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軍人、女難を嘆く

戦闘終了、起動スイッチを切ると、うぅぅぅぅ……ん、と音が鳴り、コクピットが薄暗くなる。

ふぅ、何とか勝てたな。

剣士スキルである一文字斬が使えたのは、08を文字通り『武器』として使っていたからか。

どうなる事かと思ったが……やれやれ、何とか勝ててよかったといったところか。

セシルも汗びっしょりになっており、くてんと床に座り込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


息を荒らげるセシル。

IOSは脳の疲労度が高いのも欠点の一つである。

後で甘いものでも奢ってやるか。


「おつかれ、よくやったな」

「……あぁ」

『シヴィもな』

『全くです。もっと機体を大事に使ってくださいね』


俺は二人をねぎらうと、コクピットを開いた。

ひょいと地面に降り立つと、燃え盛るテスタロッサの前に行きジョブに『魔術師』をセットする。

アイスストライクを宙に放ち、ファイアランスで溶かした。

解けた氷が水となって辺りに降り注ぎ、みるみるうちに鎮火していく。

まだ炎の残る中へと足を踏み入れ、残骸をどかしていく。


「おいアレクセイ、何のつもりだ?」


俺の後に降りてきたセシルが問う。


「見ての通りだ。イザベラを助ける」

「呆れた男だ……今さっき殺されかけたばかりじゃないか」

「関係ないだろ。俺の勝手だ」

「ふん、全くだな」


と言いながらもセシルは俺を手伝い始めた。

そう言うなら手伝う必要はないのに、そっちの方こそ全く酔狂な男である。

苦笑しながらもイザベラを探す。


……生きていろよ。でないと俺の計画が破綻なのだ。

すなわち――勝利して格の違いを見せつける→その上命を助ける→素敵、抱いて!

――という完ぺきな計画が、だ。


しかしこれだけの大爆発だったのだ。無事生きているだろうか。

焦燥感に駆られながら、焼け焦げた残骸をどかし続ける。


「アレクセイ!」


セシルに呼ばれ向かった先には、倒れ臥すイザベラがいた。

思わず駆け寄り、言葉を失う。

イザベラの胴体には瓦礫の破片が突き刺さっており、ピクリとも動いていなかった。

愕然とそれを見下ろす俺の肩に、セシルが手を載せる。


「……残念だったな」


何とも言えない気持ちだ。

戦いでは珍しくもない事だが、何度経験しても人の死というのは割り切れないものである。

どうしようもなかったとはいえ、俺がやった事だ。俺は無意識に手を合わせた。


「はぁ、全くやられましたわねぇ」


しんみりしていると、いきなりイザベラの声がした。

倒れていたイザベラが起き上がり、瓦礫を引っこ抜いたのである。

一体何が起こってるんだ!?

あまりの驚きに、俺とセシルは硬直していた。


「そんなに驚かないでくださいな。私の身体はホラ、機械なのですよぉ」


そう言って傷口をくぱぁと開き、見せてくる。

イザベラの皮膚に覆われたその下には様々な機械が埋まっており、火花を散らしていた。


「上手く急所を外れてくれてよかったわぁ。それなりに重要な機関も積んでるのでぇ」

「な……お、お前、ゴーレムだったのか!?」

「むぅ、そんなに驚かれるとショックを受けますねぇ」


驚愕するセシルに、イザベラは唇を尖らせる。


『これは驚きです。これだけのテクノロジーが詰まった人型ロボットが存在しているとは』


驚いているのはシヴィもだ。

俺たちの星の技術にも、あのくらいの人型ロボットくらいなら作る事は可能。

しかし小型かつ高性能な部品を多数使う為、定期的なメンテナンスが必要なのである。

まともな設備もなく、はるか昔の機械を発掘するような環境で、イザベラ程の精巧な人型ロボットが存在する、という事が驚きなのだ。


「ところでアナタ、名前を聞いてもいいかしらぁ?」

「俺、か? 俺の名はアレクセイだが……」

「アレクセイ様、ですかぁ」


イザベラは目を細めると、頬を赤く染めた。

蠱惑的な笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。

そして、キスをしてきた。


「な……何をしているっ!?」


声を荒らげるセシルをちらりと見た後、イザベラは余韻を楽しむかのように俺から身体を放した。


「何って……服従の誓い、ですよ」


そう言って舌を見せるイザベラ、そこには妙な紋章が刻まれていた。


『アレクセイの命令を順守するよう、自らに課したようです。しかもわざわざ唾液を採取し、DNAによる生体認証システムまで使って……酔狂な機械ですね』


悠長に解説するシヴィだがこっちはまだ冷静さを取り戻していない。

いきなりの行動に戸惑う俺に、イザベラは語る。


「見ての通り、私は主人無き機械人形……自らが仕えるべき主人を探し、彷徨っていました。ですが良い方が見つからず、来たるべき時に備え機械の王国を作っていたのですよぉ。ですがついに見つけました」


イザベラは俺を熱っぽい目で見つめてくる。


「私を上回る戦闘力、機械人形を駆る知識、そして敵である私を助けるという慈悲……あぁアレクセイ様、アナタこそ私の主人にふさわしい!」


そう言ってイザベラは、抱きついてくる。


「おいこら、当たってる当たってる!」

「当てているのですよぉ。えいえいっ!」


嬉しそうに身体を押し付けてくるイザベラ。

むき出しの金属部分が刺さってものすごく痛いんだが。

しかもセシルがすごい目で俺を見ている。


「何をデレデレしているんだか……馬鹿馬鹿しい」


そう言って、不機嫌そうにそっぽを向いた。


『女難続きですね、アレクセイ』

『……全くだ』


幼女にコブ付き、女顔のイケメンに挙句はロボかよ。

まともな女性はいないのか?

俺はため息を吐くと、空を見上げた。

薄暗くなりつつある空で、流れ星が一つキラリと流れた。



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