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軍人、整備する

 それから数週間、俺はイザベラと08の修理をしていた。

 セシルが何かやる事がないか? なんて聞いてくるので別にないと正直に答えたら、すごく拗ねていた。

 それからギルドに通って依頼をこなしているらしいが、時々ここを訪れていた。

 わざわざ弁当を持ってきて、「べ、別にお前の為じゃないからな」なんて言いながら毎日メシを作って持ってきてくれている。

 ツンデレかよ。全くいい奴だぜ。


「そちら、もう少し上げてもらえますかぁ?」

「おう」


 08の胸部装甲板を持ち上げ、外す。

 床に静かに下ろすと、イザベラがむき出しになった内部に入って部品の交換を始めた。


「スパナを取ってくださいまし」

「おう」


 潜り込んだイザベラにスパナを渡す。

 イザベラはツナギを着ており、油まみれで作業をしている。

 俺は内部の事は全くわからないので、基本的に力仕事担当だ。


「ところでアレクセイさま、もうすぐネジが出来上がるのではないでしょうかぁ?」

「おっと、そうだったな」


 俺は近くに設置された砂場へと向かう。

 砂を落とすと、中からは大小さまざまなネジが出てきた。

 並行して行っていたもう一つの仕事は、小さな部品の製造である。

 ネジやビス、様々な形の鉄板は消耗品だ。

 使うたびにどんどんなくなっていくし、規格も違うので部品に合うものを作らねばならない。


 製作方法は鋳物という昔ながらの技法だ。

 砂の中に元となる型を入れて加熱すると、砂が固まる。

 型を取り出し代わりに鉄を流し込むと、その形の製品ができるというわけだ。

 本来なら型を作るのに時間がかかるが、レベルの上がったプロテクションを使えばものの数秒でそれなりのものが出来上がる。

 精度はイマイチだが、ナノマシンを塗布すればちゃんと組みつけ時に固まってくれるので問題なし。

 砂を開くと、大量のネジやビスが出来上がっていた。

 防御以外にも中々便利なスキルである。


「それにしても、08さんはすごいゴーレムですのねぇ。見たことのない部品が沢山使われてます」

「すごいのはお前だよ。見たことないのによくわかるもんだな」

「ゴーレムに関しては色々と弄らせてもらっていますので。半分は想像で補ってますけどぉ。ふふふ」


 楽しそうに笑うイザベラ。

 不安になるような事を言うなよな。


「私、以前は帝国にいたのですよぉ。そこでゴーレムの研究していたのですわぁ」


 帝国といえば、この大陸でも屈指のかなり力の強い国だ。

 発掘に力を入れているらしく、ゴーレムだけでなく様々な技術が進んでおり、人々はその恩恵を受け豊かな暮らしを送っているとか。

 前にセシルが言っていた。


「ふーん、だったら研究には申し分ない環境だったんじゃないか? それがなんでこんな辺境に?」

「それは……まぁ色々ありまして……よし、終わりです。少し休憩にしましょう」


 イザベラは機体の中から出てくると、テーブルに向かった。

 置いてあったお茶グラスに注ぎ、飲み干す。

 ふぅ、乾いた喉に染み渡る。


「はぁー、汚れましたわねぇ」


 イザベラは油と汚れで真っ黒になったツナギのジッパーを下ろし、タオルで顔を拭いている。


「イザベラは機械なのに、汚れが気になるのか?」

「それはそうですよぉ。女の子ですからねぇ」

「特に顔を念入りに拭いているようだが」

「女の子ですから。ふふふ」


 確かに、といえばそうだが、機械にとって大事なのは外観部分よりも内部だろう。

 イザベラのようなアンドロイドがアラートを出す時は、大抵内部に問題が起こった時だけで外観に関しては何も文句を言わず、周りの人間が何もしなければ、ボロボロのまま動き続けるらしい。

 人がいなくなった屋敷で手足の取れたアンドロイドが彷徨っていた、なんてホラーなニュースも何度か見たことある。


「ふふんふんふーん♪」


 イザベラは鏡を前に、鼻歌を混じりに化粧などしている。

 その姿はまさに普通の女そのものだ。

 そう考えると、あの顔の作り込みも異常だ。

 人間にしか見えないような、精巧な作り。

 イザベラの体内は一度見せて貰ったが、「シヴィ曰く旧式アンドロイドのそれ」らしい。

 内部構造の割には、異常に顔を作り込んでいるのだ。


「……その顔、随分お気に入りのようだな」

「はい、とても美しいでしょう?」

「自分で言うかね。全く」


 思わず苦笑してしまう。

 自分の顔を大事にするのは普通っちゃ普通だが、こいつの場合は行き過ぎている気がする。


「この顔は、研究所で色々面倒を見て下さった方の顔なのですよぉ。今でも尊敬しているので、お顔を拝借しているんです。優しく、賢い方でした。機械人形である私にも一人の人間のように接してくれて……」


 懐かしむように、遠くを見つめるイザベラ。


「ちなみに聞くけど、顔を拝借……って怖い意味じゃないよな。殺して顔を剥いだ、みたいな」

「そんなわけないじゃないですかぁ。アレクセイさまったら、面白い事を言いますわねぇ。ふふふ」


 顔は笑ってるが、目は全く笑っていない。

 殺気をバシバシ飛ばしてくる。

 器用なアンドロイドである。

 少しジョークが過ぎたようだ。


「さ、くだらない事を言ってないで、休憩終わりましょうか」

「そ、そうだな……」


 俺はイザベラと共に仕事へと戻った。

 どうやらデリケートな問題のようだ。

 これ以上からかってヘソを曲げられても困るし、顔に関しては聞かないようにしよう。


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