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軍人、ゴブリン討伐に向かう

「はい、これでアレクセイさんの冒険者登録が完了いたしました」


 何枚か書類を書かされ、俺の冒険者登録はあっさり終わった。

 先刻平手打ちされた俺の頬はまだジンジンと腫れていた。


「まず最初はFランクから始まり、仕事をこなしていくにつれてE、Dと上がっていきます。まずは一人前と言われているDランクを目指しましょう。ちなみにFランクの仕事はこんな感じですね」


 ずらっと並べられた書類には、薬草採取や溝掃除、町の清掃や草刈りなど、およそ冒険者らしからぬ依頼が書かれていた。

 報酬金は各々銅貨5枚から7枚程度だ。

 これじゃあビール一杯飲んだら終わりじゃないか。


「ちょっと安すぎないか? これじゃ生活出来ないと思うが」

「それだけ数をこなせばいいのですよ。それに下積みは大事です」


 顔は笑っているが、さっきから妙に冷たい。


「えーと、ミラちゃん怒ってる」

「怒ってなんていませんよー。ふふふ」


 笑っているが明らかに怒っている。

 目が怖い。


『あなたが悪いのですよアレクセイ。いきなり胸なんて揉むから』

『仕方ねーだろ。最近女に近づいてすらいなかったんだからよ』


 こちとら長い兵役期間、堅苦しい軍で禁欲生活を強いられてきたのだ。

 PCでエロムービーを漁る事も出来ず、女の身体にも触れず、雑誌のピンナップをオカズにして……無理やり襲わないだけ紳士的である。


「……アレクセイさん?」


 ミラは不思議そうに俺の顔を覗き込み、首を傾げる。

 可愛い。キスしたい。

 でもそんな事をしたら今度こそ口も聞いてくれなさそうだし、我慢だ。俺は我慢のできる男だ。


「あぁはい。すみませんね。ぼうっとしてて……えーとつまりFランクの俺は、この中からしか仕事を選べないと」

「はい、ですので他のお仕事をしながら空いた時間にやるのをお勧めします。ですがもう少しランクが上がれば生活には困らないと思いますよ」

「なるほど……おっ、これなんかいいんじゃないか?」


 依頼書の中から見つけたのは、ゴブリンの巣穴を潰して欲しいというものだ。

 報酬は銀貨十枚。

 町で見たが銀貨一枚が銅貨十枚換算のようだ。

 これだけあればメシも酒も食い放題飲み放題である。


「ゴブリンの巣穴潰し……ですか。アレクセイさん、申し訳ありませんがその依頼はパーティ向けでして、やるなら誰か誘ってからの方が……」

「そうなのか?」

「えぇ、ゴブリンは単体では強力な魔物ではありませんが、群れをの討伐は危険度が高めです。ソロで挑むのはもっと経験を積んでからの方がよろしいかと」


 やんわりと断られてしまった。

 ゴブリンならさっき倒したし、いけると思ったんだがな。

 仕方ない、他の仕事を探すか。


「なら俺がついて行こう」


 と思っていたら、ドランがずいと進み出た。


「ドランさん!?」

「Bランク冒険者の俺がついていくなら問題ないだろう?」

「それはまぁ……構いませんが……」

「決まりだな」

「いや、勝手に決めるんじゃねーよ」


 俺はドランの提案に即座に抗議する。


「何が悲しくてお前みたいなおっさんについてこられなきゃならんのだ。だった俺はミラちゃんと行く」

「いや、私は行きませんから!」

「大丈夫だよ、俺が守ってあげるさ」

「いや、行かないと言ってるでしょう!?」


 遠慮しているのだろうか。可愛い。


「じゃ、決まりだな。このドラン様がついて行ってやるからありがたく思えよ。それとも他の依頼をやるか?」


 ニヤリと笑うドラン。

 草むしりやドブさらいをやって、ビール一杯飲めるか飲まないかなんて端金を稼ぐ気力はない。


「…………チッ、仕方ないな」


 俺は大きなため息を吐いて、ドランの同行を認める事にした。


 ■■■


「さて、行くとするか、アレクセイよ」

「……おう」


 俺が不機嫌そうな返事すると、ドランは大きな手で俺の背中を叩いた。


「そう警戒するなって!」

「会ったばかりの人間を警戒するのは当然だろう」


 戦場では命乞いをしてきた敵に、背中から撃たれる事もある。

 ましてやいきなり殴りかかってきたような野蛮人だ。

 警戒しない方が無理である。


「俺はお前に興味を持ったんだ。さっきの体捌き、只者じゃなかった。お前の実力が見たくなってな」

「おっさんに興味を持たれる位なら、ミラちゃんに興味を持たれたかったぜ」

「そうなりたきゃ冒険者として活躍し、ランクを上げる事だな。Aランク冒険者ともなりゃ女たちが放っておかないぜ?」

「何? どういう事だ」

「冒険者は基本、安定しない根無し草だ。確かに下位は全くモテないが、上位になれば話は別。例えば俺はBランクだが、報酬は最低でも銀貨五百枚を超える。Aランクなら金貨十枚とか、そこらの貴族より収入があると聞くぜ?」

「ほほう……?」


 その言葉を聞いて俺は、にんまりと笑う。

 モテる上に金も稼げるとなれば、やらない手はない。

 俺が軍に入ったのも、モテるし給料がいいからだ。

 確かに軍隊に入った時は女の子にモテた。

 だが軍には女の子がいない。

 休暇で街に帰るまでは右手が恋人なのである。

 しかし冒険者なら比較的気ままに過ごせそうだし、美女の仲間とのロマンスも期待できる。

 よし、その為ならこの男を利用してやろうじゃないか。


「……わかった。さっさとゴブリン共を全滅させて報酬を頂くぞ」

「悪い顔で笑うなぁ、お前さんはよ……まぁいい。依頼場所は北の山にあるようだな」


 ドランの指差す方向、約50キロほど先に小高い山が見えた。

 あれがそうだろう。30分も走れば着きそうだ。


『シヴィ、ゴブリンの巣穴の位置はわかるか?』

『確認中……わかりました。ここからまっすぐ行って少し登った中腹付近です』

『わかった。位置をロックしておいてくれ。近づいたら詳細位置を頼む』

『了解』


 シヴィにそう指示しておく。

 これで位置は問題なし。


「よし、行くか」


 そう言って俺はゴブリン共を殲滅すべく、駆け出すのだった。

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