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軍人、祭りを楽しむ……?

「おっちゃん、牛串三本!」

「あいよ!」

「おばちゃん、ビール二つ!」

「はいはい」

「あんちゃん、焼きソバ二つ!」

「まいどっす」


 大量に買い込んだジャンクフードを食べながら、俺は人通りの中を歩く。

 今日は七日に一度の祭日らしく、色々な出店が大通りの両脇にずらっと並んでいた。


『幾ら何でも食べ過ぎでは? アレクセイ』

『折角金が入ったんだし、今のうちに食っとかないとな』


 スフィーブルム家からの礼金はたんまりと貰っている。

 無論、宿は確保済み。大浴場付きの大衆宿で、値段の割には飯も美味い。

 シヴィに町の宿を総当たりで調べさせ、一番コスパのよい宿を選んである。

 それでもかなり金は余ったし、しばらくは生活には困らない。


『かといってヤケ食いヤケ酒は感心しませんね』

『ぐ……うるせぇな』


 シヴィのツッコミに舌打ちをしながら、牛串を食べ終え、焼きソバを平らげ、ビールも飲み干した。

 カーシャに婚約者がいたのは確かにショックだったけれども!

 今日の祭りにミラを誘ったが無視されたのは確かにショックだったけれども!!


『言っておくがなシヴィ、俺はただ飲み食いする為だけにこの祭りに来たわけじゃないぞ』

『ほほう、では一体何の為にですか?』

『くくく、まぁ見ていろよ』


 俺は人混みをぐるりと見渡し、獲物を探す。

 そして……見つけた。

 真っ直ぐに歩き出し、一人の女性の前に立つ。


「お姉さん一人? 暇? 俺と飲まない?」


 一瞬、目を丸くした女性だったが、冷たい目で俺を一瞥すると足早に去っていった。

 明日には加工されてしまう豚でも見るかのような冷たい目だった。

 くっ……失敗か。


『呆れました。まさかナンパとは……』

『……いいだろ別に。無理やり誘うわけじゃあるまいし。それに意外とついてくる子もいるかもしれんぜ』

『はぁ……本当に女性に飢えているのですね……』


 シヴィからも憐れむような声を向けられる。

 別にいいだろ。祭りはやはり女と一緒の方が断然盛り上がる。

 俺は気を落とすことなく、新たな女性に声をかける。


「おーい、そこの彼女ー!」


 だが俺の努力は実る事はなく。

 一人、二人、十人、二十人……無視され、あしらわれ、断られ、それでも俺はナンパを続けていた。


『凄まじい執念、感嘆に致します。その努力を仕事に使えばもっと出世できたものを……』

『アホ、遊びだからこそ一生懸命やるんだろうが。仕事こそテキトーでいいんだよ……お、あの子もカワイイぞ』


 長く伸ばした黒髪の女性に駆け寄り、声をかける。


「へい彼女、一緒に焼き鳥でも食べない?」

「い、いえその、私は……」


 振り向いた女性はそばかすが魅力的な可愛らしい女性だ。

 大人しそうに見えるが、胸は大人しくない。

 そしてなにより、一見困っている風だがそこまで嫌がっているようには見えない。

 押せば行けそうな気がする。よし、ようやくチャンスが巡ってきたかもしれない。

 ここはちょっと強めに押してみるか。


「ね、奢るからさ」

「えっとその……」


 よし、あと一歩だ。

 そろりと近づくが、あからさまに逃げようとはしない。いける。

 俺が彼女の肩に手を載せようとした、その時である。


「やめろ!」


 人凛とした声が喧騒を貫いて響く。

 人混みの中からでてきたのは、軽鎧を着た男。

 金髪で髪はやや長め、顎は細く目はパッチリと二重、キリッとした眉で整った顔立ちの若い男だった。

 俺ほどじゃないが、かなりのイケメンである。


「何だお前は?」

「そこの女性が困っているだろう! 手を離せ!」

「まだ触れてねーよ」

「触れようとしていただろう! とにかく離れろ!」


 離れるもクソもない。女性は人込みの中に駆けていった。

 こいつが騒ぎ立てるので驚いてしまったのだろう。

 くそ、行けたかもしれんのに。

 ていうかこいつ、まだ声変わりもしてないガキじゃないか。正義感に燃えているとでもいうのだろうか。気に入らないぜ。

 俺が憎々しげに睨みつけると、男は見せつけるように前髪を払う。


「僕の名はセシル=ラングリッド。誇りあるラングリッド家の血を継ぐ者だ!」


 セシルと名乗った男を見て、俺は苦い顔をする。

 はいはい、ナントカ家の坊ちゃんね。

 格好からして貴族か騎士か何かだろう。

 この手の輩は軍にもいたが、嫌な記憶しかない。

 弱い相手には正義感ぶるくせに、強い者には尻尾を振ってついていく犬みたいな連中だ。

 そういや俺の殴った上官もどこかの大貴族の跡取り、とかだったかな。


「セシルぅ? 何だそりゃ、女みてぇな名前だな」

「何ぃ!? 貴様っ!」


 俺の言葉にセリスはカッとなったのか、顔を真っ赤にして食ってかかってきた。


「訂正しろ!」

「嫌だね、先に因縁をつけてきたのはお前だろう?」

「それは貴様が女性を困らせていたからだろう!」

「そんなに嫌がってたようには見えなかったがなぁ?」


 気づけば言い争う俺たちの周りに、ギャラリーが出来ていた。

 その中の一人が声を上げる。


「この男は他の女にも声かけているのを見たぞ」

「一人だけじゃない、手当たり次第だ。困ってる子もいたぞ!」


 続けて野次が飛び始める。

 む、なんか風向きが悪いかもしれない……俺が戸惑っていると、一人の女性が前に出た。

 顔がイマイチだったので声をかけずスルーした女性である。


「私そのブサイクな男に声かけられたわよ! 嫌だっていったのにしつこかったわ!」

「な……まてブス! お前に声はかけてねぇぞ!」

「きゃあ! ブスって言ったわ! 女性蔑視よ!」

「てめぇは俺の事をブサイクって言っただろうが!」


 鹿も俺の顔、どう見てもイケメンだろ。失礼すぎる。

 だが今の俺の反論が決定的だったのか、他の無関係な女性たちまで俺を叩く輪に加わってきた。


「ブスなんて酷すぎるわ!」

「そうよ、自分だって大したことないくせに!」


 先刻の10倍増しとなって、飛んでくる俺への罵倒の数々。


「その点こっちの騎士様は素敵だわぁ……!」

「ち、ちょっと君たち……」


 逆に女性陣はセシルに熱い視線を向けていた。

 くっ、どうやら旗色が悪そうだ。

 ここは逃げた方が良さそうである。


「くそっ、覚えてやがれ!」

「あ、待て!」


 俺はそう捨て台詞を残し、人混みの中へと逃げ込むのだった。

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