軍人、ガーディアンと相対する
ネイスを引き連れながらも俺たちはマイペースに探索を続けていく。
道案内を買って出たネイスが、きょろきょろと辺りを見渡しながら声を上げる。
「えーと……あっちには宝物庫があったはずですっ! 沢山の金銀財宝が眠っていますよ!」
「そっちは土砂崩れで行き止まりだ。それに金属反応はない。きっと大昔に盗まれたんだろう」
「あ、はい……」
俺の言葉にしょぼんとするネイス。
そしてまた進んでいると、今度こそとばかりに声を上げた。
「あっ! そちらには落とし穴がありますよ! 中には無数の大蛇がいるので気を付けてくださいねっ!」
「痕跡はあるが、現在は埋まっているようだな。蛇も逃げ出したようだ」
「そ、そうですか……」
スキャンにより部品の埋まっている箇所、道筋、罠の有無や大まかな魔物の位置までをわかっているのでネイスがやる事は特にない。
わかっていたが、やはりいらない子だった。
シヴィが優秀すぎた結果だな。
データがなければ案内人にもなれたのだろうが、こればかりは仕方ない。
だが何の役にも立たないか、と言われればそうでもない。
「うぅ……」
目を伏せながら涙目になるネイス。
涙を指で拭うたび、形の良い胸が揺れている。
半裸の美女が半泣きでついてくる様は、戦力にはならずとも、目の保養になる。
うーん、眼福眼福。
「……おいアレクセイ、何をやっている。置いて行くぞ」
何故かセシルがキレている。
あいつもこの状況を楽しめばいいのに、勿体無い。
「あ、ここは……」
何箇所めかのポイントに近づいた辺りで、ネイスがしんみりと呟く。
「……ここは、我が王の墓所です」
「ほう」
ネイスの旦那の墓、か。
太陽の王とか何とかいうだけあり、ここだけ一段高い場所にある。
『どうやらここには多くの部品が埋まっているようですね』
『そりゃすごい王様の墓だしな。運が良ければここで部品も揃うかもしれない』
『埋まっているのはもう少し奥のようです』
『行ってみるか』
階段を一歩踏み出す。
「あ、あの! そこは危険ですっ!」
と、ネイスが慌てて声を上げた。
途端、ずずん! と地響きが起こる。
なんだなんだ。足元が揺れているぞ。
『地中から熱源反応を感知しました。何か来ます』
『なにっ!?』
どどど、と土が盛り上がり、巨大な金属の塊が姿を現す。
土の中から出てきたのは、俺の背丈の三倍ほどもあるゴーレムだった。
部品ばかりかと思っていたが、まさか完成品が転がっているとは。
恐らく自立型作業機体。手には掘削用スコップとドリルが各々付いている。
「我が王を守るガーディアンです。墓を守るため設置されていたんですっ!」
「ギギギギ……!」
ガーディアンは関節を軋ませながら、俺たちに向かってきた。
セシルが剣を抜き、俺の前に立つ。
「来るぞ! アレクセイ!」
振り上げたドリルを回転させながら叩きつけてくる。
「避けろ! セシル」
「くっ!」
後ろに飛んで躱すと、俺たちの避けた後に巨大な穴が開いた。
ドリルを引き抜き、俺の方を向いてモノアイを光らせる。
『ほう、かなり年月が経っているはずなのに、殆ど劣化していないな』
『魔素により自動修復を行っているのでしょう。私《シビラ08》でいうところのナノマシンによる自動修復と同様のような使い方をしているようですね』
08のナノマシンによる自動修復は、錆や小さな破損をゆっくりと元の状態に戻すというものだ。
長期保存もお手の物で、開発部は百年は放置しても大丈夫だとか謡っていた。
実際試したやつはいないが……このガーディアンは建物の劣化具合から見て1000年くらいは経ってそうだ。
「アレクセイ様! 逃げてください! 人の勝てる相手ではありません!」
「――アイスストライク」
悲痛な声を上げるネイスに構わず、アイスストライクを放つ。
氷塊がガーディアンに命中し、周囲ごと凍結。動きを止めた。
まだちょっと動いているか。念のためもう二、三発ぶち込んでおこう。
するとガーディアンは完全に氷に包まれ、動けなくなった。
あっという間に動けなくなったガーディアンを見て、ネイスはきょとんとしている。
「……え、なんですそれ?」
「魔術だ。ネイスが生きてた頃にはなかったのか?」
「いえ、存在しましたが……ここまでのものはちょっと……」
「おーい、この辺掘ればいいかー」
驚愕の表情を浮かべる寝椅子と反対に、セシルはもう慣れたのかノーリアクションで部品を掘り出そうとしていた。
これはこれでちょっと寂しいぞ。
『アレクセイ、そのガーディアンをばらして部品を抜き出しましょう』
『元からそのつもりだ』
だから壊さず、凍結させたのである。
俺は腰に差していた剣を使い、氷を削っていく。
しばらく進むとガーディアンの装甲板へたどり着いた。
蓋になっている部分を思い切り引っぱると、装甲板が外れ内部がむき出しになる。
『これは宝の山ですね。部品単体では見えてこなかった構造も、組み上げられた形で見ると印象が違います。……なるほど、ピストンの形が妙だと思っていたのはシリンダーを三つも使っていたからなのですね。道理で出力が大きいわけです。その分生じる負荷は強化ゴムでカバーしているのですね。踏む、興味深い。この奥が見たいのでカバーを外してもらえますか』
『あいよ』
シヴィはガーディアンの内部構造に夢中になっているようだ。
興味ない俺は、言われるがままさっさと部品を外していく。
カシャカシャと音がして、早く外せと催促をしてくる。
どうやら分解中の画像を保存しているようだ。
一通り作業が終わり外へ出ると、ネイスがぼんやりと墓前に立っていた。
「あなたさま……」
どうやら旦那の墓を前に、センチになっているようだ。
探索も終わったし、あのままついてこられると厄介だよな。
旦那の霊も出てくればネイスも寂しくないだろうが……
『シヴィ、何とかならんか?』
『魔素のデータはそれなりに集まっています。電磁誘導を使えば似たようなことが出来るかもしれませんが』
『駄目で元々だ。やってくれ』
『了解、墓石を中心にスキャンを開始します……、……スキャン完了。魔素を電磁誘導し、ゴーストを再生します』
シヴィの言葉と共に、淡い光が墓石の上に集まっていく。
光は徐々に人の形を作り始める。
上半身は裸で、シルクのローブと豪華な筋装飾を纏った目鼻立ちがくっきりとしたイケメンーー俺とそっくりの男だった。
それを見たネイスが口元に手を当てる。
「ま、まさか……あなたさま……!」
「お前は……ネイスか……?」
男――確か名はアトゥムとか言ったか。
アトゥムはネイスに近寄ると目を細め抱きしめる。
「会いたかったぞ。ネイス……!」
「あなたさま……あぁ、もう離しませぬ!」
二人はひしと抱き合い、イチャつき始めた。
俺たちの事は目に入ってなさそうだ。
なんかちょっとイラっとするが、必要経費と思うべきか。
俺はセシルと顔を見合わせ、苦笑を浮かべるのだった。




