軍人、領主に会いにいく
俺はアレクセイ=ガーランド。
帝国宇宙軍第七艦隊所属、宇宙用人型機動外装のパイロットだ。
敵部隊と交戦中、味方を庇ってとある惑星へと墜落した。
そこはレベルやステータスのある、まるでゲームのような世界。
生活の為に冒険者となった俺は、のんびりスローライフを送るために着々と生活基盤を整えていたのである。
あれからしばらくして、俺はイザベラの元へ訪れた。
屋敷は崩壊しているが地下施設はほぼ無事である。
備え付けられたエレベーターに乗ると、ごうんと音がして落下していく。
向かう先は地下施設。そこには俺の愛機である、シビラ08高機動型は修理の為にそこへ収納されているのだ。
ちなみにそのAIは小型ドローンとして俺の頭上に浮かんでいる。
通称シヴィ、ロボットのくせにツッコミの激しい厳しい奴だ。
光学迷彩で姿を消しており、俺にしかわからない。
「ここへ来るのも久々だな」
勝手について来たセシルが言う。
あれからというもの、セシルは俺のお目付役を気取り行動を共にしている。
元貴族の家柄らしく、家の復興の為に冒険者となり金を稼いでいるとの事だ。
剣の腕はそれなりに立ち、顔は中々のイケメンで女が勝手に寄ってくるチート能力を持っている。
くそ、俺によこしやがれ。
長い長いエレベーターを降りると、扉が開く。
その直後、満面の笑みで俺を迎えたのは黒髪の美女、イザベラだった。
「アレクセイさまーーーっ!」
そして抱きついてくる。
普通に考えて美女に抱きつかれれば嬉しいのだが、こいつに関しては事情が違う。
イザベラはロボットなのだ。ロボット相手に劣情は抱けない。
俺はイザベラをぐいと離し、要件に入る。
「08の修理状況を聞きたいんだが」
「あん、つれないですわぁ。……そうですね。08さんですが、修復には部品が足りませんねぇ」
「やはりか」
08は先の戦いで俺が無茶をさせたせいで、駆動関係がボロボロになっている。
ナノマシンによる自動修復で何とかなるのは、装甲やフレームなどは簡単な部分だけだ。
微調整が必要な駆動部分はメカニックによる修復が必要である。
故に本人も人型ロボットであるイザベラに頼んでいたわけだが、流石に無理だったようだ。
「私では発掘した部品をある程度調整して組み立てる、くらいが限界ですねぇ。簡単なものなら作れますけど……というわけで新たに発掘して来てほしいのですよ」
そう言ってイザベラが手渡して来たのは、この辺りの地図である。
「印の場所は現在はゴーレムがよく出土する遺跡なんですよ。部品なんかもかなり出て来ますし、探しに行ってもらえませんか?足りない部品も書き記してありますのでぇ」
「そういう事なら、わかった。任せておいてくれ」
「ふふ、頼もしい返事です」
満面の笑みを浮かべ、イザベラは俺を送り出すのだった。
工場を出た俺たちは、町へ戻りながら地図を広げる。
「この遺跡、確か領主の管轄だろう。許可を取らねば入れないぞ」
「じゃあ領主の許可を貰えばいい」
俺の言葉にセシルは頭を抱える。
「……簡単に言うがな、どうやって許可を得るつもりなんだ?」
「あの領主には貸しがあってな。まぁ行ってみるさ」
以前、領主の娘の命を救った事がある。
恩を感じているはずだし、遺跡の調査くらいさせてくれるだろう。
町の中央部にある大きな屋敷へと向かう。
「ういっす、ちょっといいかい。領主さんに話があるんたが」
「なんだお前は。怪しいヤツめ」
門番に声をかけると、あからさまに警戒された。
流石に俺の顔まではわからないか。まずは説明が必要だろう。
「えーと、そちらの娘さんを助けたアレクセイという者だ。言えば話が通じるはずだ。確か娘さんの名前はカーシャって言ったっけ」
「カーシャ様を助けただと……ふん、まぁいい。少し待っていろ」
門番は訝しみながら、屋内へと入っていく。
そしてしばらく、血相を変えて飛び出して来た。
「た、大変失礼いたしましたっ! アレクセイ様ですね! ささ、こちらへお越し下さいませ!」
慌てて俺を案内する門番に連れられ、屋敷の中に通される。
あからさまに態度を変えやがって、そのうち絶対クビになるなこいつ。
「おお、アレクセイさんではありませんか! よくぞお越しいただきました」
玄関で俺を歓迎したのは、太っちょの中年男だった。
以前に見た領主である。
「久しぶりだな領主さん」
「あの時は本当に、ありがとうございました。突然ですので大した歓迎は出来ませんが、是非ゆっくりしてくださいませ。お連れの方もさぁ、どうぞ遠慮なく」
「ど、どうも……」
セシルは緊張しているのか、やや縮こまっているようである。
通された先は豪華な客間だった。
流石に領主、いい調度品使っているな。
俺の横に座ったセシルは辺りをキョロキョロ見渡している。
こら、落ち着きなさい。恥ずかしい。
「アレクセイさんっ!」
勢いよく扉を開け放ち、入って来たのは以前助けた少女、リルムだった。
リルムは俺の方に駆け寄ると、勢いよく抱きついてくる。
「お久しぶりですっ! お元気でしたか!? もう、いつでもいらしてくださればよかったのにっ!」
「おー、懐かしいな。まぁ色々あってよ。カーシャちゃんはいないのか?」
「むぅ、お姉様は婚約者と旅行中です。それより私とお話ししてくださいまし!」
「へいへい」
リルムと話していると、セシルが呆れた様子で俺を睨んでくる。
「君という男は……そんな幼い少女にまで手を出していたのか……」
「おい、誤解だぞ。この子はただの……」
「なんです? この人」
俺の後ろに隠れ、警戒気味な視線を向けるリルム。
「僕はアレクセイの保護者だ」
「……そうなのですか? アレクセイさん」
「あー、まぁその、なんだ……」
二人して俺を凄い形相で睨んでくる。
なんだこの状況。
「ははは、両手に花で羨ましいですなぁ」
それを見ていた領主が楽しげに笑う。
何が両手に花だ。片方は幼女だしもう片方は男だぞ。
全く羨ましくねぇよ。
俺はため息を吐きながら、用意された茶を飲み干した。
「……それで、用というのはなんですかな?」
「あぁ、ちょっと頼みたい事があってな。この遺跡に入りたいのだが、許可が欲しい」
そう言って地図を取り出し、見せる。
領主は地図を見て、ふむと唸る。
「むぅ、ガロンゾ遺跡ですか。一体何故です?」
領主の問いに、俺はしばし考え込む。
地下施設があるとはいえ、08を隠蔽するのは難しい。
しかし領主を抱き込めば何とかなるのではあるまいか。……うん、ナイスなアイデアだぞ。
『アレクセイ、悪い顔になってますよ』
『利用出来るものは何でも利用しないとな』
シヴィにツッコミを受けながらも、俺は腰を乗り出した。
辺りに目配せすると、領主は察したのか耳を近づける。
「ここだけの話だが、実は俺はゴーレムを持っているんだ」
「な、なんと! 本当ですかな!?」
驚く領主とリルムに、頷いて返す。
「あぁ、岩石都市のゴーレム騒ぎの犯人、イザベラは俺が説得して仲間にした。イザベラに俺のゴーレムを修理させてるんだが、部品が入り用らしくてな。遺跡で発掘したいんだ」
「……なんと、俄かには信じ難い話ですが……いえ、嘘を言っても仕方ありますまい。信じましょう」
「有り難い。それとこれはあまり公にはしたくなくてな、領主さんの権限でなんとか誤魔化して欲しいんだ。代わりと言っちゃなんだが、俺に出来る事なら色々協力するぜ。でっかい魔物が攻めて来たらゴーレムで撃退したり、とかさ」
世の中はギブ&テイクだ。
何かをして欲しいなら対価を差し出さないとな。
領主は少し考え込んだ後、手を出してきた。
「そういう事でしたら、是非とも協力させて頂きたい。いや、領主としてゴーレムがあるというのは非常に安心出来る要素でして。はい。もちろん遺跡の発掘もご自由にやって下さい」
「助かるぜ」
握手に応える。
よし、これで面倒な制約は無くなったな。
持つべきものは地位の高いおっさんである。




