軍人、地下を探索する
階段を降りていくと、今までとは打って変わり下層は洞窟っぽい雰囲気だった。
土壁で周りを囲まれており、地面も土だ。
ところどころにこんもりと土が盛られている。
恐らく墓地だろうか、結構不気味だな。
「……というかセシル、妙に大人しいな」
「ば、バカな。大人しくなど……ないっ!」
声が震えているぞ。
さっきからずっと俺の後ろをついてきているし。
いつもなら戦闘時は真っ先に飛び出していくのに、今日は敵が出てきても硬直したまま動かない。
地下に降りてからは顕著で、顔は青ざめており、カチカチと歯を鳴らしている。
……ははーん、さては怖いのか?
俺はニヤリと笑うと、足を早める。
「お、おい! 一人で先行するのは危険だろう!」
壁際に隠れていた俺は、慌てて追ってくるセシルの背後に回り込んだ。
「わっ!」
「ひゅいっ!?」
そして無防備な背中に声をかけると、驚いたセシルは飛び上がった。
「ぐぐ、君という奴は……」
「はははははは! いやー笑わせてもらったぜ!」
涙目で睨みつけてくるセシルを見てめちゃめちゃ笑った。
『アレクセイ、あなたは本当に性格が悪いですね』
『何を今更。だが見ろ、セシルの緊張は和らいだだろう』
セシルは怒ってはいるが、先刻のように固まってはいなかった。
あれなら何かあっても動けるだろう。
荒療治である。自分が楽しみたかったというのもあるが。
おっと、反応があったのはこの辺りか。
「とりあえずこの辺掘ってみるか」
「おい、そんな適当な……」
「いいから、ほれ。こいつを使え」
俺は構わず、アイテムボックスに大量に購入していたツルハシをセシルに渡した。
「戦士スキルを使えばこの辺り、一気に掘り返せるだろ」
戦士スキル『戦闘技術』は武器を装備した際に特定スキルが使用可能となる。
それは剣や弓のようないかにもな武器だけでなく、ツルハシにもかかる。
ツルハシを装備した際に使用出来るスキル『土砕撃』を使えば、一定範囲内の地面をまるでプリンでも掬うかのように土を掘り返す事が出来るのは事前に確認済みだ。
「ツルハシは使い慣れてないんだがな。スキルは消耗も大きいし……」
「なら俺がやろうか? 敵が襲ってきたらお前に対応して貰うが」
「……僕がやろう」
ゾンビと戦うのが余程嫌なのか、セシルは渋々といった顔でツルハシを受け取った。
「しかし、本当にここでいいのか? 無闇矢鱈に掘り返すのは効率が悪いぞ」
「大丈夫大丈夫、俺を信じろって」
ジト目を向けてくるセシルだが、シヴィのスキャンによれば間違いなくかなりの部品が埋まっている。
それに反論しようにもアイデアがあるわけでもないのだろう
結局俺に従うことにしたのか、セシルは半信半疑と言った様子でツルハシを大きく振りかぶり、地面に叩きつけた。
「はぁっ!」
――土砕撃、発動により地面が一気に削れる。
おお、丁度良い威力だ。
俺だと削りすぎて地下が崩壊しかねないからな。
普通の攻撃ならともかく、スキルによる手加減はまだいまいち感覚が掴めない。
「む!」
二回目の掘削で、早くもカチンという音が聞こえた。
掘り返してみると、何らかの部品を見つけた。
おっしゃ、早くもゲットである。
「本当に出るとは……」
「まだまだ出るぞ。ほら気張って掘れよ」
セシルが地面を掘り起こしていくと出るわ出るわ、様々な部品が出土していった。
こっちはラジエーター、こっちは増幅器、こっちはシリンダー、ピストン、シャフト、ブレーキ部品……型式は古いが、多分規格はそう変わらないはずだ。運が良ければ使えるだろう。
とりあえず片っ端からアイテムボックスへと突っ込んでいく。
ちなみにアイテムボックスはある程度区間分けされているので泥付きでも後で洗えば問題なし。
その間も近づいてくる魔物を、魔術でぶっ飛ばしていく。
意外と忙しいな。
そして妙に魔物が多い気がする。
『ここにはもう埋まっていませんね。次に行きましょう』
「セシル、移動だ。次に行くぞ」
「ちょ、おい待てアレクセイ! 少し休ませろ!」
ぜぇはぁと息を荒らげるセシル。
そういえばちょっと腹も減ったな。
「わかった、メシにするか」
「あぁ、少し待ってろアレクセイ。何か作る」
「休むんだろ?俺が作ってやるよ」
「結構だ。それより見張りを頼む」
どうやら戦う方が嫌なようだ。
じゃあ任せるか。
「あと調理道具をアイテムボックスから出してくれらと嬉しいのだが」
「はいよ、頼むぜ」
「任せろ」
ちなみにアイテムボックスにはセシルの持ち物も入っている。
食材兼セシル区間から諸々調理道具を取り出し、渡すと、早速料理を始めた。
「とりあえず周囲に敵の気配はなし、か」
ぐるりと辺りを見渡すが、敵はいない。
調理中に埃が入ったら嫌だし、敵の乱入も鬱陶しからここはプロテクションを張っておくとしよう。
俺はジョブに『僧侶』をセットし、周囲にプロテクションを展開する。
透明なドーム状の壁が俺たちを包み込んだ。
しばらくすると美味しそうないい匂いが漂ってくる。
「たまらん匂いだぜ。まだか?」
「焦るな。もうすぐ……うん、出来たぞ」
セシルが味見をして、頷く。
器に盛り付けられたのは大量の肉や野菜が入った、スープだ。
俺の苦手な豆は少なめである。
「栄養、調理速度優先の野菜スープだ。大したものではないが……」
「美味い美味い」
戦場で食べるメシとしては上出来である。
塩胡椒は当然として、出汁も十分出ているし、文句はない。
ガツガツとかきこむ俺を見て、セシルは満足げに微笑を浮かべていた。
なんかじっくり見られると恥ずかしいんだが。
「ひっ!?」
「ん? どうした」
「あああ、あれ、あれ、後ろだアレクセイっ!」
振り向くと、そこにはプロテクションに阻まれる大量のゾンビがいた。
アーとかウーとか言いながら、透明の壁にべたべた手や顔を押し当てている。
どうやら俺が食事に夢中になっている間に、近寄ってきたようだ。
「あー、大丈夫だよ。メシ食ったら解除して瞬殺するから。それよりおかわり」
「……よくこんな状況で食べられるな」
呆れるセシルだが、戦場ではもっとエグい状況でメシを食う事もザラだ。
このくらい普通だと思うんだが……全く繊細なやつである。
セシルは無理やり、目を瞑って食べていた。




