軍人、事情を聞く
『戻りました、アレクセイ』
『おう、戻ったか。お疲れシヴィ』
宿に戻り、ゆっくりしているとシヴィが帰ってきた。
会話内容を聞くために帝国兵たちにつけていたが、彼らも宿に戻ったので帰還させたのだ。
『彼らの会話は録音しましたが、特に引っかかるものはありませんでしたね』
確かに、シヴィから送られてきた会話内容は「この女を知らないか?」とか「見かけたらここに連絡をくれ」とかそんな言葉のみだった。
それ以外は殆ど会話もせず、彼らは黙々と仕事をこなしていたようだ。
『だがそれでもわかった事は多い。連中の口調からは疲労が見えた。かなり聞き込みを続けたのだろう。多分こいつら、朝からいるな。寄り道もしてないようだ。金がないのか真面目なのかは知らないが……そして声色からは焦りよりも手応えのようなものを感じた。イザベラの居場所を見つけたってわけではないだろうが、何か情報を見つけたのかも』
人の声からは様々な情報を得る事が出来る。
大体奴らの輪郭も見えてきたな。
『イザベラはゴーレムで暴れている。目撃者も多いだろうし、見つかるのは時間の問題かもな』
『彼女に連絡して逃しますか?』
『一度戻って話を聞いてみる必要があるだろう』
どういう状況かで、俺の取る選択肢も変わってくる。
基本的には庇うつもりだが、事と次第によっては……とにかく、明日の朝にはここを立つとするか。
――翌日、俺はセシルと共にイザベラの元へ向かった。
ホラーハウスに関してはバイトが育っていたので、任せておく。
念の為、しばらく戻らないかもと伝えた。
更に念の為、領主に時々彼らを見るよう頼んでおいた。
少々サボるくらいは構わないが、監視役をつけておかないとあまり無茶をされても困る。
管理者なしのバイトのみの運営なんて、考えただけでも恐ろしいからな。
領主は快く引き受けてくれた。全く気のいい領主さんである。
ともあれ俺はイザベラと再会した。
「あらぁ、お久しぶりです。アレクセイさま」
「帝国兵がお前を探していたぞ」
「……そ、そうですか」
俺の言葉を聞くや、イザベラは表情を曇らせた。
「何をやらかした? 事と次第によっては僕たちにも考えがある」
詰め寄るセシル。
物騒だな。仲良く行こうぜ。
宥める俺とセシルを交互に見て、イザベラは観念したように俯いた。
「はぁ、そうですわね。お二人にはご迷惑をおかけしましたし」
「まだご迷惑はかけられてねぇよ。……それで、何があったんだ?」
「はい、以前お話しした通り、私は帝国でゴーレム研究をしていました。というか私自身が帝国で発掘されたゴーレムなのですが……ともあれ私はそこで研究者の方々にお世話になりながら、働いていたのですよぉ。ですがそこの環境はひどいもので、よく死者が出ていました。私はこの通り機械の身体ですから問題はありませんでしたが、ある日お世話になっていた人が死んでしまいまして……その人が帝国から出て好きに生きろ、と言ってくれたのです。その人はゴーレムがとても好きで、私もそれに倣ってゴーレムの国を作ろうとしていたのですわぁ。帝国兵が私を探している理由は恐らく口封じ……研究者として色々帝国に不都合がある事を知っていますからねぇ。ふふ」
自嘲的な笑みを浮かべるイザベラ。
兵たちが追ってくるという事は、やはり相当の知識があるのだろう。
「そんな具合です。……アレクセイさま、私を帝国に引き渡したりしちゃいます?」
俺はイザベラの問いに首を振った。
「バカ、誰がそんな事を言ったよ。話を聞いただけだ。最初からそんなつもりはサラサラねぇよ。な、セシル」
「……イザベラ、君が悪でないと確信を得た。故に僕も君を帝国に突き出すような真似はしない」
セシルはうんうんと頷いた。
これからも08の整備は必要だし、知識のあるイザベラを手放すのは愚かな事である。
「お二人とも……ありがとうございますっ!」
イザベラは感激した様子で、俺とセシルの手を取った。
■■■
「とりあえず、しばらくは外出禁止だな。俺たちも出入りしない方がいいか」
幸い食料はアイテムボックスに大量に入っている。
セシルもいるし、食事の心配はないだろう。
シヴィを外に待機させて見張りとしておきたいところだが、長時間メンテナンスが出来ないと砂まみれになってしまうからな。
地上付近に待機させておいて、スキャンで見張らせよう。
この辺りは砂嵐も多いし、ナノマシンによる自動修復も追いつかない気がする。
『当たり前です。機械はデリケートなんですから。特に私は超精密機械なのですよ』
『わかってるって。ほら、油刺してやろうか』
『今は結構です』
こう見えて一応日々のメンテナンスはしているのだ。
そうしないと怒るしな。
それから一週間が経った。
あれから目立った事もなく、俺たちは日々を過ごしていた。
やっている事は08の調整がメインで、たまに料理、たまに身体を動かしたり。
だがずっと地下暮らしだと気分は滅入るな。
たまには外へ行きたいもんだ……そんな事を考えていると、シヴィが慌てた様子で俺を呼んだ。
『大変ですアレクセイ、来て下さい』
『どうした?』
『例の帝国兵たちがうろついています。どうやら付近のノーム族から話を聞きつけたようです』
しまった、ノームの連中はイザベラを恨んでいるだろうしな。
さて、どうしたもんかな。




