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軍人、追っ手を倒す

少し試してみたが、アイテムボックスは『商人』のジョブを外しても効果が持続するらしい。

取り出す際はまた商人にしなければならないが、そのくらいの手間なら問題なし。

俺は改めて『斥候』のジョブをセットする。


「さぁ、早く帰りましょう!」


急かすリルムだが、俺はふと立ち止まる。


「どうしたんですか? アレクセイさん」

「……何者かが近づいてくる」


気配察知スキルによれば、俺たちを取り囲むように動く気配を感じる。


『シヴィ、暗視カメラで見えるか?』

『確認しました。黒ずくめの男たちが十人、近づいて来ます』


どうやら後をつけられていたか。

向こうも気配察知スキルが使えるなら、俺のスキル範囲外から察知する事は可能である。

俺は大木を背にし、その後ろにリルムを隠した。


「リルム、俺の後ろにいろ」

「え……? は、はい」


しばらくそのまま待っていると、暗闇の中から人影が姿を現す。

忍びのような黒ずくめ姿で、顔は分からぬよう頭巾を巻いている。

その隙間から鋭い眼光を覗かせていた。


「何者だ?」


俺の質問に黒ずくめの男は立ち止まる。


「貴様は冒険者か。知らない顔という事は、成り立てだな?」

「質問に質問を返すな。テメェは何者かと聞いている」


再度問うが、黒ずくめの男はくっくっと笑うのみだ。


「ならば手を引くのが良かろう。その娘はまだ子供故見逃していたが、冒険者を探し出しここまで来るほどの行動力を見せるとは思わなかった。もはや姉共々、死んでもらうしかあるまいよ」

「話が通じない奴だな。まぁ大体素性はわかってたがな。美人に手を出すとは許せん。てめぇら全員、ぶっ潰す」


そう言って俺は、男に向かって駆けだした。

その速さに面食らったのか、男は咄嗟に後ろに跳んだ。

だが逃さない、さらに速度を上げて追いかける。


「ちぃ!」


逃げ切れないと悟った男は短剣を引き抜いて切りかかってくる。

それをダッキングで躱し、顎にアッパーを喰らわせた。

拳は顎に軽く触れただけだが、それで十分。

脳震盪を引き起こした男はそのまま膝を折った。


殺すつもりはない。

こいつはどうせ末端だ。

それに子供リルムの目の前で殺すってのもな。

トラウマを植え付けたくはない。


とはいえ目を覚まされると面倒だ。念の為もう一回当てておこう。

くずれおちる男にフックを一発、横から当てると、完全に白目を剥いて口から泡を吹き出した。

よし、これで暫くは起きないだろう。


「ひっ……!」


短い悲鳴が聞こえ、周囲の気配が離れていく。

先刻まで俺たちを包囲していた連中が逃げていくが、そうはさせない。


「ハッ、一人も逃さねーよ」

『まるで悪役のようですね。アレクセイ』


俺の呟きにシヴィからツッコミが入った。

いらんお世話である。

俺は言葉通り、包囲していた連中を一人ずつ殴って気絶させ、捕獲していった。


「う……こ、こは……?」


そして待つ事しばし、黒ずくめの男がようやく目を覚ました。


「やっと目を覚ましたか?」

「き、きさま……!」


動こうとして、男は動かない事に気づく。

近くにあったナワヅルという蔓で両手を括ったのだ。

鑑定によればこの植物は非常に丈夫で、人力で引っ張った程度では切れないとテキストに書いてあった。

男は力を込め、何度も縄を千切ろうとするが敵わない。


「ぐ……何故だ。その娘に味方しても未来はないぞ……!」

「あるさ、お姉さんとの素敵な未来がな」

「ふっ、ははは! あの娘に惚れたか? 確かに美しいものなぁ! だがそれこそ貴様に未来はな――」


言いかけた男の顎を掴み、力を込めた。

睨みつけると男は言葉を失う。


「それはお前が決める事じゃねぇんだよ。……まぁいい、お前らには商会? とやらの連中の企みを洗いざらい吐いてもらわないとな。そのために生かしておいたんだし」

「ば、馬鹿め! そう易々と話すと思うか!?」

「そうか? それならそれで別に俺は構わんがな……行こうぜリルム」


俺はにやりと笑うと立ち上がり、リルムを連れて歩き始める。


「い、いいんですか……?」

「あぁ構わない。この森には魔物が出るんだ。そうなったらお前ら、両腕を括られた状態でどう対処するのかねぇ」


その言葉を聞いた男の顔が青くなる。


「ま、待て! そんな外道な事を本気でやるわけがないよな!?」

「むしろ魔物に喰われるからまだマシな方かもな。虫や小動物に身体を少しずつ少しずつ齧られ、ゆっくり死んでいく事を思えばなぁ……? くっくっく。はーっはっはっは!」

『やはり悪役ですね……』


シヴィのツッコミを聞き流しながら、俺は立ち止まり振り返る。


「さて、どうする?」

「ぐ、ぐぐぐぐぐ……!」


男はしばらく歯嚙みをし……こくりと頷いた。


■■■


「……ま、概ね聞いた通りだったな」


男曰く、勢力を拡大した商会上層部は町を取りまとめるスフィーブルム家が邪魔になった。

圧力をかけて乗っ取ろうとしたが当主は頑なに拒み続け、商会は暗殺者であるこの男を雇いその娘に毒を飲ませたのだとか。

そして解毒薬が欲しければ言う事を聞け、と脅したのだ。

すでに圧力をかけられていた町の人間はスフィーブルム家に協力する事は出来ず、当主は頷くしかなかった。

そんな中、リルムが薬草を探しに森へ出かけたが、すぐに配下の者を手配し置き去りにした。

事故を装い殺害する予定だったが、そこへ俺が現れ計画は頓挫した。

リルムは再度、俺を頼って町を抜け出し、慌ててそれを追った……というわけである。

全てを話した男はがっくりと項垂れていた。


「……これ以上話す事は、ない」

「ふん、まぁ目新しくもなかったな。じゃあ町へ戻ってその上層部の連中を告発するか。大勢の前で、また証言してくれよ」

「ま、待ってくれ! そんな事をしたら今度こそ殺されちまう!」

「大丈夫だ。そこまで公になったら商会の連中もデカい顔は出来ねぇよ」


政府の高官だろうが都市の実力者だろうが、民衆にそっぽを向かれたらその座を維持する事は出来ない。

この男が洗いざらい話せば、上層部の連中も失墜するだろう。


「し、しかし……」

「ま、嫌ならいいさ。このまま置いていくからよ。行くぞリルム」

「待ってくれ! 言う! 言うから!」

『悪役……』


シヴィが突っ込むが失礼な話である。

どこからどう見ても正義の味方ではないか。


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