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軍人、盗賊団を探す

 ギルドから飛び出した俺は即座に大通りへと駆け出す。

 向かう先はあぶれ者たちが住まう裏路地街。

 大通りを抜け、通路一本入ると空気が変わる。

 昼だというのに薄暗く、ボロボロの服を着た者たちが生気のない目で俺を一瞥し、すぐに視線を下ろした。

 以前散策してたら迷って来た事あるが、相変わらずしけた場所だぜ。


『アレクセイ、こんなところに来て一体どうするつもりですか?』

『ゴロツキやチンピラみてぇな表に出られないような輩は人目を避けて生きてるからな。こんなドブネズミがいそうな場所に好んで住んでるもんだ。ここでまず情報を集める』

『聞き込みをしている時間などないと思いますが……』

『何言ってんだシヴィ。そこでお前の出番だろ? この周辺の音を集めてくれ』


 シヴィに搭載されている集音マイクは、半径1キロメートル内のあらゆる音声を拾う。

 これで怪しい会話をしている人間を片っ端から訪ねていこうという作戦だ。


『何をバカな。確かに音を集めるのは可能ですが、会話内容の判断は私には出来ません。アレクセイが直接書く必要があるはずです。ノイズはある程度カットするとはいえ会話だけでなく小動物の歩く音から虫の羽音まで集めるのですよ。そんな大量の音声データをどうやって聞くつもりですか?』

『気合いと根性だ。いいからやってくれ』

『……了解』


 諦めたように呟くと、シヴィはハッチを開けて集音マイクを剥き出しにした。

 反響板をマイクに当て、周囲の音を拾い始める。

 俺はそれが集まってくるのを腕組みをして、ただ待つ。


『まずは1分間集めた音源データを渡します。ノイズはある程度カットしていますが、とても聴けるものではありませんよ。かなり脳に負担がかかると思いますが、本当によろしいのですか?』

『構わない。やってくれ』

『では……』


 シヴィから送られてきたデータを開く。

 と、頭の中に大量の音が溢れた。

 虫の這い回る音、小動物の咀嚼音……あまりの不快さに顔を歪める。

 うっげ、気持ち悪い。吐きそうだ。

 だがそれを堪え、大量のノイズの中から人の声、その会話内容に耳を集中する。


「あー腹減ったー。そこのゴキブリ……く、食えるかなぁ……」

「なぁいいだろ? ちょっと金を分けてくれるだけでいいんだよ。すぐ返すからさぁー」

「うぅ……死ぬ、死ぬぅ……いてぇよー……」


 裏路地街らしいネガティブワードが頭の中に響く。

 全くこんなものずっと聞いていたら鬱になりそうだぜ。


『一旦休憩いたしますか?』

『そんな時間はねー。次々頼む』

『了解』


 再び、集中。

 また音が耳に入ってくる。


「てめぇら俺たちに手を出して済むと思ってるのかぁ!? 俺たちゃ泣く子も黙るゲッコー団だぜ!」


 どうやら喧嘩のようである。

 早速名前が出たが、こいつは恐らくカタリだな。

 本人たちは追われているのを自覚しているだろうし、たかだか喧嘩で名前を出すはずがない。

 こいつはただのチンピラだろうな。次だ。


「ブツはこれだ。金を見せろ……確認した。では取引と行こうか」

「中々の上物だな。金貨200枚で手を打とう」


 何かの取引のようだ。かなり高額だな、麻薬みたいなもんだろうか。

 連中はゴロツキの寄せ集め、しかも新参らしい。

 高額取引を行うには信用のある成熟した組織のみだろうし、これも違うな。次。


「オラァ! シャラァ!」


 やたらテンション高い声に声と、断続的に鳴り響く低い音。

 どうやら何者かが殴り合っているようだ。

 拳には重さがあり、どちらも悲鳴を上げない。

 それなりの実力者同士の殴り合いだ。

 ゲッコー団は名だたるゴロツキたちが集まって出来た団だと聞く。

 そう易々と慣れ合うのは難しいだろうし、喧嘩の一つや二つ起こってもおかしくはない。

 あとチンピラ特有のハイテンションな奇声もポイント高いな。

 中々テンプレっぽい声だ。

 いいねを付けたい。

 ……ここは怪しいかもな。


『シヴィ、ここはどこだ』

『北へ1キロほど行った場所ですが……』

『少し気になる。行くぞ』


 俺は即座に音源の場所へと駆ける。

 辿り着いた先は人気のない廃屋。

 気配察知スキルにて、中に人がいるのはわかった。

 不自然に積み重ねられた入り口と窓。怪しいニオイがプンプンするぜ。


『シヴィ、あの天窓から中に入って映像を送ってくれ』

『了解』


 ふぃんと柔らかい風が俺の髪を撫でる。

 程なくして中の様子が送られてきた。

 中には殴り合っている男が二人、それを見ている男が二人、見張りらしき男が一人。

 見張りが立っているのが出入り口だろう。

 草むらでカモフラージュされ、外からは見えにくくなっているようだ。


 確かゲッコー団の連中は、月の刺青が入っているんだっけか。

 だが連中、刺青を簡単に見える場所に刻んでいない。

 あの手の自己主張が激しい連中は見えやすい腕や足、顔とかにしていそうだが……入り口の事といい、少しは頭が回るようだ。


『シヴィ、スキャンで刺青をチェック出来るか?』

『了解。……スキャン完了、彼らの右足に月の刺青を確認しました』

『オッケーよくやった』


 まさか一発目でビンゴとは。

 我ながらカンの良さはSSSランクだな。流石俺、うん。

 俺はジョブを魔導師セットし、跳躍した。

 天井に降り立つと、中が俄かにざわめく。

 肉眼で確認。よし、全員逃げてないな。

 俺は天窓から手を伸ばすと、アイスストライクを発動させる。

 降り注ぐ氷塊が男たちの足元に突き刺さり、そこから氷の蔦が伸びていく。


「うわっ! な、なんだ一体!?」

「敵だ! 敵対組織の襲撃だ!」

「全員戦闘態……うわっ!? あ、足が……!」


 一瞬にして氷の蔦は地面を覆い、男たちの足を凍らせてしまった。

 よし、捕獲完了だ。

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