13 クロスファイア
UBR開催当日――
この日もエコー達はそろってゲームにログインしていた。UBRという大規模なイベントに参加表明を出していざその当日、遅刻して参加資格が喪失してしまっては目も当てられない。彼等はイベントが始まる数時間前から既にログインしていた。
「エコーさんボチボチ会場に向かった方がいいんじゃないですか?」
「ん? あぁもうこんな時間か……。そうだな、そろそろ行くか」
エコーとレイの両名はUBRが始まるまでフィールドに出かけて準備運動がてら肩慣らしにクエストをこなしに出かけていた。
「トーゴーの方も仕事を片付けて、もうそろそろログインしてくるだろうからさっさとこのクエストを終わらせて先に会場に行って待ってるか」
「はーい」
二人は今こなししていたクエストをさくっと終わらせるとそそくさとフィールドを後にしUBRの参加者が集まっているシティエリア内にある特設会場へと向かっていった。
ここはUBRの参加者が集まる特設会場を兼任しているシティエリアで1、2を争う大きさを誇る酒場である。ここには現在UBRの参加者とこの大会の行く末を最後まで観戦する観戦者たちが集まっている。UBRの参加者たちはこの酒場に既定の時間までに入店することで最終エントリーが完了する。勿論エコー達SilentKnightも全員会場内に集まっていた。
「さあ! ついに開催される第1回ユニットバトルロイヤル、略してUBR! 記念すべき第1回目優勝の栄光を手に入れるのはどこのクランだ!?」
特設会場内で解説を行っているアバターが観戦者の気分を盛り上げるために熱く語っている姿が会場内のあちこちのモニターに映し出されていた。
「まるでお祭り騒ぎだな」
会場内の熱い熱気に満ちた光景を見てエコーはぽつりとそう漏らした。
「まあ大規模イベントなんてどこもそんなもんだろう? それより首尾は?」
「上々。この間頼んだ秘密兵器も無事に届いたし準備は万全だ。それより周りを見てみろ。空気がピリピリしている連中が何人かいるだろう? きっと連中が他の参加者なんだろうな」
「きっとそうだろうな。ま、俺達もせいぜい負けないように頑張らないとな」
後からログインしたトーゴーとも無事に合流したエコーは彼と雑談を交わしていた。そんな二人も他の参加者たちと同じようにピリピリとした空気を醸し出していた。
そんな二人の空気を読まないのがレイだった。
「なに二人ともそんな怖い顔してるんですか。せっかくの三人での初めてのイベント参加なんですから楽しみましょう!」
「そうだな……」
エコーは淡々と彼女にそう答えた。
そして刻々と時間は経ち最終エントリーの締め切り時間になった。
「いよいよUBR開催の10分前! 参加者の最終エントリーももう締め切りだ! エントリーに間に合わなかった残念なプレイヤーは……どうやらいないようだ! それじゃあ今から参加者の諸君を強制転送して特別ステージへと移動してもらう。でも開始まではまだまだ時間が有るから転送先で戦闘準備を入念に整えてくれ。それじゃあ強制転送開始!」
その号令と共にエコーやトーゴーにレイ、それと他の参加するプレイヤーのアバターは現在居る酒場内から別の場所へと強制的に転送されていった。
転送された先はスタジアムの選手控室のような殺風景な場所だった。そしてその部屋の真ん中に始まるまでの時間を示したタイマーが刻々と時を刻んでいるだけだった。
「ようし、それじゃあ各々装備展開。戦闘準備」
エコーの掛け声が号令となり二人も事前にセットアップして登録しておいた装備を速やかに展開させた。さっきまでの和やかな空気はどこへやら、今は一変して全員戦闘モードへと頭を切り替えていた。
「今回俺達はこのメンバーで初めてのイベント参加、それも大規模な戦闘を行うものに参加する。俺達よりも強い連中との戦闘、長時間の戦闘、不測の事態、その他にも様々な困難が俺達の前に立ちはだかるだろう。だがそれらをすべて押しのけて俺達は優勝を目指す、目標はそれだけだ」
始まる前に気合を入れるためにエコーは静かに語った。そしてコンソールを弄って二人にあるアイテムを手渡す。
「今からの戦闘だと夜戦も考慮に入れなければならない。これはその時のための秘密兵器だ。必要に応じて活用してくれ。それとスタングレネードにC4爆薬と信管、これも二人に渡しておく。勝つためには手段を選んでられない、時には卑怯だと言われるような戦法も駆使して何としてでも勝ちに行くぞ」
「秘密兵器って……ナイトビジョンとかのことか。三人分だけとはいえよく手に入れたな、これらを揃えるのにも費用は決して安くは無かっただろうに……。だがこれで、これらの物資でエコーがどれだけ勝ちにこだわっているのかが何となく分かった。いこう、敵を全て蹴散らして俺達が優勝しよう」
「私も自分が出来ることは二人と比べてまだ少ないですど、やれることは全力でやって勝利をつかみ取ります。気合は十分です!」
現在SilentKnightのメンバー三人の士気は過去最高に高まっている。
そして始まるまでのカウントダウンものこり1分を切った。
「それじゃあエコー、いつものように号令を頼む」
トーゴーはエコーに頼んだ。
「いつものか?」
「ああ」
「分かった」
そう言うとエコーは軽く呼吸を整えてから口を開いた。
「弾倉装填と同時に撃鉄起こせ。これより先は俺たち以外全員敵の戦場へと赴く。俺達が出来るありとあらゆる手段をもってして敵勢力を無力化していく。勝つのは他の誰でもない俺達だ。さあそろそろ時間だ、全員タイムカードを押せ。戦闘開始だ」
カウントゼロ、三人は新たな戦場に転送されていく。戦いの火ぶたは切って落とされた。
「さぁ行こうか……」
三人のうち誰かがそう呟いた。
ここは電脳戦線クロスファイア、数あるVRオンラインゲームの中のうちFPSゲームを題材とした仮想空間の戦場である。ここでは数多のプレイヤーが日夜自分の分身であるアバターを操りながら終わりの来ない戦闘を続けている。
ここにはプレイヤーの数だけ物語がある。勝利の栄光を欲する者、ただ戦う事だけを望む者、レアな武器を収集する者、理由は人それぞれだ。
ここにもまた気の合う仲間と共に強者が闊歩する戦場に足を踏み入れていった者たちがいた。
彼等の戦いはまだまだこれからも続いていく――。