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軍人、商売をする

「てなわけで、ここをホラーハウスとして使おうと思う」


 セシルを連れて地下墓所の奥、アトゥムらの前で俺は宣言する。


「ふむ、ところで『ほらーはうす』とは一体何だ?」

「知らずに承諾したのかよっ!」


 アトゥムの質問に思わず突っ込んだ。

 なんかわかってないような気はしていたけどさ。


「はっはっは、余は祭り事が大好きだからな。良いぞアレクセイ、何でも協力してやろうではないか!」

「えぇ、私たちに出来ることなら何でも申しつけ下さいな。アレクセイさまにはお世話になりましたから」

「うむ、『ほらーはうす』でも何でも、余なら確実にこなしてみせよう!」

「えぇ、えぇ、あなたさまなら何でも出来るに決まっております」

「で、ある! はっはっは!」


 だから詳細を聞かずに承諾するなよ。

 二人はいちゃつきながら高笑いしている。

 俺はため息を吐くと、持参していた計画書を渡し説明をした。


「……なるほど、つまりここを訪れる者たちを驚かせばよいわけだな?」

「あぁ、思いっきりやってくれ。俺とセシルは客の護衛だ。まだ魔物が出るかもしれないから、その時は俺に知らせて欲しい」

「ふはは! 任せるがよい」


 アトゥムは快く引き受けてくれた。

 何とも豪気というか、気のいい王様である。


『人が増えたことで周囲の魔素はかなり減退していますね。遺跡の中で新たに魔物が生まれる可能性は0.0001パーセントです』


 人が住み着けば魔素を吸収し、新たな魔物は生まれなくなるのだ。

 だが遺跡内は人が近づかないため、完全とは言えない。


『可能性は相当低いが、万が一もありうるからな。念の為だ。俺とセシル、アトゥムらの目もあれば客に被害は出ないだろう』


 まぁここは命の危険がそこそこある世界だし、万が一が起きても大騒ぎにはならないだろう。

 冒険者登録の際も、傷ついたり死んだりしても文句を言わない事、とビールの注文位軽いノリで一筆書かされたもんだ。

 俺の母星でも未開拓の地では建物が吹き飛ぶようなガス爆発が出ても大して問題にならなかったし、人の死が軽いとこういった問題は出にく。

 都会で同じことが起きれば、責任者吊るし上げの大問題だが。


「さぁて、稼ぐぞ」


 まずは準備、領主に口利きしてもらって人夫を雇い、遺跡の掃除から始める。

 あまり汚いと衛生面で問題があるからな。汚れていた方がある意味リアルかもしれないが、金を落としてくれる女子供にも入ってもらわないと困る。

 同様に小屋の設置、それと同時にセシルにビラ配りをやらせた。

 反応は上々、やはりイケメン強い。

 女たちが「絶対行きますぅー♪(はぁと)」とか言っている。ケッ。

 アトゥムとネシスにも演技指導も行った。

 客を怖がらせる特訓だ。意外とアトゥムの方が才能はありそうだった。

 ネシスの方は……お色気役として頑張ってもらおう。うん。

 一週間の突貫工事が終わり、ホラーハウス開店である。


「さーあ、いらっしゃい! ホラーハウスだよ! 怖いよ怖いよー!」


 メガホンを持って声を張り上げると、興味深げに道行く人がこちらを見ている。


「なんだか随分慣れているな」


 横に待機していたセシルが呟く。


「ま、似たような事はちょくちょくやってたからな」


 実家では客商売をやっていた時期もある。

 子供の頃から呼び込みさせられてたなぁ。懐かしい。


「大人一人銀貨5枚、子供は2枚! ガロンゾ名物ホラーハウスだよー!」

「いつの間に名物化したのだ……」


 セシルが呆れ顔で見ている。

 こういうのは言ったもん勝ちだ。


「あのぉ……大人二人いいですか?」


 女二人が俺の前に立つ。

 視線はセシルに釘付けだ。

 どうやらビラ配りの効果が早くも出ているようである。

 俺はにやりと笑い、会計をした。


「では二人で銀貨10枚ね! ある程度人数が揃ったら出るからよ、その人の横で待っててくんな!」

「はぁーい♪」


 顔を赤らめながら、セシルの横に駆け寄る二人。

 一挙一動に小声でキャーキャー言っている。

 それを見てか、他の女性客も近寄ってきた。


「あの、三人いいですか?」

「私たちも……」

「こっちも二人、お願いしまーす」

「あいよ! まとめてご案内!」


 あっと言う間に十人が集まり、セシルは客を連れて中へと入って行った。

 ちなみに全員女である。おーおーモテる男は辛いねぇ。


「ねーお父さん。僕これ行きたいー」

「おっ、じゃあ一緒に行くか!子供一人、大人一人」

「まいど! もうすぐ案内役が帰ってくるから、それまでちょっと待っててくんな」


 どうやら子供も興味を示したようだ。

 ふふふ、いい感じで客が集まってきているな。

 暫く待っていると、客を連れたセシルが帰って来た。


「ふぅ、戻ったぞアレクセイ」

「おう、お疲れだったな。どうだった」

「おおむね盛況だったと思うぞ」


 セシルが視線で客を差すと、全員興奮冷めやらぬといった様子であった。

 確かに、好評のようで安心だ。アトゥムらは上手くやっているようだな。


「じゃあ次の便もよろしく頼むぜ」

「ま、また僕がやるのか?」

「お前目当ての客も多いんだよ。ほら行け行け」

「く……仕方ない」


 セシルは渋々頷きながらも、次の客を連れてまた遺跡へと戻っていった。

 なんだかんだ言って真面目な奴である。


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