 その手には身の丈を超える長さの巨大な戦斧が握られていた。

 柄の長さも然る事ながら、驚くべきはその斧面の巨大さだ。

 一辺70~80センチ、最も分厚い部分の厚みは10センチ近くあり、重量はどう少なく見ても100kgは下らないのが容易に想像できる。

 ましてやそれを柄を持って振り回して使うのだ、並の事では無い。

 しかしシムカはその戦斧を楽々と肩に担いでおり、防具と同じ素材なのであろう純白のそれは、シムカ専用と言いたくなる程に調和が取れていた。


「祠の方にでかい反応、恐らくリッチキングだ。その周囲に尋常じゃない数の別の反応がある。数は現時点で数千、急がないとどんどん増えるぞ」


 俺の言い放った数千という言葉に、村人達がどよめく。

 シムカはぎゅっと戦斧の柄を握りしめていた。


「大変だぁぁあ!!来たぞおおお!!!!!」


 入り口の方から松明を持った男が大慌てで走ってくる。

 一人ではない、警戒に当たっていた男衆が全員、次々と逃げるように向かってきた。


 ドゴォォォン!!!


 入り口の方から爆発音が聞こえてくる。

 それを聞いた瞬間、身体が反応していた。


 俺はそのまま一気に入口へと駆け出した。


 俺が動いたのに気付いたのか、一拍遅れてシムカが後に続く。



「くそぉぉぉお!なんて数だよおおお!」


 爆発のあった場所へと辿り着くと、村に到着した時に入り口にいたローブの男が戦っていた。

 必死になってファイアボールを打ち出しているが、戦力差は誰の目にも明らかだった。


 一撃必中。打てば必ずグールを燃やし、その後には骨も残らない。

 きっと毎日軍で鍛錬を積み重ねてきたのだろう。

 しかし一つのファイアボールで倒せる数はたったの一体、これではどうしようも無かった。


 既に男の眼前には500体近いアンデッドが押し寄せている。


 俺は男の元へと駆け寄った。


「選手交代だ、あんたは広場に行って村の連中が無茶しない様に見張っててくれ」


「お前はさっきの…。今のを見ていなかったのか!無茶だ!」


 俺は男の言葉を無視し、腰元からミスリルの剣を抜くと、横薙ぎ一閃。剣をふるう。


 激しい風圧が巻き起こると、前方半径十メートルにいるアンデッドを一匹残らず切り裂いた。

 アンデッドの身体は腰から綺麗に真っ二つに割かれ、その場には大量の死体だけが残った。


「なっ…!剣でアンデッドを倒したのか!?信じられない…!」


「わかったらさっさと広場に行ってくれ、はっきり言ってここに居座られると邪魔なんだ」


 男は未だに信じられないという顔をしたまま、コクコクと頷くと広場へと走っていった。


 丁度男とすれ違う形でシムカが到着する。


「今の…何?」


 遠くから見えていたのか、シムカが訪ねてくる。


「見ての通り、ただ切っただけだ。俺は強いんだよ」


 つい軽口を叩いてしまう。

 ますます驚いたシムカだったが、今度は期待の眼差しでこちらを見つめてくる。


「すごい、すごいよ!これなら…もしかしたら村が本当に助かるかも」


 彼女は始めから知っていたのだろう。

 自分一人では、どう足掻いても勝てない事を。

 それでもそんな素振りをおくびにも出さずにここまでやってきたのだ。

 なんて強いんだろう。

 そんな彼女が今希望を見出している、この俺に。


 絶対に裏切れないよな。


「今度はあたしの番だね、見ててよね!」


 そう言い残すとシムカは大群の中に突っ込んでいった。


「おりゃりゃりゃりゃああああ!!!!!」


 シムカは戦斧を柄の先端で持つと、ハンマー投げの様にぐるぐると回し始めた。


 見た目とは正反対の戦闘スタイルに目を見開く、戦斧基準で言えば見た目通りなのだが。


 シムカが振り回す戦斧の刃にアンデッドが当たると、そのまま上半身が飛ばされていく。

 上下を切り離すという倒し方は俺と全く同じなのだが、与える印象は大違いだ。


 俺の剣がアンデッドを切り裂く様に倒しているのに対して、シムカの斧はアンデッドを叩き切っていた。

 切断しているはずのシムカの周囲からはゴキッ、ぐちゃっ、と鈍い音が聞こえてくる。


 粗方倒し終えると、シムカはこちらへ走り寄ってくる。


「どう?あたしも中々のもんでしょ?」


 どやっ!と笑顔で話すシムカであったが、フっと真面目な顔になる。


「でもね、わかってるんだ。こんなんじゃ役に立たないって。お願い。役には立てないけど…邪魔はしないから、あたしにも戦わせて」


 真剣な眼差しでこちらを見つめてくるシムカ。


「戦ってもらうし、役にも立ってもらうさ」



 俺はシムカの頭にポンっと手を置くと、ありったけの付与魔法(バフ)をかけてやった。



「なにこれ…すごい!!力が溢れてくる!!キミ、何者なの!?」


 キラキラとした目で見つめてくるシムカを尻目に、気付けばアンデッド達は村へと入ろうとしていた。

 俺はシムカの頭をポンっと叩くとアンデッドへと向き直る。


「させるかよ!」


 一歩で間合いを詰めると同時に切り刻む。

 村へ入ろうとするアンデッドを蹴散らしながらシムカの様子を伺うと、凄まじい光景がそこにはあった。


 大群の中を全速力で蛇行するシムカ。

 突撃しながら巨大な戦斧を片手で軽々と振り回している。

 余りにも高速で振り回される戦斧はもはや斧としての機能を果たしておらず、柄や面に触れただけのアンデッドまで巻き込み、次々とミンチを量産していた。


 華麗な剣技で美しく戦う者を剣姫(けんき)と呼ぶのだとしたら、今のシムカは差し詰め剣鬼(けんき)といった所か。

 いや、斧だから斧鬼か。


 気付けば口角が上がっていた。

 どうやらシムカに()()()()()らしい。俺は自らにも付与魔法(バフ)をかけると、大群の中へと突っ込んで行ったのだった。

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