軍人、買い物に行く
「またいらして下さいねーっ!」
「おう、元気でな」
見送るリルムに手を振り、領主の家を去る。
発掘許可も貰えたし、あとは部品を掘り出すだけだな。
「さて、じゃあ早速行くとするか?」
「アレクセイ、それなら食材を買っていかねばならないだろう。付き合って貰うぞ」
「えぇ……俺は別になんでもいいんだがなぁ」
「何を言う。食事は大事だ。それに長丁場になれば栄養面も考えなければならない。私が勝手に選んで食べられないものがあっても困る。君の意見も聞かねばならない」
「好き嫌いはほとんどねぇよ。子供じゃあるまいし……気にせず勝手に選んでくれ」
「そうもいかない。いいからこい」
まるでおふくろみたいなことを言ってくる。
栄養バランスとかなんとか、たまに女みたいなんだよなぁ。
これが乙男ってやつか?
というわけで連れていかれた先は市場である。
肉や野菜、魚が並んでいる。
「では選んでいくぞ」
張り切るセシルの後ろをついて行きながら、俺はジョブに『商人』をセットする。
アレクセイ=ガーランド
レベル86
ジョブ 商人
力A
防御B
体力SS
素早さB
知力SSS
精神S
パッシヴスキル
売買上手C アイテムボックスC
この売買上手は購入する際に10%減額、更にアイテムボックスにはかなりの量のアイテムが入り、腐敗もしない。
両方とも買い物にはなくてはならない便利スキルだ。
セシルは店に入ると、素早くチェックしていく。
「……ふむ、ニンジンが安いな。一つ貰おうか」
「あいよ」
言われるがまま俺はニンジンを購入する。
ちなみに金はすでに受け取っている。
次の店ではジャガイモを、次の店ではダイコンを、次々と買っていった。
「ここでは豆を買おう。豆は畑の野菜と言われており身体に良い」
「豆は苦手なんだよなぁ」
なんかもったりしてて美味しくない。
俺の言葉にセシルは冷たい視線を向けてくる。
あ、いや。別に好き嫌いしてるわけじゃないぞ。ただちょっと苦手なだけだ。食べる、食べるって。
わざわざ安い店、品質の良い店を選んでいるようだ。
主婦かよ。全く。
「……ふぅ、こんなものか」
「買いすぎだ、馬鹿。遺跡なんて潜っても二、三日くらいだろう。どんだけ長居するつもりかよ」
「別にいいじゃないか。減るもんじゃないし……余ったら次に使えばいいだけだろう」
「だがそう長い間お前と一緒にいるとは限らないじゃないか」
パーティを組んでいると言っても、一時的な物である。
いつ解散になるかもわからない以上、俺にこんな大量の荷物を持たせるのはリスキーだと思うのだが……
俺の言葉に、セシルは悲しそうに眉をひそめた。
「……僕と組むのが嫌なのか?」
「いや、そういうわけじゃないけどよ……お前はどうなんだ?」
「僕はそもそも君としばらく共にいるつもりだ」
「はぁ、なら構わないが……」
結局ついてくるつもりのようである。
金を貯める為に冒険者になったくせに、俺の手伝いなんてしてていいのかよ。
本人がいいというならいいか。
セシルは料理上手だし、戦闘能力もまぁまぁ高い。相方としては悪くない。
買い物を終えた俺たちは、宿へと戻る。
出発は明日だ。今日は英気を養おう。
「それじゃあ明日な。セシル」
「遅れるなよ。アレクセイ」
言ってろ、と言葉を残して俺は自室へと帰る。
夕食を食べ終えると、晩酌タイムだ。
買い物の時、ついでに買っていた酒瓶を取り出して飲み始める。
「くはぁー美味い! ここの酒って雑味が強いが、それが逆に癖になるんだよな」
この世界の酒は基本個人が手作りで作っている。
故にどれも味が微妙に違う。
最初は受け入れられなかったが、今はそれも楽しみの一つである。
暫く俺は酒を楽しんだ。
『アレクセイ、風呂は入らなくていいのですか?』
シヴィが声をかけてくる。
おっとそうだ、まだ風呂に入ってないんだった。
気づけばもう23時である。
危うくこのまま寝る所だったぜ。
『全く不潔ですよ』
『入るんだからいいだろ』
俺は着替えを手に、風呂場へと入っていく。
どうやら誰もいないようだ。
深夜の風呂は貸し切りで気分がいいぜ。
鼻歌を歌いながら湯船に浸かっていると、びしゃりと音がして誰かが中に入ってくる。
小柄な人影だ。丸っこい華奢なシルエットは女性のものに見えた。
湯煙の中から現れたのは……セシルだった。
「きゃあっ!? あ、アレクセイ!? また君はこんな所で……」
「なんだセシルじゃねぇか。驚かせやがって」
女みたいな声を出すからびっくりしたじゃないか。
セシルは前を隠しまま、赤い顔で硬直している。
どうやら恥ずかしいようだ。
まぁ俺もそろそろ出ようと思っていたところだ。
ざぱっと湯船から上がると、脱衣所へ向かう、
「んじゃ、ごゆっくりー」
声をかけるが、セシルは最後まで固まったままだった。
「ふぅー、いい湯だったなぁ」
着替えて部屋へと戻りながら、持ってきていた酒瓶を呷る。
その途中、風呂に行くっぽい女性客が俺を怪訝な目で見ていたがなんだったのだろうか。
今は男が入る時間のはずだが……
翌日、待ち合わせの場所に行くとセシルが不機嫌そうに立っていた。
「……おい、アレクセイ。あぁいうのは良くないと思うぞ。ぼ、僕だから許してやっているだけなのを忘れるなよ」
「? なんの話だ?」
「昨日の風呂の話だっ!」
「あぁ……ていうかお前こそもっと鍛えた方がいいぞ」
「な……! も、もういいっ! 早く行くぞっ!」
俺の言葉にセシルは顔を真っ赤にした。
ずんずんと先に進んでいく。
なんなんだ一体。
『アレクセイ、本当にまだ気づいてないのですね』
『ん?なんの話だ?』
『いえ、それはそれで面白いかと思いまして』
歯に物が挟まったような言い方をするシヴィ。
前も似たような事があった気がするが、まぁいいか。




