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軍人、聞き込みされる

 ホラーハウスは連日盛況で、笑えるほどカネが入ってきた。

 ある程度稼いだ後、俺はバイトを雇ってあとはほったらかしである。

 いやぁ不労所得ってはいいもんだな。

 本日も仕事が終わり、俺はセシルと共に夜道を歩いていた。


「ぐふふ、今日もかなり稼げたな」

「下品な笑い方は止めろ。全く」


 俺を嗜めながらも、セシルは機嫌よさそうである。

 取り分は俺の三割だが、それでも相当な額だ。

 これだけ稼げれば気分もよかろう。残りはバイトの者たちへ。

 俺は儲けた分はちゃんと皆に還元出来る男である。


 ちなみにセシルは今、指導者役をやっている。

 真面目でリーダーの資質もあるのか、バイトたちの受けもいいのだ。


「しかし、眠らない町ってのはこのことだな」


 もう日は暮れてしまっているが、まだ歓楽街は騒がしい。

 これから温泉上がりの飲みだったりするんだろうな。

 おっ、綺麗なおねーさんがウインク飛ばしているぞ。

 風俗店まで出ているようだ。


「おいセシル、あの店行ってみねーか?」

「行くかバカっっっ!!」


 セシルを風俗街に誘うが、全力で拒否されてしまった。

 断られたのは残念だが、知っての通りおカタい奴なのでこの反応は想定していた。

 まぁこんなぽっと出の歓楽街に出店するような風俗はレベルが低いと相場が決まっているしな。

 隊の連中が温泉街に遊びに行った時に流れで風俗店に入ったらしいが、70歳くらいのばあさんに相手をさせられたらしい。

 まぁそれなら帰ればいいだけだが……ん。


 ふと、俺の視界に妙な連中が映る。

 見慣れない鎧兜を着込んだ男二人組だった。

 この場に似合わぬ物々しさに、周りの人々も彼らを避けている。


「おいセシル、なんだアレ」

「あの鎧の紋章……帝国兵のようだな。何やら色々聞いて回っているようだが……」


 何となく観察していると、店に入っては紙を見せて話をしているようだ。

 人を探しているのか。紙には人物の絵が書かれている。

 俺たちの視線に気づいたのか、兵たちが近づいてきた。


「そこのお前ら。少しいいか?」

「微塵もよくねぇ」


 威圧的な言葉にイラっと来たので無視して行こうとすると、兵たちは慌てて回り込んできた。


「お、おいちょっと待て! 飴玉いるか?」

「いるかボケっ!」


 飴を欲しがる年齢かっての。

 俺が何歳に見えるんだ一体。


「まぁ待て、すぐ終わるから。この者に心当たりはないか聞きたいんだが」

「だからお前らなんぞに構ってる時間は……っ!?」


 振り払おうとして、ちらりと連中が手にした紙が見えた。

 そこに描かれていたのは、イザベラだった。

 俺は一瞬目を丸くするが、動揺を悟られぬようすぐに表情を戻す。


「……さて、知らないな。行こうぜセシル」

「あ、ちょっと待てアレクセイ」


 セシルには見せぬよう、引っ張っていく。

 見せればセシルは嘘が上手くない。

 動揺し、質問攻めになった挙句、ボロボロと全部話してしまいそうだ。

 イザベラは確か帝国にいたんだっけか。

 こんな兵たちが探して回っているとはな。

 引き渡すのはどう考えてもヤバそうである。


『シヴィ、連中の会話を盗聴出来るか?』

『了解、しばらく彼らの頭上にて待機します』

『録音データを10分おきにファイルにして送ってくれ。あとは何か妙な動きを見せた場合、すぐに連絡頼む』


 シヴィは俺の元から飛び去ると、兵たちについていった。


「おいアレクセイ、一体なんなんだ?」

「まぁまぁ、ちょっと飲み直そうぜ。そこで話すからよ」

「む……確かに腹は減ったか……し、仕方ない」


 くるると腹を鳴らしながら、セシルは俺と飲み屋に行く。

 そして仕切りのある角部屋で、イザベラの経緯について話した。


「何っ!? あの女、帝国にいたのか!?」

「しっ、声がでかい!」


 慌てて口をふさぐ。

 モゴモゴと苦しそうにした後、俺の手から離れると小声で続ける。


「……他国である帝国兵が探しに来てるなんて、尋常ではないぞ。あの女、何か罪を犯して逃げてきたんじゃないか?」

「仮にそうだとしても、だからと言って突き出すわけにはいかない。イザベラは08の修理で使えるからな。それにしばらく一緒に過ごしてわかったが、あいつはそこまで悪人ではないよ。村の男たちに魅了をかけたのも、純粋に人手が欲しかったかららしいぞ。終わってから何度か謝りに行ったらしいしな。手段はアレだが、けして悪いやつじゃねぇ」


 アンドロイド故に人の文化に慣れてないだけだろう。

 ずっと帝国でゴーレムの研究をしていたと言ってたし。

 これから教えてやればいい話である。

 ミスをするたびに罰を与えるなんて軍隊式は、今のご時世流行らない。

 ほめて伸ばした方が恨まれないし、現代流だ。

 セシルはしばし考え込んだ後、苦笑を浮かべた。


「……甘い男だな。わかった。だが君の決めた事だ。君が最後まで責任を取れよ」

「当たり前だ」


 そう言ってビールを飲み干す。

 ふぅ、美味い。

 付け合わせの焼き鳥も美味だ。

 肉と酒が疲れた身体に染み渡っていく。


「ところで……んぐんぐ。この焼き鳥というのは中々美味いな」

「おう、やっぱ仕事終わりは肉と酒だよな」

「あまりこういった食事は取る機会がなかったが、悪くない」


 といいつつセシルは焼き鳥とビールを頼んだ。

 以前、居酒屋に連れて行った時は萎縮していたが、なんやかんやで気に入ったようである。

 ふっ、軍の新入りを歓楽街に連れて行き、酒と女を教えてやったのを思い出すぜ。

 まぁセシルは『女』はやらないみたいだけどな。


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