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軍人、美女に釣られる

「くあーーー、よく寝たぁ」


 身体をボキボキ鳴らしながら、起き上がる。

 うん、快調快調。やはり寝るのはベッドの上に限るな。

 美女と一緒ならなお良しなんだが……この町には風俗とかあるんだろうか。あとで探してみよう。


『そういやシヴィ、昨日風呂入ってる時、セシルがどうとか言ってなかったか?』

『はて、何も言っておりませんよ。ニヤニヤ』

『む、気持ち悪いな……言えよ』

『聞かぬが花かと思いまして』


 なんだかわからんが教えてくれないようだ。

 わざわざ聞くのも癪だし、どうせ大したことではないだろう。


「まぁいいや。とりあえず飯だ飯」


 俺は部屋を出て食堂へ向かう。

 食堂では何人かの冒険者が食事をしており、俺もおばちゃんに金を渡し、食事を貰う。

 パンとシチューという簡素なものだが、パンはふわふわでシチューは具沢山。

 新鮮なオレンジジュースが嬉しい。


「いただきまーす」


 手を合わせるとすぐに食べ始める。

 うん、美味い。携帯食にはこういう食べてる感ってのがないんだよなぁ。

 幸せを噛み締めていると、セシルも食堂に入ってきた。


「おう、おはようセシル」

「っ……あ、アレクセイ……!」


 呼び止めるとセシルはあからさまに動揺した。


「お前もメシか? 一緒に食おうぜ」

「あ、あぁ……」


 どこか遠慮がちに、俺の正面に座る。

 食事中、セシルは何故かずっと顔を赤らめ無言だった。

 シヴィも含めてどうも昨日から様子がおかしい気がするな。

 まぁどうでもいいか。


「おほん、ところでアレクセイ。今日はどうするつもりだ?」

「ゴロゴロと寝て過ごすつもりだが」

「君……仮にも冒険者がそんな事でいいと思っているのか?」


 俺の休暇宣言に、セシルは眉を吊り上げる。

 なんだよ。身体を休めるのは重要なんだぞ。


「うーん、じゃあナンパでもするか? お前と一緒なら女の子も付いてきそうだし」

「断じて断るっ!」


 いきなりキレられてしまった。

 そんなに怒らんでも。


「はぁ……じゃあどうすればいいんだよ」

「ギルドへ行って仕事を探しに行こう。折角Eランクに上がったのだ。もっとやり甲斐のある依頼があるに違いない!」


 キラキラと目を輝かせるセシル。

 やる気あるなコイツ。

 戦場では真っ先に死ぬタイプとみた。

 それはともかく、ギルドに行くのはいいかもしれない。

 ランクアップしたし、ミラをデートに誘えるかもしれないし。

 いや、誘ってみせる。


「ま、ついていくだけついてってやるよ。へへ」

「……何故そんなだらしないニヤケ顔をしているんだ」


 セシルにジト目を向けられながら、俺はギルドへ向かうのだった。


「ミラちゃーん! あなたのアレクセイが来ましたよー!」


 ギルドに入って開口一番、俺はミラの元へと飛んでいく。

 だが何かにつまずいて転んでしまった。

 起き上がってみるとセシルが俺に足を引っ掛けていた。


「何すんだてめぇ!」

「ふん、君がミラ嬢にしつこく迫るのが悪いんだ。少しは自重するんだな」

「んだとぉ!? ミラちゃんは嫌がってないだろが! なぁミラちゃんっ!?」

「正直少し迷惑でした。ありがとうございます。セシルさん」


 にっこり笑ってセシルに礼を言うミラ。

 くっ、俺の味方はいないのか。


「おうおう、頑張れよーアレクセイ」


 見覚えのないおっさんが声をかけてくる。

 なんで俺の名前を呼んでるんだ?

 つーかお前誰だっけ。


『ドランさんですよ。忘れたのですかアレクセイ』

『憶えてないな』


 男に割く記憶容量はミリもない。


「ところでミラ嬢、依頼を探しに来たのですが」

「そうですね。お二人ともクラスアップしましたし、幾つかオススメの依頼もありますよ。これなんてどうです?」

「ふむふむ、いいかもしれないな」


 ミラとセシルは、二人仲良く話していた。

 とても楽しそうだ。

 くそう、羨ましい。イケメン死すべし。慈悲はない。


「アレクセイ、ちょっと来い」


 セシルが手招きをしている。

 俺が行くと、一枚の書類を見せてきた。


「なになに?『荒野に住む魔術師の屋敷を調査せよ。昨今、この魔術師は怪しい動きを見せている。その詳細を調査、報告して欲しい。危険を感じた場合、臨機応変に対応すべし。討伐報酬金は銀貨100枚』……ふーん、要は悪い事を考えているかもしれないから調査して、反撃してきたら懲らしめても良いって感じか。セシルお前、この依頼を受けるのか?」

「あぁ、君と共にな」

「は?」


 呆けた返事を返す俺に、セシルが続ける。


「構わないだろう? どうせやる事なくて暇をしていたじゃあないか。僕としても『斥候』と『魔術師』持ちの君にきて貰えれば心強いしな」

「嫌だね。なんで俺がそんな事を……」

「ちなみに調査対象の魔術師は美しい女性らしいぞ」


 その言葉に俺の耳がぴくんと跳ねる。

 ……馬鹿馬鹿しい。美女の屋敷を合法的に調査出来るだと? しかもあわよくばお仕置まで? そんな美味しい話があるわけないじゃないか。

 ちら、とミラの方を見ると、にっこりと笑いながら頷いた。


「アレクセイさんの好きそうな依頼かと思いまして、確保しておいたのですよ」


 ミラが俺の事をそんな風に思っていたなんて……ショックである。

 人をなんだと思っているんだよ。


『性獣?』

『んなわけないだろ』


 更にシヴィが脳内ツッコミを入れてくる。

 どいつもこいつも失礼な連中である。

 ここはガツンと言ってやらねばならんな。

 俺はセシルを正面から見据え、言い放つ。


「その依頼、受けよう」


 途端、周囲の白い目が俺に突き刺さった。

 解せぬ。

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