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軍人、ギルドに着く

 それからしばらく歩くと、ようやく町に辿り着いた。

 走ればすぐだったが、リルムを置いていくわけにもいかず歩く事を余儀なくされたのである。


「アレクセイ様と仰られるのですね。素敵なお名前ですわ」

「あーうん、そうか?」

「そうですともっ!」


 俺の気のない返事にも、リルムは声を弾ませながら返してくる。

 うーむ、すっかり懐かれてしまったようだ。

 どうせならかわいこちゃんに懐かれたかったぜ。


『よいではないですかアレクセイ。リルムは美女とは言えませんが、美少女の枠には十分入るのでは?』

『だから守備範囲外だってーの。あと五年は欲しいところだな』


 頭の中で話しかけてくるシヴィにそう返す。

 しつこいが俺にロリコンの趣味はない。

 かといって育つのを待つほど気は長くない。

 町に着いたらさっさと別れてしまおう。リルムにも家族はいるだろうしな。


「しかしリルム、お前なんで町の外にいたんだ? 危ないじゃないか」

「それは、そのぅ……」


 俺の問いに何やら口籠るリルム。


「ま、言いたくないならいいけどな」

「う……すみません……」


 美女ならともかく、こんな子供の動機に興味はない。

 どうせ遊びで外に出たとかだろう。子供にありがちである。


「そこの者、とまれ!」


 いきなり声をかけられ、立ち止まる。

 町の衛兵か何かだろうか。門のところに鎧姿の男が二人立っていた。

 あんな格好の兵士、俺のいた星じゃ考えられないな。ファンタジーっぽい。


「怪しい奴、身分を明かすものを見せろ!」


 ボケっとしていると、男たちは手にした槍をこちらに向けてくる。

 俺は慌てて両手を上げた。


「待て待て、俺はただの旅人だ。怪しい者じゃない」

「旅人だと……? そんな軽装でか? ちょっとこっちに来い!」


 参ったな。だが俺自身怪しいのは重々承知だ。俺が兵でも止めるだろうな。無理に突破もこれ以降の事を考えると危険だし、さてどうしたものか……

 思案していると、リルムが一歩前に出る。


「待ってください! アレクセイさんは私を助けてくれた命の恩人なんです。ですからどうか」

「何だ君は……?」

「お、おい待て! まさかあなたは……」


 兵たちは懇願するリルムを見るや、慌てた様子で集まる。

 そしてその中で一番地位の高そうな男が、俺の前に出て頭を下げた。


「申し訳ない。こちらの手違いだった。どうか中に入って下さい。歓迎いたします」

「お、おう……」


 何だかわからんが入っていいらしい。

 よかった、宇宙から落ちてきた俺に身分を証明する事なんて出来ないからな。

 ドッグタグならあるんだが、それでは納得しないだろう。


「助かったぜ。ありがとうな」


 わしわしとリルムの髪を撫でると、顔を赤らめ目を伏せた。


「は、はい。お役に立てて良かったです……!」

「それにしても顔が利くんだな。もしかしてリルム、いいとこのお嬢さんとかなのか?」

「えと、はい。この町を取り仕切っているスフィーブルム家の次女です」

「ふーん」


 スフィーブルム家とやらが何なのかは不明だが、きっと町の名士とかそんな感じだろう。

 そんなお嬢さんが町の外で何をしていたのかは不明だが、俺には興味のない事だ。

 門をくぐって中に入ると、中は中世ファンタジー的な町並みが広がっており、頭に獣の耳や角を生やした人々が行き交っている。

 おお、こいつは感動だ。ちょっとワクワクしてきた。

 まずは町を見て回るとするか。


「じゃ、俺はこの辺で。リルムも一人で帰れるよな?」

「はい。お別れするのはとても残念ですが……」

「物分かりがいい子は嫌いじゃないぜ。じゃあな」

「あの!」


 背を向ける俺に、リルムが声をかけてきた。


「身分を証明するものがないなら、町の中心部にあるギルドに行けばいいと思いますよ。そこでは冒険者になることができます」

「冒険者?」

「はい、冒険者というのは魔物退治や宝探しなどをして生計を立てている人で、ギルドに所属すれば身分も証明してくれます。アレクセイさんほどの強さがあれば、きっと冒険者としてもやっていけますよ」


 なるほど、つまりは傭兵のようなものだろう。

 ギルドという仲介所を通して仕事を請け負い報酬を得る、実力が全ての根無し草。

 身寄りも身元も不明な俺には丁度いいな。いい情報を教えてもらった。


「わかった。色々と助かったよ。リルムも一人で町の外になんて出るんじゃあないぞ」

「……反省しています。ではまた」


 ぺこりと頭を下げるリルムは、いつまでも俺を見送っていた。

 リルムと別れた俺は、中心部にあるというギルドとやらに向かう。

 町を歩いていると、看板や品書きには俺たちのよく知った文字が並んでいた。


『ところでアレクセイ、今更な疑問なのですが何故彼らと私たちの使っている文字や言葉が同じなのでしょう?』

『恐らく例のシステムメッセージによるところが大きいんだろうな』


 魔素を取り込んだ人間は、頭の中にステータス画面が現れ、メッセージも流れる。

 あれは宇宙公用語として使われているもので、それが共通言語となっているおかげで俺にも言葉が理解できるのだ。

 読み書きができないと不便なので助かる。


『なるほど。作られた世界ならではの利点、というわけですね』

『そうだな。道行く人々もファンタジー世界でよく見る感じだし』


 人々はシンプルな装飾のボロい服を着ており、獣のような耳や角の生えた人間や、やたら大きな人間、反対に小さな人間もいる。

 亜人とでもいうのだろうか。

 しかし大多数は普通の人間のようだ。


『しかし彼らは元々この星にいたわけではないんだよな。やけに多様な進化を辿っているようだが、どういうカラクリだ?』

『先刻、何人かの唾液を採取しましたが、人間のDNAに獣の遺伝子を埋め込んだようですよ。彼らはその子孫のようです』

『マッドだなー』


 人間への遺伝子操作は銀河憲法で固く禁じられている。

 勿論星の改造も。そりゃ問題視もされるわな。

 そんな事を言っていると、ふわりといい匂いが漂ってくる。


『む……美味そうな匂いがするな』

『そこの居酒屋から漂ってくるようですね』


 目の前の建物からは、昼間だというのにワイワイと騒ぎ声がしている。

 近づくと中では昼間だというのに酒を飲み、真っ赤な顔をした男たちが骨つき肉にかぶりついていた。

 肉汁が滴る焼きたての肉を酒で流し込んでいるのを見て、俺はゴクリと喉を鳴らした。


『ビール銅貨四枚、骨つき肉銅貨五枚……と書かれていますね。無一文のアレクセイには関係のない事ですが』


 シヴィが遠視レンズでお品書きを転送してくる。

 おい現実を見せつけるのはやめろ。

 リルムに少しだけでも金を借りていれば……いや、流石にあんな子供に金を借りるのはプライドが許さん。

 俺は腹を満たすため、持っていた携帯食を一口に頬張る。

 食べ飽きた味にげんなりしつつも、俺のやる気は燃えていた。


『だったら冒険者として稼ぎまくって、この星の美味いもん食べつくしてやるぜ!』

『相変わらず、やる気の出し所が低俗ですね』

『庶民派なんだよ俺は……って言ってるうちに着いたみたいだぞ』


 目の前の巨大な建物には、冒険者ギルドと大きく書かれていた。

 物々しい格好の連中が出入りしている。


『どうやらここがギルドのようですね』

『とりあえず入ってみるか』


 俺は扉を開け、中に入った。

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