軍人、決着をつける
すぐそばに降り立った08を見上げる。
両目についたモノアイがギラリと光り、マスクから蒸気が噴き出した。
赤色のラインが入った白銀のボディ、両腕にはカノン砲とシールドがそれぞれ付いており、背中のバックパックには多数の武装が搭載。
二本のビームサーベルが伸びていた。
両腕両足にも武器が仕込まれ、機動力よりも火力に重きを置いており、スタイリッシュで機能美を追求したこのデザイン。
うん、やはりカッコいい。惚れ惚れするぜ。
『早く乗ってください、アレクセイ』
08がゆっくりと屈み、俺たちの方は手を伸ばしてくる。
俺はその掌に駆け上がった。
「さぁセシルも、早く!」
「う、うん……!」
呆然とするセシルの手を取り、引っ張り上げる。
俺たちが乗ったのを確認すると、08は手を胸部前まで持っていく。
装甲が開き、露わになったコクピット内部にセシルと共に乗り込んだ。
座席に座ると、操縦をオートからマニュアルに切り替える。
セシルは俺の横で不安げに左右を見渡している。
「あ、アレクセイ? これは一体……?」
「俺のゴーレム、だな」
この世界風に言うと、である。
正式名称は帝国宇宙軍第七艦隊所属、宇宙用人型機動外装シビラ08高機動型。それがこいつの名前だ。
勿論そんな話を理解出来るはずもない。
ハンドルにレバー、ペダルを軽くて動かし、数ヶ月ぶりの操縦感覚を確かめる。
よしよし。ちゃんと動くじゃないか。
『ナノマシンでの修復機能なんて眉唾だったが、意外と直るもんだな』
『言っておきますがアレクセイ、損傷率は35パーセントもあるのです。まともな整備がされてないのでいつ止まってもおかしくありません。ギリギリで動いているのをお忘れなく』
『オーライ』
戦場では補給もなく、本来の稼働時間である10時間を大幅に超えた36時間ぶっ続けで戦っていた事もある。
ギリギリの戦いは日常茶飯事だ。
手慣れた仕草でカメラのスイッチを入れていき、兵装へとエネルギーを送る。
システムオールグリーン。戦闘準備、完了である。
俺は起き上がるテスタロッサを見下ろし、言った。
「紹介するぜ。こいつはシビラ08高機動型、俺の愛機だ」
「な、な、なな……なんですってぇ……!?」
戸惑うテスタロッサに向かって、走る。
宇宙機である08は、地上では負荷が大きくエネルギー消費も大きい。
加えて損傷も激しいのだ。先手必勝である。
テスタロッサも応じるべく、戦闘態勢を取った。
「全く、本当に驚かせてくれますねぇ。ですが私のテスタちゃんに勝てるとでもぉ……?」
テスタロッサは右腕を上げ、ビームガトリングを撃ってくる。
無数の光弾に俺はシールドをかざした。
シールド中心部から六方形に伸びたビームの膜が、それらを全てガードする。
「魔術の盾っ!?」
ビームシールドを見て驚くイザベラ。
よほど高出力のものでなければ、ビーム兵器はこいつで防ぎきれる。
というかイザベラはさっきからビームの事を魔術と言っているな。
その理屈で言うと、テスタロッサの装甲もビームシールドと似たようなものかもしれない。
だったら攻略する手段は、ある。
「ビームサーベルなら!」
『そう言うと思いました』
08のバックパックからビームサーベルの柄が伸びる。
俺は背中に手をやり、それを抜き放つ。
スイッチを押すと柄から一筋の光が伸びた。
こいつは円錐状のフィールドを張り、高出力のビームを展開する兵器である。
ビームシールドと同じく高出力ビームを一点に留めている為、射出型とは比べ物にならない程の威力を持っているのだ。
「なっ!? そんなものまでっ!?」
その異様な出力に脅威を感じたのか、めちゃくちゃにビームガトリングを撃ってくるテスタロッサ。
シールドを構え、それらを全て弾きながら近づいていく。
「でぇい!」
振り上げたサーベルで斬りつけると、テスタロッサは慌てて身を躱す。
触れた箇所の装甲ジワリと赤く染まり、融解しかけていた。
流石に硬いな。だがまともに当たれば倒せそうだ。
「……今度は魔術の剣、ですか。ですがそれならテスタちゃんにもあるのですよぉ!」
イザベラの言葉と共に、テスタロッサの両脚装甲がばかんと開く。
そこから伸びる二本の柄。抜き放ったその柄から光の刃が伸びた。
「二刀流かよっ!」
「その魔術の剣一本で防ぎ切れますかぁ!?」
テスタロッサは両手に持った魔術の剣で斬りかかってくる。
それに応じるように剣を振るった。
ぎぃん! ぎぃん! と高出力のビーム同士が弾き合う音が鳴り響く。
くっ、捌き切れん。なんだこの無駄のない動きは。
まるで機械のように正確に、機体の要を狙ってくる。
「アレクセイ、押されているぞ!」
「わ、かってんだよ……っ!」
振り下ろされる刃を弾く。
一旦距離を取らねば、そう思い後ろに跳んだ瞬間である。
奴のビームガトリングが無防備に着地する俺を狙い撃ってきた。
――直撃する!
どおん! と衝撃音が鳴り、コクピットが揺れた。
「くっ……手が足りない……!」
いつもなら攻撃と防御、姿勢維持などの操作はシヴィと分担して行っている。
今もそうだが、地上ではより繊細な姿勢維持が必要だ。
重力ってやつがこれほど厄介とは思わなかったぜ。
最初は勢いで誤魔化していたが、今は相手の攻撃を凌ぎ、姿勢のバランスを取るので精一杯。攻撃にまで手が回らない。
何か手は……思考を巡らせる俺の横に、セシルが立つ。
「アレクセイ、僕に何か手伝える事はないか!?」
「お前……そんな事言っても、操縦なんか分かるのか?」
「わからない……でもじっとなんてしていられない! 僕に出来ることならなんでもやる! だから、頼む!」
じっと俺を見つめるセシル。
真剣な眼差しだ。俺はしばし考えた後、頷いた。
「……わかった、こいつを取れ」
渡したのは無線型操縦桿である。
それを見たシヴィが声を上げた。
『アレクセイっ!?』
『どうしようもないだろ。それにIOSを使えば案外いけるかもしれんぞ。シヴィは機体の制御を頼む』
『……そう、ですね。はぁ、正規のパイロット以外に触らせたくはないのですが……IOSに切り替えます』
シヴィがぶつくさと文句を言いながら、上半身の操縦をIOSに切り替える。
こいつはイマジン・オペレーション・システムと言い、簡単に言えば考えただけで機体が動くようになるシステムだ。
ただ手動よりも反応が鈍く、微細な動きをするにはより詳細なイメージをせねばならない。
初心者向けだが、剣術の使い手であるセシルには案外ハマるかもしれない。
「セシル、この機体は今からお前が考えた通りに動く。上半身の動きを任せるぞ」
「! わかった!」
元気よく返事をすると、セシルはビームサーベルを構える。
「下は俺に任せて、存分に振り回せ!」
「はああああああっ!」
気合いと共にテスタロッサへと斬撃を繰り出すセシル。
テスタロッサはそれを防ぐと、もう片方の剣で振り払ってきた。
それを跳んで躱す。足運びと回避に集中出来れば、そうは当たらん。
「動きが変わった!?」
「てぇい! やあっ!」
光の刃が交じるたび、激しい閃光が巻き起こり、その残滓が宙に舞う。
一進一退の攻防が繰り広げられ、互いに一歩も引かない。
ようやく互角――そう思った直後である。
びー、びー、びー、と警告音が鳴り響く。
見ればエネルギー残量を示すゲージが赤くなっていた。
やべ、もうエネルギー切れかよ。
「セシル! もう持たんぞ!」
「わかった! 一気に行く! はああああああっ!」
どうやらこの一撃に全てを込めるようだ。
IOSによりセシルのやろうとする事が俺の頭に流れ込んでくる。
……この感じ、もしやアレをやるつもりか。
『シヴィ、少し無理をするぞ』
『今更です。はぁ、お好きにどうぞ』
俺はギアをマックスに入れ、全力で駆ける。
稼働限界を超えた動きにより、各駆動部分から妙な音が聞こえるが無視して突っ走る。
「っ! 無駄ですよぉ!」
二刀による斬撃を、身体を捻って躱す。
そのまま急速旋回にて背後に回り込んだ。
ベストポジション、取った。
「今だ!」
俺の言葉と同時に、既にセシルは剣を振りかぶっていた。
「一文字、斬ぁぁぁぁぁん!」
咄嗟に二刀で受けて防ごうとするテスタロッサだが、それごと斬り裂く。
「ば……」
一閃、テスタロッサは左右二つに分かたれ、パチパチと火花を散らしている。
だがそれも一瞬、各部が暴走し、炎を上げ始める。
「馬鹿な――ッ!」
イザベラの悲鳴と同時に、テスタロッサが眩く光る。
そして――
どおおおおおん! と火柱を上げ大爆発する。
巨大な炎を背に、08は悠々とサーベルの柄を収めるのだった。




