軍人、試験開始する
「戻ったぜ」
ギルドに帰った俺は、開口一番そう告げた。
5人のゴロツキを引き連れた俺に視線が集まる中、ミラの元へ行く。
「約束通りゲッコー団全員捕まえてきたぞ。間に合ったかい」
「え、えぇ……驚きましたアレクセイさん。丁度5分前ですよ」
おおう、あと5分だったか。結構危なかったな。
ゴロツキどもをぞろぞろ連れ歩くと人目につくから、裏路地を通って帰ったが正解だった。
来たのと同じ道で帰ってたら、間に合わなかったかもしれない。
「それじゃ依頼達成ってことでオーケー? 人数は足りてるか? 一応本人たちに確認は取ったが……」
ちらりと男たちに視線を向けると、ブンブンと頭を縦に振る。
そんなにビビらんでも。
確かにちょっと荒っぽく聞いたけれども。
ミラは手元のコンソールを操作して、男たちを確認していく。
「はい、問題ありません。ゲッコー団のメンバーは全て揃っています。……というか一人でもよかったのですが……いえ、もちろん全員でも構いませんよ。報酬金はちゃんと5人分お支払いいたします」
「そりゃ良かった」
「では改めて、アレクセイさんはランクアップ試験を受けることが可能です。もう始まりますが、休憩なしで大丈夫ですか?」
「ウォーミングアップに丁度良かったさ」
俺はミラにパチンとウインクをした。
きっと惚れてくれただろう。うん。
「それではセシルさん、お待たせしました。こちらへどうぞ。あ、アレクセイさんもついでに」
ミラはセシルに声をかけ、奥の部屋へと向かう。
『ついで扱いですね』
『……照れてるのさ』
俺は振り返らず進むミラの後を、トボトボとついていくのだった。
■■■
「それではDランク昇格試験の内容を説明します。試験は北にある森で数日間に渡って行われます。アレクセイさんにとっては、特に難易度が高いかもしれませんね」
ついで扱いに俺用特別コースかよ。
愛が重いぜ。
「試験の内容は?」
「野生動物の生態調査です。森は貴重な食糧源ですから、そこに生息する動物のおおよその数、分布を書き記して貰います」
「ほう、楽しそうじゃないか。だが何故俺が苦手なんだ?」
「非戦闘区域、ですか」
「ええ」
セシルの答えに頷くミラ。
非戦闘区域とはなんだ一体。
「文字通り、森は戦闘が出来ない区域なのです。戦闘狂のアレクセイさんにはつらい試験になるでしょう。冒険者たるもの、訳あって戦えないこともあります。今回の試験で試されるのは戦闘を避けるスキル、とも言えるでしょう」
なるほど、それで俺向きじゃないと。
というか誰が戦闘狂だ誰が。俺の事を狂戦士か何かかと思ってないか?
だとしたら失礼が過ぎる。
「戦闘したか否かはこちらの方で分かります。その時点で失格となりますのでご注意ください。では森への馬車を待たせていますので、早速乗って下さい」
ミラの言葉に、俺とセシルは顔を見合わせるのだった。
■■■
「なぁアレクセイ、これはつまり森に一週間滞在しろ……という事だよな」
馬車に揺られながら、セシルが問うてくる。
「多分な。そうでなければ生態調査に関しては詳細な説明が全くないのはおかしい。例えば獣10種以上の数を調査しろ、とか言ってくるはずだ。つまり恐らく生態調査は『ついで』なんだ。単にそれをして一週間森にいたのを証明しろって事だろうな」
「なるほど……」
「お、見えてきたぞ」
そんなこんなと言っているうちに、森が見えてきた。
馬車は俺たちを下ろすと、ガタガタと車輪を鳴らしながら帰っていく。
迎えは一週間後、それまでここで過ごせばいいわけだな。
「さて、まずはテントの設営だな」
セシルがテントを建てようとする中、俺は渡されたノートを手に森へと足を向ける。
「寝袋があるからいいだろ。そんな事より森へ行こうぜ!」
「はぁ?」
俺の言葉にセシルは呆け顔になっている。
「生態調査なんて真面目にやらなくていいと今自分で言っていたじゃないか。何故やる気になっているんだ?」
「これでも小さい頃は動物博士を目指していてね」
ガキの頃は無視や動物を追いかけまわして遊んでいたものである。
実はミラから森の生態調査の話を聞いていた時から、結構ワクワクしていたのだ。
「てなわけで悪ぃセシル、俺ちょっと行ってくるわ」
「あ、おい待てアレクセイ! おーい!」
「夕方には戻るからよ!生態調査はお前の分もやっておくから、設営頼む!」
「あぁもう……夕食までには帰るんだぞ!」
呆れたようなセシルの声を背に受けながら、俺は森へと入っていくのだった。
 




