軍人、温泉に入る
ガーディアンの内部から部品回収も終わり、セシルも埋まっていた部品を掘り出した。
めちゃくちゃ集まったな。アイテムボックスがパンパンだぜ。
いや、まだ容量はあるんだけどな。
イザベラの要求してきた部品も殆ど揃っているし、もう帰ればいいだろう。
ネイスの相手もしなくてよさそうだしな。
ちら、と暮石の方を見やるとまだネイスはアトゥムと抱き合っていた。
「あなたさま……」
「ネイス……」
おーおー、お熱いこって。
俺たちの事など気にもしていないようだ。
取りつかれても困るしさっさといなくなってしまおう。
「それじゃ、俺たちは行くからよ」
「はい! お世話になりました!」
「ぬしらのおかげでネイスとまた会えた。礼を言うぞ。またいつでも訪れるとよい」
何か用があったらな。たぶんないと思うけど。
俺は二人に手を振り、その場を後にした。
■■■
外へ出ると夜だった。
満点の星空が美しい。
セシルも空を見上げ、目を輝かせている。
「うわぁ……これはすごいな……」
と言っても宇宙戦艦暮らしが長かった俺にとっては、対して珍しくもないものである。
何せ大気圏を介さず直に星が見えてたからな。
この何倍も綺麗に見える星々は、最初はとても感動したものだ。
だがまぁ、地上から見上げる空としては格別である。
その日は星空をカーテンに、ぐっすりと眠った。
「そういえばあと二日、やる事も終わったがどうするつもりだ?」
翌朝、セシルが用意した食事を食べながら、今後について話し合う。
「俺はのんびりするつもりだ。セシルはレベル上げたいだろ」
「む、そうだな。では僕はレベル上げに勤しもう。この辺りにはサンドワームが出るしな」
砂漠には大型の魔物、サンドワームが現れる。
こいつは巨体の割に身体が柔らかく、倒しやすいし経験値も高めだそうだ。
興味なさげに返す俺に、セシルは顔を近づけてくる。
「君も来るよなっ!?」
「いや、行くわけないが」
「そ、そうか……」
俺が断るとセシルはあからさまにがっかりした。
のんびりするって言ってるだろ。
「じゃあ俺はこの辺にいるから、頑張れよー」
レベル上げに出かけるセシルを見送った俺は、早速アイテムボックスを漁る。
取り出したのは……こいつだ、ガーディアンの腕に取り付けられていたドリル。
あの巨体に取り付けられていただけあって半端ない重さだが、今の俺なら普通に使う事が出来る。レベルアップ様々だ。
腕から取り外したドリルはエンジン紐を引けば単独で使うことも出来る。
『そんなものを取り出して一体何をするつもりなのですか?』
『まぁ見てなって』
俺は紐を引き、エンジンを起動させる。
ドドドドとけたたましく音を鳴らしながら、ドリルが回り始めた。
それを地面に突き立て、掘り進み始める。
穴が埋まらないよう、縦長にプロテクションを展開しておく。
10メートルほど掘り進んだだろうか、硬い岩に当たった。
よし、ここだな。
俺はドリルを引っ込めて、右手に力を込める。
「はっ!」
拳を叩きつけると岩に大きなヒビが入った。
それを何度も繰り返すたび、ヒビは大きくなっていく。
そして、岩の隙間から水が漏れた。
「おっ、出た出た!」
勢いよく吹き出した水は、プロテクションの筒をゆっくりと満たしていく。
『成る程、温泉を掘っていたのですね』
『イエス』
シヴィに地中をスキャンして貰った時、地下に走る水脈が見えたのだ。
もしかしたら湯が出るかも……と思ったがビンゴだったな。我ながら持ってるぜ。
砂漠の熱のおかげだろうか、温度までいい具合である。
『シヴィ、湯の成分チェックを頼む』
『了解。……塩化物、硫酸塩、炭酸水、含鉄泉、硫黄泉を配合しています。少量でしたら飲んでも問題ない程ですね。皮膚病や打ち身に効果が期待できそうです』
『ヒュウ、最高じゃねぇか』
まさに理想的な温泉である。
ただ、湯が貯まるまでかなり時間がかかるな。
そうだ。その間に以前購入したテントを張ろう。
テントの中で着替えれば、砂がくっついたりもしないしな。
「これでよし、と」
テントを張ったが、まだ湯が貯まるまで時間はかかりそうである。
そうだ、砂風呂を試してみよう。
昔、砂漠でやった事があるがサウナみたいで中々気持ちよかったからな。
砂に潜り込んでしばらくすると、心地よい熱を感じられる。
「おぉ、これはいいなぁ」
適度な重さと太陽の熱で暖められ、ポカポカしてきた。
あまりの気持ちのよさに意識が薄れ始める。
『おーいシヴィ、敵が近づいたら教えてくれー』
『了解、ごゆっくりお楽しみ下さい』
見張りをシヴィに任せ、俺は目を閉じるのだった。
「……セイ、アレクセイ !おい!」
「んあ……?」
目を開けると辺りは夕暮れ、目の前にはボロボロのセシルがいた。
「ふあー……あーよく寝た」
「ば……っ!? ふ、服を着ろっ!」
起き上がる俺を見て、セシルは顔を赤らめる。
そういえばパンツ一丁だったな。
男同士恥ずかしがることもなさそうだが、相変わらずシャイな奴である。
「それにしても何だこの状況……妙な匂いがしているが……」
セシルはプロテクションの中の湯や、テントを訝しむように見ている。
おっと、丁度いい具合に湯が入ってるじゃあないか。
硫黄の匂いがたまらんぜ。
「温泉を引き当てたんだ。お前も入るか?」
「…………断る」
凄くためらった様子で、セシルは首を振った。
「その、後で入る。君が掘り当てたんだ。君が最初に入る権利がある」
「ん、別に構わないぞ?」
「い、いいから!」
セシルはそう言って影の方へ歩いて行った。
別にいいのに、面倒くさい奴だ。
俺はプロテクションの上の方を形状変化させ、お椀のような形にして温泉の上に浮かべると、その中へダイブする。
「くはぁー……生き返るぅ」
砂風呂もいいが、やはり〆は温泉だな。
俺は心行くまで温泉を堪能した。




