8 御対面
レイと初遭遇した日の翌日、エコーは約束通りクロスファイアへログインしていた。トーゴーも引き連れて――。
「エコーが俺意外とバディを組むなんて珍しいな。で、そいつはどんな相手だったんだ?」
「ただの気分転換だ。それに相手はまだまだ駆け出しの初心者って感じだった。だがそれでも光るものが有ったな」
「へぇ、エコーがそう評価するとは将来有望そうだな。で、その相手はまだ来ないのか?」
「さっきメッセージを送った。もうそろそろ来ると思うぞ?」
エコーとトーゴーがシティの入り口近くで談笑しているとそこに向かって近づいてくる小さな人影があった。
「お待たせしました~!」
そう、近づいてきていたのは昨日知り合ったばかりの相手、レイである。
「大して待ってない。こっちが予定よりも早めに入っていただけだからな」
現在時刻は合流予定していた時間ピッタリ、エコー達はそれよりもやや早めに到着していただけだ。
「そうだったんですね。それで……そちらの方は……?」
レイはエコーの隣に立っていたやや強面の黒髪の男性キャラの方へと視線を向けた。
「ん? あぁ、、こっちは俺の相棒の――」
「トーゴーだ。メインポジションはマークスマン。射程内だったら確実にハートブレイクショットをお見舞いしてやる。それにしても話には聞いていたが本当に小さいな。バレットの方が大きいんじゃないのか?」
茶化すようにトーゴーは言うが、その辺についてはレイはあまり気にしていない。そんなトーゴーに返答するかのようにレイも彼に自己紹介を始めた。
「初めまして。私はレイです。昨日縁あってそちらのエコーさんと仲良くさせてもらってます。よろしくお願いします」
そう言ってレイはペコリと一礼をする。
「あぁよろしく。それで、そのローブは取れないのか?」
現在レイはエコーと初めて会った時と同様ローブで姿を隠している。フードで顔も隠れていることから顔も窺う事が出来ない。下から覗き込めば見えなくもないが、それをやってしまえば周囲からは変な人がいるぞみたいに見られてしまうことは必至だ。
「ま、そんなことはどうでもいいか。その辺の事情も事前にエコーから聞いているからな。エコーのついでと言っては何だが、俺ともフレンド登録しないか?」
「はい! こちらこそ喜んで!」
「じゃあ今日から俺たちの仲間だな!」
「はい! よろしくお願いします!」
こうしてエコーとトーゴーのコンビの元へ新たなニューフェイスとしてレイが正式に加わることとなった。
「さてと、顔合わせも済んだことだし、今日はどうする? クエストでもこなして資金と経験値でも稼ぎに行くか?」
「いや、それもいいが今日は新しい仲間の腕前を拝見したいところだな。というわけでレイ、今日は君の実力を見せてくれるか?」
エコーの提案よりもいいがそれよりもトーゴーはレイがどれほどの実力を持っているのかが気になった。それはクエストを行いながらでも見ることは出来るだろうが、トーゴーはそれ以外の場所で確認したいようだ。
「え? えぇ、いいですけど……。どこでやるんですか?」
「それじゃあ演習場へ行こう。そこなら弾代もかからないしな」
そんなわけで一行は演習場へと向かった。
演習場、そこはシティから飛ぶことが出来るフィールドエリアとは別のもう一つの場所である。ここでは新たに購入した武器の性能の確認をしたり、仲間内での技術の教導など使い方は千差万別、プレイヤーの数だけ使い方が有る。そして演習場を利用しているプレイヤーの数だけ演習場は無限に拡大していく。
エコー達が今いる演習場にはシューティングレンジに徒手格闘、ナイフ格闘用に使うマネキン。さらにCQB用の迷路のようなコースまである。
だいたいの戦闘方法の確認であればここで出来るだろう。
「さて、演習場へと来たわけだが、ここでレイの実力を見せてもらおうか? まずは君の武器を見せてくれるか?」
「はい、今用意します」
そういうとレイはコンソールを弄って自分の武器を取り出した。
「これが私の武器です」
「ほほぅ……これがか……」
武装を展開した例に対しトーゴーは観察するかのように眺めている。それとは別にエコーは別の反応を示していた。
「レイ、それは一体どうしたんだ? 昨日まで使ってたスコーピオンはどうした?」
つい昨日まではレイはチェコ製のサブマシンガン、Vz61スコーピオンを使っていたが、それは今の彼女の装備には見当たらない。その代わりに現在、別の銃が握られていた。
「この前までのはこれを買うための資金の足しにしちゃいました。今度からはこれが私のメイン武器です!」
そう彼女はドヤ顔で新しい銃を見せびらかしてきた。
「ショットガンとはまた中々物騒な武器を使うなぁ……」
「昨日エコーさんと会った時に色々とアドバイスを貰って、それを元にこの銃を買ったんです」
その後に「ま、そのアドバイスも結構辛口だったんですけどね……」と小言でレイは言っていた。それを言っている時の彼女の顔はとても哀愁が漂う顔をしていた。それはまるでもうあの時のことは思い出したくないとでも言いたげな表情だった。
「レミントンM870か。動作の信頼性もしっかりしてる、いい銃を選んだな。だが何でポンプアクション式なんだ? セミオートマチック式のだって有っただろ?」
エコーは何故わざわざ装填するのにいちいち手動で行わなければならないこの銃を選んだのか聞いた。
「何故かって? 私は単純にショットガンのこの動作が――」
そしてレイはM870のポンプを手動でガチャンと動かす。
「この動作にロマンを感じたからです」
そう真顔で彼女はエコーに答えた。
「ロマンか……。それならば仕方ないな。大切に使ってやれ」
ロマンで銃を選んだのならばそれ以上言う事は無い。各々好きな銃を使うことが一番だからだ。現にM870を握っているレイは先ほどからずっとニコニコ笑顔をしている。
因みにエコーとトーゴーが銃を選ぶ際の基準は戦場で戦術的優位性が取れる銃かどうかで選んでいる。
「はい!」
そして彼女は元気よく返事を返した。
「よし、じゃあレイ。俺は今日君の実力を見たいといった。これから始めてもいいか?」
「いつでも始めて大丈夫です! 私とこの子がいれば百人力です!」
トーゴーがそろそろレイの実力を見るための演習を始めてもいいかと声をかける。それに対してレイはとても自信ありげに答えた。
これからとてもハードな演習が始まるとも知らずに――。
「エコー、しばらく彼女を借りるぞ?」
「演習内容については全て任せる。トーゴー、しっかりと面倒を見てやってくれ」
「あぁ任せろ」
そしてこれから始まる演習という名の実力試験が始まる号令が演習場に響いた。
「ではこれより演習を開始する!」