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軍人、美女魔術師と相見える

 イザベラの逃げた先は細長い廊下だった。

 やはり壁や床は金属で出来ており、天井には蛍光灯が煌々と光を放っている。

 俺とセシルの駆け足の音が、カンカンと高く響いていた。


「それにしても流石だアレクセイ、魔術師相手にも全く遅れを取らんとはな。これなら僕たちだけで捕まえれるかもしれない!」


 大手柄を前にして、セシルは興奮しているようだ。

 確かにイザベラは相当無茶をしているようだし、捕まえれば大手柄だろう。

 手柄を取って成り上がりたいセシルが逸るのも無理はない。

 だが嫌な予感がする。

 何か誘い込まれているような……ええい構うか。毒を食らわば皿までよ。

 待ってろよイザベラ。今懲らしめてやるからな。

 かなり離れた場所に感じるイザベラらしき反応目掛け、真っ直ぐに突き進む。


『アレクセイ、熱源反応です』

『何!?』


 シヴィの警告で立ち止まる。

 耳を澄ませれば確かに、ガリガリと何かをひっかくような音が聞こえてくる。

 現れたのは戦車、しかも砲門を三つ備えた重装型である。

 気配を感じなかったのは、相手が無人機だからか。

 戦車は機銃砲台を傾け、こちらに狙いをつけてきた。げっ、やばい。


「ふせろ!」


 俺はセシルを抱え、跳んだ。

 直後、俺たちのいた場所を銃弾の雨が通り過ぎる。


『ガトリングガン装備ですか。殺る気マンマンですね』

『ていうか出来るだけ施設を破壊したくないんだろ』


 口径の小さな弾丸なら、建物に大した傷はつかないからな。

 反面、人間には効果が抜群だ。スキルで操り人形にしたり、よほど人嫌いとみえる。


「っ……!?」


 弾丸はセシルに掠っていたようで、肩から血を流している。仕方ない、治してやるか。

 俺はジョブに『僧侶』をセットし、ヒールを発動させた。

 淡い光がセシルを包み、傷が癒えていく。


「す、すまない……」

「セシルは少しそこにいろ」


 俺は立ち上がると、僧侶スキルであるプロテクションを発動させる。

 こいつの硬度はどの程度かと計るためだ。

 防御スキルの強度把握は重要だ。何せ俺の命を守ってくれるんだからな。

 目の前に透明な壁が生まれ、弾丸を全て弾き飛ばした。銃弾程度は防げるようだな。

 ガガガガガガガガガ! キキキキキキキキンキン!

 プロテクションの壁を盾に、俺は戦車へと進んでいく。

 これだけ受けても傷一つ付かない。相当頑丈なようである。

 戦車はガトリングガンは無効と見てか、もう一個の砲門を向けてきた。

 どしゅう! と発射されたのはミサイル。

 ミサイルはプロテクションに接触すると、大爆発を巻き起こした。


「アレクセイっ!」


 セシルの悲痛な声が響く――が、俺は無傷だ。

 ついでに言うとプロテクションにもヒビ一つついてない。

 これは中々便利なスキルだな。両手が空くのもいい。

 歩みを進め、俺は戦車の真ん前に立つ。


「さて、動きを止めさせてもらうぞ」


 ジョブに『戦士』をセットし、ロングソードを抜き放ち、振るう。

 剣スキル、一文字斬を発動させると全身に凄まじい力が漲り、導かれるまま斬撃を繰り出した。

 がぎん! と鈍い音を立て、戦車の砲台を横一文字に切って落とす。

 文字通り一撃に全てを込めるスキルのようだ。

 その代わりにロングソードは、もはや使い物にならぬほどひん曲がってしまった。


「驚いたな。『戦士』のジョブまで持っているとは……ベースジョブを全て持っているじゃないか」

「ベースジョブねぇ。ジョブってのは幾つあるんだ?」

「『戦士』『斥候』『商人』『魔術師』『僧侶』の五つのベースジョブに加え、幾つかエクストラジョブがあるらしい。僕も詳しくは知らないがな」


 ほう、初耳だ。

 ならイザベラの魅了もそのエクストラジョブのスキルかもしれないな。


「ちなみに取得条件とか知ってるか?」

「ベースジョブの取得条件はジョブをセットしてない状態で、対応する魔物を一定数倒す事だ。100だったり1000だったり、それは本人の資質によるらしい。エクストラジョブは血筋だったり、特殊な条件下に置かれたり、特殊な魔物を倒したり様々だとか。まぁ全てミラ嬢の受け売りだ。これ以上詳しい事は僕にもわからない」

「なるほど、勉強になったよ」


 ジョブの取得条件とかそんなものもあるのか。

 ホーミングレーザー《08の武装》でまとめて焼き払ったからな。

 あの時、ジョブをセットしてなかったから全てのベースジョブを得れたのだろう。偶然とはいえ運がよかった。

 エクストラジョブについては、それを持つ本人に聞くのが一番手っ取り早いだろう。

 イザベラを捕らえる理由がまた一つ増えたな。

 さて追跡を再開するとするか。


 その後、通路を進んでいた俺たちは何度か戦車からの襲撃を受けた。

 戦車に小型のゴーレム、銃火器の雨あられを躱し、防ぎ、切り払い、突き進む。


「それにしてもこれだけのゴーレムや施設を有するとは、あの女何者だ? 普通では考えられないぞ」


 セシルの呟きに俺も同意する。

 地下工場はとても広く、設備も古いが整っているように見える。

 土地代は抜きにしてもこれだけの施設、半端な資金では賄えないだろう。

 無許可でやっている事から考えて、国や大貴族か何かがバックにいるとも考えにくい。

 単に金持ちとか、犯罪グループにでも属しているのか……何にせよとっ捕まえて聞いてみればわかるだろう。


 そうこうしているうちに、通路を抜けた。

 周りには暗闇が広がっており、道はそこで途切れている。

 その下は奈落の暗闇、何か奇妙な音のみが聞こえていた。


「くそ! どこだ!? どこに逃げた!?」

「気配は……正面か?」


 100メートルほど先の暗闇に、人の気配が一つある。

 だがこの先は何もない空間に見えるのだが……俺が魔術で灯りをつけようとした、その時である。


「まさかただの冒険者に、ここまで追い詰められるとは思わなかったわぁ」


 イザベラの声が辺りに響いた。

 拡声器か何かで増幅された音だ。

 反響しており、出所はわからない。


「全くぅ、数多の遺跡を発掘し、何十年も準備を整え……ようやく機械の王国が完成しつつあったのに、あなたたちのせいで台無しじゃあない?」

「どこだ! 姿を見せろ!」

「はいはい、すぐに見せてあげるわよぉ」


 イザベラの言葉と共に、風切り音が耳に届いた。

 巨大な何かが迫り来る。

 何かヤバい! 俺は咄嗟にプロテクションを発動させる。

 俺たちの周囲に透明な壁が生まれた、その直後である。


 どおおおおおおおん!

 と、凄まじい衝撃が壁に叩きつけられた。

 目の前には何か、巨大な金属の塊だけが見えている。

 それは更に勢いを増し、プロテクションごと俺たちを押し上げていく。


「きゃあああああっ!?」


 悲鳴をあげ俺にしがみつくセシル。

 俺たちを包んだプロテクションは通路を破壊し、地面を掘り進んでいく。

 そして――地上へと飛び出した俺たちは地面に激突した。

 衝撃でプロテクションは割れ、粉々に砕け散ってしまった。

 戦車の砲弾すらも無傷で防ぐというのに……何という破壊力だ。

 今のは一体……?


「プロテクションね。しかも異常な硬さ……アナタ、かなりの実力者と見たわ。顔は好みじゃないけれど、ふふ。可愛がってあげてもいいわよぉ」


 地の底から声が響く。

 次いで、俺たちの目の前で大地が揺れ、地面が裂けていく。

 二つに割れた地面の底からせり上がってきたのは――巨大な人型兵器だった。


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