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軍人、薬草採取する

「ここから町の外へ出ることが出来ます」


 鞄から出したカギを外壁に取り付けられた鍵穴に差し込むと、扉が開いた。


「隠し扉か」

「何かあった時はこれを使えと……本当はあまりよくないのですが、事情が事情ですので」


 しー、と人差し指を唇に当てるリルム。

 俺たちは暗闇の中、町の外へ出た。

 荒野を進む際、リルムは何度も振り返りながら進んでいた。


「大丈夫だ。追っ手は今のところ来ていないぞ」


 ジョブは『斥候』にしてある。

 近づく者があれば俺には察知可能だ。


「森はどっちだ?」

「あちらです。少し遠いですが……」


 リルムの指差した先は、08が墜落した付近である。

 という事は60キロくらいだったか。リルムの歩調に合わせたら数日かかるな。


「リルム、乗れ」


 俺はリルムを抱えあげると、背中におぶった。


「少し飛ばすぞ。しっかり掴まっていろ」

「え? あ……ひゃ――」


 そのまま走り出すと、ぐんぐんと景色は流れていく。

 リルムを背負っているのでやや抑え気味ではあるが、それでも時速30キロは軽く出ている。


「は、速いです!」

「お姉さんが待っているんだろう?リルムも頑張れ」

「そ……そうですね。はい!」


 そう言うと、リルムは俺に掴まる腕に力を込めるのだった。


「でも、アレクセイさんに会えてよかったです」


 しばらく走っていると、リルムにも余裕が出てきたのか声をかけてきた。


「屋敷の者やギルドにもお願いしたのですが、商会に先回りされて圧力をかけられ、力になって貰えませんでした。あそこでアレクセイさんに会えなかったらどうなってた事か……。それだけじゃなく、今もこうして私の力になってくれている……何度礼を言っても足りません」

「リルムの為じゃないさ」


 美人のお姉さんの為である。

 しかしそんな美人に毒を盛るとは許せない連中だ。


「でも荒野で出会った時は私しかいませんでした。私がアレクセイさんに頼っているのは知られていない。今回は邪魔は入らないはずです!」

「だといいけどな」


 今のところ周囲に近づいてくる気配はない。

 だがリルムの行動がチェックされてるなら、俺と会って町を出ているのは知られているかもしれない。

 一応気にしておくべきだろうな。


「あ、多分この辺りです!」


 そんな話をしていると、森が見えてきた。

 俺は速度を落とし、立ち止まる。


「この森にビビラ草というのが生えており、医者の話ではそれが姉の毒への特効薬になるとか」

「ビビラ草、ねぇ。どんな草だ?」

「えぇと……こんな感じです」


 リルムはごそごそと取り出すと、アサガオのような植物が書かれた紙を取り出した。


「この花のつぼみを毎日与えれば治るそうです。集めてきます!」

「といってもなぁ……」


 捜索範囲はあまりに広大である。

 普通に考えて探せるとは思えないな。

 リルムは草むらに飛び込んで一枚ずつ草を見ているが、何日かけても終わる気がしない。

 あ、そうだ。あれを使えば……ふと思いついた俺は、『魔術師』のジョブをセットする。

 ジョブスキルである鑑定は手に取ったアイテムの情報を表示するというものだ。

 これを使えばなんとかなるかもしれない。そう思って俺は近くの草を触ってみる。


 カマロ草、どこにでも生えているごく普通の草。

 葉の蜜を食べる事が可能。


 予想通りだ。

 更に右腕に意識を集中し、草むらの中に突っ込む。


 ハナススキ、群生しいくらでも増える。背が高く獣が身を隠している。

 ミナズキソウ、水場に生えるが陸地でもよく増える。

 ゴボウギ草、苦味があるが擦り傷に効く薬草となる。


 一気に情報が流れてくる。

 ああ、目の前がチカチカする。

 俺には理解するのは無理だが……


『シヴィ』

『なるほど、そういう事ですか』


 シヴィは俺のやりたい事を理解したようである。


「リルム、少しそこで待っていろ」

「え……?」


 呆け顔のリルムを置いて、俺は草むらの中に飛び込んだ。

 全身に意識を集中させながら、走る。


 ミミズ花、ウネウネと動く花で、昆虫を捕らえ養分とする。

 ハナススキ、群生しいくらでも増える。背が高く獣が身を隠している。

 ギシミシラの木、ごく普通の木。樹液が美味く幹には昆虫が集まる。

 モリオケラ、水の中を泳いだり、空を飛んだりと行動範囲の広い昆虫。

 ミナズキソウ、水場に生えるが陸地でもよく増える。

 ゴボウギ草、苦味があるが擦り傷に効く薬草となる。


 凄まじい速度でメッセージが流れていく。

 走るのに集中している俺には、それを理解するのは不可能だ。

 だが高性能コンピュータを積んであるシヴィは別である。

 全ての情報を精査し、記録しているのだ。


『ありました。先ほど右足が触れたのがビビラ草です』

『わかった』


 俺は立ち止まり少し戻ると、右足の足跡を探す。

 すると……あった。

 紙に書いてある通りである。手にとってまじまじと見る。


 ビビラ草、あらゆる毒に効果がある薬草。群生しておらず、希少である。


 鑑定の結果、リルムの言う通り薬草としても効果があるらしい。

 万能薬としても使えそうだな。

 自分用に多めに採っておいてもいいかもしれない。

 俺はビビラ草を引き抜くと、また森の中を走り出すのだった。


「こ、こんなに見つけて下さったのですか!?」


 両手一杯に抱えたビビラ草を見て、リルムは目を丸くしていた。


「ありがとうございます。無理かと思っていたのですが……」


 よほど嬉しいのか、リルムは涙ぐんでいた。


「だがちょっと採りすぎたかもしれないな。待ちきれない」

「あはは、『商人』のジョブがあればアイテムボックスが使えたのですけれど……それでもポケットに入るだけで姉の病は十分に治せますので」

「『商人』か……」


 俺はジョブを『商人』にセットする。


 アレクセイ=ガーランド

 レベル86

 ジョブ 商人

 力A

 防御B

 体力SS

 素早さB

 知力SSS

 精神S

 パッシヴスキル

 売買上手C アイテムボックスC


 するといきなり、メッセージが頭の中を流れた。

 所持量限界です。ビビラ草をアイテムボックスに入れますか?


 俺がはいを選択すると、手にしていたビビラ草が一瞬にして消滅した。

 それを見て慌てるリルム。


「え!?な、何が……?」

「これがアイテムボックスか」


 ステータス画面にアイテム所持欄が表示され、そこにはビビラ草×165と書かれていた。


『次元領域を操作しているのでしょうか?かなりの技術が使われていますね』

『ゲーム的には普通だけど、結構高度な技術だよな』


 次元領域への干渉は一般には行き届いてない高度な技術である。

 どうやらこの星を作った連中、かなりの技術者のようだな。

 ともあれ任務達成である。待ってろよ美人のお姉さん。

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