軍人、美女魔術師と対峙する
「なるほど、あんたらが俺らを探しに来てくれたんだべか。あんがとう!」
ようやく落ち着いたのか、男は俺に頭を下げる。
さっきまで「殺さんでけれ、殺さんでけれ」と五月蝿かったが、セシルの説得でようやく俺たちの話を聞くようになったのだ。
全く、勘違いも甚だしい。
「オラたちはあのべっぴん魔術師に雇われて働いてただ。だけんども働いてるうちに頭がぼんやりとしてきてよう、いつの間にかずうっとここで過ごしていたんだよ。不思議とここにいなきゃいけねぇ気がして……でもあんたらのおかげで家族の元へ帰れそうだ。本当になんて言ったらいいか……」
「礼は不要です。僕たちはその為に来たのですから」
セシルがキラキラ輝くような微笑を浮かべる。
ええかっこしいめ。そしておっさん、顔を赤らめるんじゃない。
「中には仲間も働いている。助けてやってくんろ!」
「必ず助ける。約束しよう」
「助けるのは俺だけどな。……あんたは外に出てギルドに知らせてくれ。ドンパチやる事になりそうだからよ」
「わ、わかっただ!」
男は何度も頷くと、屋敷の外へ出て行った。
「しかし意外だったぞアレクセイ。君がここまでやる気を出すとはな」
「ふん、人を意のままに操るような外道には仕置をする必要があると思っただけさ」
そう、えっちな仕置きをな。
これだけの人を操って自分の思うように使うような悪人に人権はない。
捕縛の際に激しく抵抗され、やむなくやりすぎてしまっても仕方のない話であろう。
悪事を働いた者は報いを受けねばならない。くくく。
「……何かいかがわしい事を考えていないか?」
「そんなはずがないだろう」
「ならこっち向け。目を逸らすな、破廉恥男」
あーあー聞こえない。
「それより先を急ぐぞ。さっきのおっさんから貰ったカギで中に入れるはずだ」
「おい、無視するなアレクセイ」
俺はセシルに構わず、壁の前に立つ。
壁の隙間によく見ればカギ穴が設置されており、そこにカギを差し込んだ。
ズズン! と地響きを立て扉が開く。
中に入ると目の前に巨大な金属の床が広がっていた。
『近づいてわかりましたがこの金属、電波を弾く素材が組み込まれているようですね。内部をスキャン出来なかったのはそのせいかと思われます』
『そういえば気配察知でも地下の様子は探れないな』
しかし広いな。直径50メートルはあるだろうか、
辺りを見渡していると、セシルが急にしゃがみ込む。
「どうやらここから入れるようだぞ」
「またカギ穴、か」
ここまで来たら行くしかない。
俺はカギを差し込むと、蓋を開けた。
重い扉を開け中に入ると、螺旋階段がはるか下まで続いていた。
俺は警戒しながら、階段を降りていく。
内部は壁も床も金属で出来ており、天井には灯りもある。
進むにつれ鉄と油の混じった臭いが漂い、人の気配も感じ始めた。
『どうやら人がいるようだな』
『えぇ、そして内部の構造も見えてきました。これは……』
『あぁ、まるで整備ドックだ』
地下室は俺の乗っていた宇宙戦艦にあるそれと、かなり似た作りになっている。
『シヴィ、何かわかるか?』
『かなり古いものである、としか。私のデータにもありません』
何にせよ、この世界では今まで見なかったものだ。
何故こんな場所にこんなものがあるのかわからんが、俄然興味が湧いてきたな。
「あれを見ろ、アレクセイ」
セシルの指差す先、階段の下ではノウムの男たちが何やら作業に没頭している。
「何だあれは……ゴーレムを作っている、のか……?」
彼らが作っているのは金属で出来た人形だった。
その形状を見て、俺は息を呑む。
セシルがゴーレムと呼ぶそれは、手足も短く不細工なものだが、ロボットと言っても差し支えないものだった
『おいシヴィ、こいつは一体どういう事だ?』
『解析中……どうやらある程度自立運動する機械のようですね。機械自体は相当古く、彼らはその修理をしているのです。あの機械、我々とは技術系統がやや異なるようで、魔素による回路を多く組み込んでいると思われます』
つまりどこかから手に入れてきたロボットを、ここで修理しているという事だろうか。
「セシル、あれは一体何なんだ?」
「……あれはゴーレムだ。時々地下から発掘され、大きな都市では発掘、修理して使われている。だがゴーレムの所持には領主の許可が必要だ。ギルドに調査の依頼が来るという事は、無許可でやっているのだろう。れっきとした犯罪行為だ」
どうやらこれらのロボットは地下から出土したものらしい。
以前この星で暮らしていた者たちが捨てていったものを、修理して使っているのだろう。
「アレクセイ、一旦戻るぞ。これだけの規模の工場、僕たちだけでは手に余る。ギルドに報告して――」
セシルはそう言いかけて、止まる。
視線の先にいたのは黒衣を纏った黒髪の美女。
着ている服は布面積が小さく、まるで水着のような背中がぱっくり開いている。
その上に張ったマントが、長い黒髪と共に通風孔からの風でなびいた。
女の鋭い視線は俺たちへと向けられている。
「あら、可愛らしいネズミね。どこから迷い込んだのかしら?」
「貴様がこの屋敷の魔術師、イザベラか!」
「その通り……というかあなた方は何者かしら? 人を招いた覚えは全くないのだけれども」
「僕たちはギルドから調査の為に来た冒険者だ! 怪しい事をしていると通報を受けてな! 中を改めてみれば人々を魔術で操った上、違法なゴーレムを多数所持……これだけの悪事、タダでは済まんぞ!」
「ふぅん、そういう事……はぁ、領主が力を失っているし、ここらのノウムたちの信頼も得たし、文句を言ってくる者はいないと思ってたけど……まさかギルドが出張ってくるとは思わなかったわぁ」
バスト90……いや95はあるだろうか、かなりの巨乳だ。
鋭い目つきではあるが、意志の強いその瞳は魅力的に映る。
「すでに貴様が捕らえたノウム族の一人を解放した! 彼にはこの事実を伝え知らせるように言ってある。報告が領主に届けば、貴様はもうおしまいだ!」
赤く引かれた口紅がセクシーだ。
腰つきもエロい。うむ、俺の正面ど真ん中ストライクである。
「あら、いけない子ね。くすくす、でもいいわ。それなら今からあなたたちを殺して追えば、済む話だもの……! ファイアアロー!」
「くっ、炎の魔術か! ……ってアレクセイ!? 何をぼーっとしてるんだ!」
気づけば目の前に、炎が迫っていた。
おおう、攻撃してきたのか。品定めしてて気づかなかったぜ。
俺はジョブに『魔導師』をセットする。
「アイスストライク」
右手から発射された氷の刃が炎に直撃し、消滅させた。
少しだけ溶けた氷がイザベラのすぐ横の壁に突き刺さる。
イザベラの顔から余裕の色が消えた。
「……っ! ファイアアロー!」
更にもう一度、炎の矢を撃ってきたが俺もまたアイスストライクで返す。
イザベラの顔を挟んで反対に、もう一本の氷の刃が突き立った。
「な、何をしているのです! あなたたち、早く奴らを始末しなさい!」
イザベラの命令で、ノウムたちは作業をやめ工具を手に俺たちに襲いかかってきた。
セシルが剣を抜き、対峙する。
「僕が時間を稼ぐ! その間に魔術で彼らを正気に戻してくれ!」
「任せろ」
俺はジョブに『僧侶』をセットして、駆け出す。
攻撃を躱してノウムに触れ、キュア。
キュア、キュア、キュア。
セシルがノウムを惹きつけている間に、俺はノウムたちにキュアを当てていく。
ノウムたちの数は少なく、すぐ全員にかけ終えた。
「あれ、ここは……?」
「オラたちは一体何を……?」
正気になったノウムたちにセシルが現状を説明している。
辺りを見渡すとイザベラの姿はすでにない。
どうやらあの扉の奥へ逃げたようだが、まだそう遠くは行ってないはずである。
くくく、逃がさんぞイザベラちゃん。




