軍人、岩山都市に行く
町から馬車で二時間ほど揺られた先、岩山の連なる荒野にて、俺とセシルは下ろされた。
「おいおい、こんなところに美女がいるのかよ?」
「魔術師だ。言っておくが相手が女だからといって容赦はするなよ」
魔術師絡みだからか、セシルが燃えている。
やる気を出すのはいいが、あまり熱くなりすぎるなよ。
「ここはノウム族が多く住む岩山都市。彼らの協力を得られれば不自由のない生活を送ることが出来る。人間が訪れることも少なく、何かするにはもってこいの場所だ」
ノウム族とは、町にいた小人のように背の低い人種である。
身体能力はやや低めだが、手先が器用で火の扱いが上手いという。
主に鍛冶屋や大工などの高い技術力を売りにしているらしい。
どうやらここはそんな彼らが多く住んでいるようだ。
『スキャンしてみましたが、岩山の中に多数の生命反応がありますね。彼らがそのノウム族とやらでしょう』
『洞窟の中に住んでいるなんて、アリみたいだな』
洞窟の中とか風通しもなくジメジメしてそうだ。
そんなところで暮らす奴の気がしれないな。
「何をしているアレクセイ、まずは聞き込み調査だ。手分けして行うぞ。一時間後にこの場所で落ち合おう」
「はいはい」
俺は生返事をしながら、セシルと別れる。
聞き込み調査ね。それはそれで楽しそうだ。
岩山を見上げれば、その隙間から小人たちがチラチラ見ているのがわかる。
ちびっこくて中々可愛らしいな。
「よっ!」
片手を上げて彼らに挨拶をすると、驚いたのか引っ込んだ。
ありゃ、怖がらせちまったかな。
少し歩いてみたが同様で、ノウムたちは俺たちを警戒している様子だった。
『ったく、これじゃあ聞き込みどころじゃないぜ』
『町ではそう人を恐れている様子はなかったのですがね。彼らが特別で、本来はこのように引っ込み思案なのかもしれません。もしくはアレクセイの顔が怖いのか』
『そんなわけないだろ。こんなイケメン他にいないぞ?』
『そうでしょうか』
シヴィに促されるように向いた先では、セシルがノウムの女性たちと楽しげに話していた。
なん、だと……今まで俺を見て目を逸らしていた者たちが、セシルの前ではあんなに朗らかに笑っているではないか。
俺の視線に気づいたのか、ノウムたちはセシルの後ろに逃げ込んだ。
解せぬ。セシルは俺を見て、くすくす笑っていた。
「ははは、心配しなくていいよ。彼は僕の仲間だからね。おーいアレクセイ、こっち来いよ」
「……ふん」
だがそこで張り合うほどガキでもない。
俺は大人だからな。より効率的に動くだけである。ふん。
「おい、そんな不機嫌そうな顔をするな。彼女たちが怖がってるだろう」
「元々こんな顔だ」
俺が近づくとノウムたちはびくっと震えた。
あまり近づくと怖がらせてしまうな。そう思った俺は少し離れて話を聞くことにする。
セシルはしゃがみ込み彼女らに目線を合わせ、優しく語りかけるように尋ねる。
「すまないね。話の腰を折ってしまって……それでその魔術師の事だけれど」
「は、はい。三年前にこの岩山都市に移り住んできたところまで話しましたよね」
セシルが頷くと、女は頬を赤く染めながら語り始める。
チートだ、チートがいるぞ。
「町外れに住み着いた女魔術師、イザベラは以前はよくここへ来ていました。彼女は女の私から見てもすごい美人で、男たちは皆、鼻を伸ばしていましたよ。ただ大きな屋敷に籠ったきりで特に害をなすわけでもなく、時々酒場に来てお酒なんかを飲んでいたようですね。色々な人に話しかけていたように思えました」
ふむ、どうやら名前はイザベラ、そして美女というのは本当らしい。
女の可愛いは信憑性低めだからな。
裏が取れたのは大きいぞ。
「ですが最近、町でも特に高い技術を持つ男たちに声をかけて雇い始めたのです。それだけならありがたい話なのですが、雇われた者たちはイザベラの屋敷に行ったきり帰ってこなくなってしまいました。勿論私たちも集まって屋敷に連れ戻しに行きましたが、皆、頑として帰ろうとはせず……夫も私の呼びかけに答えてくれませんでした。……騎士様! どうか私たちを助けていただけませんでしょうか!」
訴えかける女に、セシルは優しく微笑んだ。
「……そう、大変でしたね。ですかどうかご安心ください。ご主人たちは必ずや、僕たちが連れ戻してみせます!」
そして女の手を取り、まっすぐ見つめる。
女はまるで茹でダコのように顔を真っ赤に上気させ、ウンウンと頷いた。
おい、旦那はいいのか旦那は。
■■■
「さて、大体の事情は見えたな」
「うむ、イザベラはちゃんと美女のようだな」
セシルに冷たい目で睨まれてしまった。
これ、どう考えても重大事項だろ。
「恐らくイザベラはノウムの技術者を捕らえ、怪しんだ通り何かの実験をしているのだ! ノウムたちが自分で家に帰らないのは魔術で洗脳されているに違いない!」
「魔術師のジョブにはそんなスキルはなかったがなぁ」
攻撃スキルばかりだし、洗脳のようなスキルなんて見当たらなかった。
クラスを上げれば覚えるのかも知れないが『魔導師』になった時の変化から見ても、そうは思えなかったしな。
わざわざ魔術に頼らなくても、人を洗脳する手段などいくらでもあるし、他のジョブのスキルという線も否定できない。
「意外と居心地がいいのかもしれないぜ? ほら、美女らしいし」
「君、本気で言ってるのか?」
冷たい視線を送ってくるセシル。冗談が通じない奴である。
「依頼はただの調査だが、これだけでは何もわかってないに等しい。何か決定的な証拠を得る必要があるだろう。とにかく屋敷に行くしかあるまい」
「異議なし」
意見が一致した俺とセシルは、イザベラの屋敷へと向かうのだった。




