少女騎士、温泉に入る
「んががが……ごごご……」
「全く、うるさい男だな」
僕――セシル=リードレッドは大いびきをかくアレクセイを見て、ため息を吐く。
余程疲れていたのだろうか、アレクセイは僕の作った食事を美味い美味いと言いながらあっという間に食べ終えると、すぐ横になり寝てしまったのだ。
食べてすぐに寝ると牛になる、と言って注意したのだが、軽く笑い飛ばされてしまった。
アレクセイはすぐに僕の事を子供扱いするのだ。
全く、自分の方が子供みたいなくせに。
はねのけた毛布とかけ直してやると、熱いのかうーんと唸りながらごろんと横になった。
「……ふっ」
苦笑が漏れる。
いつだったか、親戚の子供の面倒を見た時の事を思い出した。
子供は体温が高いから、毛布をかけてやっても暑がるんだったな。
砂漠の夜は冷えるからな、風邪を引くぞ。
「……とりあえず、寝たようだし風呂をいただくとしよう」
アレクセイは僕に風呂に入るよう何度も言ってきたが、断っていたのだ。
それはそうだ。いくらパーティメンバーとはいえ、異性の前で裸になんてなれるわけがない。
全くデリカシーのない男だ。大浴場にも何度も入ってくるし……僕じゃなかったら大騒ぎになっているのをわかっているのだろうか。
女の扱いの一つも知らないからモテないんだぞ。
「あんな男に付き合ってやれるのは僕くらいなものだ。全く……」
そう呟きながら鎧を脱いでいく。
鞘を取り、鎧を外し置く。
次は衣類だ。上着に続き、タイツを片足ずつ脱いで丁寧に折り畳む。
半裸になった僕はそのままシャツを脱ごうとして、胸の膨らみに視線をやる。
「ん……また少し大きくなったかな……」
以前までは少年に間違えられるほど控えめだったが、最近は少し大きくなっている気がする。
触ってみると、ふにふにと柔らかい感触が返って来た。
「うーん……やはりもっと鍛えないとなぁ」
アレクセイに言われたが、確かに鍛え方が足りない気がする。
腕もぷにっとしているし、明らかに筋肉が少ないよなぁ。
そうだ、風呂をいただく前に筋トレをしよう。
まずは腕立て100回だ。ふっ、ふっ、ふっ……
次はスクワット100回。ふっ、ふっ、ふっ……
仕上げに腹筋100回。ふっ、ふっ、ふっ……
……ふぅ、いい汗かいたな。
僕は手で湯を掬って軽く汗を流した後、湯船へと浸かる。
入った瞬間、冷えた汗でひんやりしていた身体に一気に熱が伝わってくる。
「く……ふぅ……」
思わず息が漏れた。
心地よさに頭が真っ白になりそうだ。
僕はゆっくり身体を大の字に伸ばすと、大きく息を吐いた。
「んはぁ……気持ちいい……」
身体が蕩けてしまいそうな感覚、指先一本一本まで熱が染みわたっていく。
見上げれば満天の空。見渡せば果ての見えぬ地平線、見下ろせば底も見えぬ水。
まさに至福の時である。
「アレクセイには感謝しなければな」
ぶくぶくと水中で息をしながら、呟く。
僕は身体を弛緩させ、ただただ心地よさに身をゆだねた。
十分に風呂を堪能した僕は、身体を拭いて髪をくしゃくしゃと乾かす。
乾いた髪は男のようにぼさぼさだ。
香油で清めればすごく綺麗になるんだけどな。
かなり高価だし、別に見せる相手もいない。
ちらりとアレクセイを見て、ぶんぶんと首を振る。
ないない、あいつはない!
「こんな子供みたいな男……」
言いたいことを言って、やりたいことをやって、そのくせ何とかしてしまう。
無邪気な顔で涎を垂らしている姿は、本当に子供だ。
僕はまた毛布を蹴飛ばしているアレクセイにかけ直してやると、くすりと笑った。
「……おやすみ」
僕はそう呟いて、自分の毛布を被るのだった。




