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軍人、ゴーストと出会う

 俺たちはシヴィのスキャンした場所を次々と掘って回る。

 何ヶ所か回ってわかった事だが、掘るポイントには魔物が多くいる傾向がある。


 以前行ったシヴィの解析では魔物というのは大気中に存在する魔素が実体化したもので、その際に辺りに転がった物体をスキャンし、その姿形を参照して実体化する傾向がある。

 つまり犬の骨が転がっていれば犬の魔物が、鳥の死体が転がっていれば鳥の魔物が、人の死体が転がっていれば……だ。


 そして恐らくここは巨大な墓。

 だからゾンビ系の魔物ばかり現れるのだろう。

 部品は当時の人間が装飾品か何かだと思い、死者を慰めるために一緒に埋めたのだと思われる。


「さて、次はここだぞ」

「わかった」


 セシルも慣れたもので、俺が指示するとすぐにツルハシで土を掘り始めた。

 そして俺は魔物の警戒だ。

 今まで通りわんさかとゾンビどもが押し寄せて……、……、……来ない。


「妙だな」


 全く魔物の気配が感じられないのが逆に不気味である。

 何か起こる前のフラグかもしれないし、一応警戒しておこう。


『シヴィ、周囲に罠とかはあるか?』

『いいえ、そういったものは見当たりません』


 シヴィのスキャンは正確だ。

 地中深くに埋まったミサイルでも発見できるシヴィがないというなら、本当に罠などないのだろう。

 思い過ごしだろうか。そう考えた瞬間、俺は背後に何か妙な気配を感じた。


「――っ!?」


 ぞくり、と背筋が寒くなるような感触に、思わず飛び退く。

 それを見ていたセシルが顔を青ざめさせていた。


「お、おいアレクセイ……何だあれは……?」


 セシルが指差す先、ぼうっと光る炎のようなものが浮かんでいる。

 だが熱は感じない。むしろ冷たい程だ。

 こいつは確かどこかの国ではヒトダマとか呼ばれている現象だったか。

 ヒトダマの中心にはよく見れば、女の影のようなものがぼんやりと浮かんで見えた。


 女の影は金の豪華な髪飾りに装飾品をジャラジャラとぶら下げ、その下にシルクのローブを纏っている。

 胸元がパックリと開け、はち切れんばかりの胸が覗いていた。

 鼻が高く、くっきりした顔立ちで、よく見ればかなりの美女である。

 だがこの女には重要な部分――足がない。

 身体も半透明で存在感もおぼろげだ。

 つまり恐らく、ゴーストというやつなのだろう。

 女の影はゆらり、とこちらに近づいてくる。


「チッ……!」


 残念だが見た目が美女でも敵は敵。

 この辺俺はシビアである。

 ファイアランスで瞬殺を狙う。


「待って、待ってください! あなたさまっ!」


 ゴーストは慌てた様子で、両手を突き出しパタパタと振った。

 俺は魔術の発動を止め、耳を傾ける。


「……なんだお前」

「私、ネイスです。あなたの妃、ネイスティフテトですっ! 私のこと、覚えてらっしゃらないのですか……?」

「妃……? 生憎とゴーストに知り合いはいないんでね。悪いが消させてもらう……!」

「わーっ!? ちょっと待ってくださいーっ!」


 ネイスと名乗ったゴーストは、自分に攻撃の意思はないとばかりに柱に隠れた。

 攻撃しようした俺だが、手を降ろした。警戒は緩めないが、問答無用で攻撃するのもなんだかな。


「少しだけ、話を聞いて欲しいのですが……」


 そろりと壁から半身を乗り出し、ネイスは尋ねる。

 俺はセシルと顔を見合わせた後、頷いた。

 仕方ない、ゴーストとはいえ相手は美女だ。

 話くらいは聞いてやるか。

 ネイスはほっとした顔をしながら、言葉を続ける。


「その前に一つだけ……顔をよく見せてもらってもよろしいですか?」

「あぁ、だがあまり近寄るなよ。信用したわけじゃない」


 ネイスはじっと俺の顔を見つめる。

 少しこそばゆいが悪い気持ちはしないな。


「……すみません。人違いでした。確かによく見ればあなたは我が王と似てはいますが、衣服の趣味や喋り方なども異なりますし、別人なのでしょう。それに私自身も死んでいるようです。あれからかなり時間が経ったようですね……ご無礼を詫びさせてください」


 自身の透けた手を見て、落ち込むネイス。


『この現象は恐らくスキャンエラーのようなものでしょう。人の死体を参照する際、本来は姿形のみの所、その思考まで参照してしまったと』

『だからこいつ、身体が透けているのか』


 魔物化の際に思考までスキャンすると、その分に容量を喰われてスカスカになり、結果的にこのような形になったのだろう。

 幽霊の正体見たり、って感じだな。

 カラクリのわからないセシルは今だにちょっとビビっているが。


「ところであんた……ネイスと言ったか。俺とあんたの旦那はそんなに似てるのか?」

「えぇ。この国の、いえ世界の王である太陽神アトゥム。我が王と瓜二つです」


 うっとりした顔で俺の頬に手を触れようとするネイスだが、霊体では触れられないようだ。

 それがわかると残念そうに目を伏せる。

 残念なのはこっちもである。

 勘違いとはいえこれだけの美女に好意を持たれているというのに、実体がないから触る事も出来ないとは。

 俺はため息を吐きながら、ネイスに背を向けた。


「それじゃ、俺たちは行くから」

「えーーーっ!?」


 するとネイスは大きな声を上げた。


「? 何だよ。まだ用があるのか」

「そ、その……あのぅ……私も連れて行って貰えませんか!?」


 おずおずと申し出るネイスに、俺は言う。


「無理」

「即答ですかーーーっ!?」

「だってお前を連れて行くメリットないし」

「何でもしますから! お願いします! こんなゾンビしかいないとこに一人でいるなんて寂しいんですよーっ!」


 何でもと言われてもなぁ。

 肉体があればそりゃ嬉しい言葉だが、ゴーストにやって貰うことなんてないぞ。


「……なぁ、少しかわいそうじゃないか? こんな所に一人でいたら確かに恐ろしいと思うぞ」

「そうですっ! ずっととは言いませんのでっ!」


 セシルが哀れに思ったのか、助け舟を出してくる。

 そうは言ってもなぁ。うーん、どうしたもんか。

 ネイスの使い道ねぇ……まぁここの道案内くらいなら役に立つかもしれないか。

 ここを出たら置いていけばいいし。

 ついてきたら走って撒こう。


「はぁ、じゃあここの案内だけ頼めるか?」

「わかりましたっ!」


 ゴーストにあるまじき元気よさで返事をするネイスを連れ、俺は先に進むのだった。

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