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軍人、冒険者になる

 中に入るとギルドの中はチープで雑多な感じ雰囲気だった。

 乱雑に物が置かれており、椅子やテーブルも木造りの簡素なものが並んでいる。

 鎧兜を纏った剣士、引きずりそうなほど長いローブを着た老人、筋骨隆々で上半身裸のおっさん等々……個性的な恰好をした連中がテーブルに座り酒を飲んでいる。

 どうやらギルドというのは随分緩いというか適当な組織なようで、気楽なのが好みの俺としては好感だ。……おっ。


 すぐ前方、カウンターの奥に一人の女性が立っていた。

 メイドエプロン姿の女性、美しい黒髪を後ろで結え、括っている。

 どうやら受付嬢か何かのようで整った容姿ではあるが冷たい印象ではなく、人懐っこい笑顔の美人。

 加えて居乳。俺のどストライクである。

 俺はまっすぐ進むと、その女性の前に立つ。


「こんにちは、美しいレディ。よければ今夜、ディナーでもどうかな?」

「は、はぁ……どちら様でしょうか……?」

「アレクセイ=ガーランド。愛の旅人です」


 決め顔でそう言うと、受付さんは目を丸くしている。

 どうやらいきなり愛を囁かれ、照れているようだ。

 だがすぐに状況を理解したようで、ぽんと手を叩く。


「……あぁ、旅人さんですか。ということは冒険者登録に来たのですね!」


「えぇそうです。その通り。どうやら俺の事は何でも見透かされているようだ」

「あはは、この町に来たばかりなら身分証が必要ですものね」

「はい、加えて言うならあなたのような美しいレディの愛も」


 そう言って受付さんの手を取る。

 小さくて柔らかく、可愛らしい手だ。

 うーん、頬ずりしたい。


「おい」


 そんな至福の時間を邪魔する声。

 振り向くとそこには禿頭の大男が立っていた。

 何故か妙に殺気立っており、鋭い視線で見下ろしてくる。


「てめぇ新入りのくせにミラに手ェ出してんじゃねぇぞ」

「ほほう、ミラちゃんというのか、可愛い名前だ」


 俺は受付さん改め、ミラの方を見て言った。

 ミラは乾いた笑みを浮かべている。


「おいコラ、無視してるんじゃねぇぞ!」


 男の言葉と同時に聞こえる風切り音。

 即座にしゃがむと、頭上を男の拳が通り過ぎた。

 風で俺の髪が揺れる。


「危ないな。ミラちゃんに当たったらどうするつもりだ」

「当たらねぇよ。てめぇが避けなければ……なっ!」


 何が気に入らないのか、男は拳を振り上げて殴りかかってきた。


「ドランさん! やめて下さい!」

「悪いが聞けねぇな。新入りに根性入れるのは金等級冒険者であるこのドラン=バルドル様の仕事だ」


 振り下ろされる拳をひょいと躱す。

 名残惜しいがミラの手を離し、攻撃を避けながら開けた場所に移動する。


「おー! やれやれ!」

「ドランに銀貨二枚!」「俺は三枚だ!」


 いつのまにか酒を飲んでいた連中が盛り上がり、賭けを始めていた。

 殆どドランが勝つ方へ賭けているようだった。


「ふん、見る目がない奴らだぜ」


 とん、とん、とステップを踏みながら、拳を構える。

 一応軍の訓練で、ボクシングは習得済みだ。


「何だ? ダンスのつもりか? そりゃあ……よっ!」


 懲りずに大きく振りかぶり、殴りかかってくるドラン。

 相変わらず予備動作も大きく狙いもわかりやすい、大振りのテレフォンパンチだ。

 俺から見れば止まって見えるような攻撃である。

 軽くスウェーで躱し、ワンツーを顔面に叩き込む。


「ツッ……くそがっ!?」


 呻き声をあげるドランだが、ちょっと鼻血が出たくらいだ。

 よし、手加減にも慣れてきたな。力を込めなければゴブリンをミンチにしたときのような破壊力は出ない。

 ドランは怯みながらも反撃を繰り出してくるが、当然躱す。


「今度はこちらからいくぞ」


 ドランの攻撃をダッキングで躱し、懐に潜り込む。

 そしてアッパーカット――を繰り出そうとした俺の顔面に、透明な壁が激突した。


『あ、申し訳ありません。アレクセイ』


 それは姿を消していたシヴィが、俺の移動線状にいたのだ。

 激痛に顔を押さえてうずくまる。


「ってぇぇ……くそ、俺の高い鼻が……」


 思い切り鼻にぶち当たったじゃないか。

 なんでそんなところうろちょろしてるんだよ。もっと離れていろというに。

 鼻、曲がってないだろうな……押さえて確認するが……うん、何とか無事のようだ。


「あーあ、やはりドランの勝ちかぁ」

「もしかしたらと思ったんだがなぁ」


 観客たちの盛り下がる中、ドランは何が起こったか理解出来てないようだった。

 避けられ、手ごたえのなかったはずの攻撃が何故か当たったことになっているのが不思議なようである。

 それでも視線を自分の拳から俺に移した。

 ――やるか? 俺も立ち上がり拳を構えようとした、その時である。


「ドランさんっ!」


 ミラのストップがかかった。

 カウンターから身を乗り出し、ドランを睨みつけた。


「いつもいつも新人さんに因縁つけてケンカして、仲良くしなきゃはダメでしょ!」

「お、おいミラ、俺はお前の事を守ろうとしてよ……」

「言い訳無用! 私、乱暴な人は嫌いですっ!」


 ぷいと頬を膨らませるミラに、ドランはタジタジだ。

 ここは追い打ちを仕掛けておこう。


「そうだそうだ。暴力反対ー」


 といいつつ、どさくさに紛れてミラのおっぱいを揉む。

 揉むたびにふにふにと形を変えていく。

 うほっ、いいおっぱい。

 ドランとその後ろにいる連中の目が点になっていた。


「きゃああああああああああっ!!」


 振り向きざま、スナップの効いたいい平手打ちが俺の頬を引っ叩く。

 ぱちーーーんといい音が鳴り響いた。

 うほっ、いい平手打ち。


「何するんですかっ!」

「いやその、丁度いい位置にあったからつい……」


 丁度目の前、すぐ触れるような場所に極上のおっぱいがある方が悪い。

 健康な男子なら触らないわけにもいかないだろう。

 ましてや俺はずっと戦場にいて、女日照りだったのだ。

 本能に負けても仕方ない。なくない? ……ないか。すみません。


「ついじゃありません! 出禁にしますよ!」

「そ、そりゃ困る……頼むぜミラちゃん。許してくれよ」

「じゃあ二度としないでくださいねっ!」

「……はい」


 とはいえ俺が悪いのは事実だ。

 ドランたちの視線も痛い。

 次は本能に負けないよう頑張ろう。うん。


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