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軍人、瞬殺する

下を見下ろすと、眼下では男たちが凍った床に貼り付けになっている。

残り時間は……あと30分以上あるな。

あとはこいつらを連れて帰るだけである。

全身氷漬けにして運ぶか? いや、それは目立ちすぎるし歩いて帰ってもらった方がいいな。

暴れなければいいんだが……とにかく降りるとするか。


「よっと」


天窓から飛び降りた俺は、男たちを一瞥する。

全員、足を凍り付かせたままにもかかわらず、俺を見て強気に声を荒らげた。


「なんだてめぇオラァ!」

「こいつはてめぇの仕業かドラァ!」

「今すぐ解きやがれぶっ殺すぞグルァ!」


噛みつかんばかりの顔を向けてくる男たち。

うーむ、まるで狂犬だ。

全くゴロツキって奴らは下品だなぁ。


『あなたが人の事を言いますか……』

『んー? 聞こえんなぁ』


呆れた口調でツッコむシヴィを受け流す。

品方公正な好青年を捕まえて何をいうのかねこの端末機械は。


「ざっけやがって! てめぇツラ覚えたからなぁ!?」

「明日の朝刊載ったぞオメー!」

「へいへい、いいから黙ってな」


しつこく吠える男たちにしっしっと手を振った。

言っておくが朝刊載るのはお前らの方である。

極悪盗賊ゲッコー団逮捕、敏腕イケメン冒険者、お手柄。

おっと、俺も載ってるな? ははは、こいつは一本取られたぜ。


「……ん?」


何かおかしい。

確か最初は5人いたはず。

だが今は一人減ってる気がするぞ。

辺りを見渡すと、氷で覆われた床にブーツだけが残されているのを見つけた。


「ヒャーッハー!」


背後の声に振り向くと、難を逃れた裸足の男が手にしたナイフで切りかかってきた。

どうやら氷に捕まった瞬間にブーツを脱いだようである。

俺は振り下ろされるナイフを軽く躱して飛び退いた。


「てめぇ冒険者か? 俺たちに手ェ出してタダで済むと思ってるのかぁオイ」

「タダじゃないな。懸賞金金貨15枚だっけか? それなりの金にはなる」


俺の言葉に男はこめかみに青筋を浮かべた。


「ば、馬鹿にしやがって……」

「ていうかせっかく背後を取ったんだから黙って斬りかかって来いよ。そりゃバカにするわ。バカ」

「舐めやがってクソがぁ! ボコボコにしてやるぜ!」


男は腰から何かを取り出し、口に入れた。

チラッと見えたが錠剤のようだ。

途端、男の目が充血し震え始める。


「殺す……殺す殺す殺す、殺すッッッ!」


男の様子が変わっていく。

全員に汗を浮かべ、筋肉が流動し、瞳孔が開き始めた。

見るからにヤバい。

なんだありゃ、覚醒剤でも使ったのか?


『あの男の変貌、麻薬による反応と酷似しています』

『チッ、ヤク中かよ』


軍でも戦闘時はこの手の薬がよく使われていた。

疲労がポンとすっ飛び、集中力がガンガンに増し、24時間戦えるようになるのである。

単純に戦闘能力が倍かそれ以上、戦闘をする上では効果てきめんだ。

尤も、使い続ければ廃人となりまともには生きられなくなるのだが。


「てめぇらゴラァ! 舐められてんじゃねーぞぉ!」

「うおおおおっ!」


男が叫ぶと、他の者たちもそれに呼応するように薬を飲んだ。

同様に変貌していく男たち。

有り余る力を解き放つように、足を封じていた氷を粉砕し、俺を取り囲む。

バキボキと拳を鳴らしながら、ゆっくりと近づいてきた。


「覚悟は出来てるんだろうなぁ……?」

「さっきは不意打ちだったが、今度は油断しねぇぜ」

「とりあえずボコボコにしてやるかぁ? ひゃははははっ!」


■■■


「すみませんでしたぁっ!」


全力で謝る男たち。

顔面は腫れ、手足には青あざが出来ている。

とりあえずボコボコにしておいたわけだが……思ったより根性なかったな。

男たちは土下座し、涙ながらに謝ってくる。


「もう無意味に相手を威嚇したり、聞いたり人に乱暴を振るったりはしません!」

「心を入れ替えて頑張りますから、ですからどうか許してください!」


何度も頭を下げる男たちを前にして、俺は呆れていた。

確かに薬で戦闘能力は上がっていたが、それは気持ち程度のものである。

まぁ異世界の薬だからか、本来の二割り増しくらいな感じを受けたが、その程度では当然俺の敵ではない。

それはやる前からわかっていたけれども……


「そんなにビビらなくてもいいんだがなぁ」


俺が頭を掻こうと手を挙げると、男たちはビクッと身体を震わせた。

また何かされると思ったのだろうか、幾ら何でもビビりすぎである。


『あそこまで情け容赦ない攻めをされては仕方ありません。彼らといえど格の違いを思い知ったことでしょう』

『そんなもんかね』


確かに結構ボコった上、薬を吐き出させるべく何発か重めのボディーブローをかましてやったが。

連中ゲロゲロと吐いていたが。

泣いてもやめなかったが。

やれやれ、これくらい軍では普通なんだがなぁ。


「ま、いいや。キリキリ歩け。ギルドに行くぞ」

「はいっっっ!!」


元気よく返事をするゲッコー団を連れ、俺はギルドへと戻るのだった。

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