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12 それぞれの思い

 エコー達SilentKnightサイレントナイトがUBRに向けて準備をしている間、他の参加するプレイヤー達も当たり前のように念入りに準備をしていた。


 勿論彼等の目標もエコー達と同じで優勝を目指している。


 そんなある日の草木がうっそうと生い茂る森林フィールドにて――。


『今度開催されるUBRだが、俺らも参加するんだよな?』


『勿論だ。もう参加申請は済んでるぞ』


『なんだ? この期に及んで怖気づいたのか?』


『いやいや、そうじゃない。ただ俺達のスタイルで優勝できるのかどうか気になってな』


「お前らお喋りが過ぎるぞ。それに優勝できるかどうかじゃない、優勝するんだ。それしかない。俺らはこと森林戦でのアンブッシュでは敵なしだ。現に今まで位置がバレたことが無いだろう?」


『そうだけど、それだけじゃ優勝には近づけないんじゃ……?』


「いいか? 今まで築き上げた自分たちのスキルと技術、それと仲間を信じろ。なあに、敵は向こうからわざわざやってきてくれる。それを俺達は一人づつ確実に始末していけばいい。そうすればいずれ俺達は優勝できる。優勝の栄光を手に入れるのは俺達だ」


 緑が多い森林の中で彼等は無線を使って仲間たちと会話をしていた。だが彼らの姿は何処にも見当たらない。それもそのはずだ、彼等はある特殊なスーツを着て地面に伏していたからだ。


 ギリースーツ、それはハンターやスナイパーが山岳部や草原、森林などでカモフラージュするために使用される戦闘服のことである。全身に短冊状の布や糸が縫い付けられたこの戦闘服は着用者を周囲の風景に溶け込ませて視覚的に発見されにくくする効果がある。


 更に彼等はそのギリースーツに周囲の草木や小枝を巧みに使って更に発見されにくくなるように一工夫入れている。これでは発見するのは困難だ。


『とか話してたら今日も可哀想なお客さんがお出ましだ』


「よし、一人づつ確実にな。俺達ForestFairyフォレストフェアリーは動より静。動かずバレずに静かに目の前の敵を排除していくぞ。さあ諸君、狩りの時間だ」


 ギリースーツに身を包み、手には第二次大戦中の古いボルトアクション式のライフルを手にする彼等ForestFairyは森林の中で静かにPK活動を始めた。


 彼等の視線の先の敵が一人づつ視界に入らない何者かにやられていき、狼狽えているその光景はさながら森の妖精の悪戯にあっているようだった。











 森林フィールドで一方的なPKが行われている同日同時刻、多数の民家が立ち並ぶ郊外の住宅地地点では――。


 ここには全身ブラックマルチカムと呼ばれる黒系の迷彩服を着用し、頭部には黒いレンズがはめ込まれたガスマスクを装着した一団が展開していた。その黒いレンズのせいで彼らの表情は窺い知ることは出来ない。


 そして彼ら全員の手には統一して同じ銃が握られている。


「状況は?」


「周囲は完全に我々が制圧。クエスト自体も完全にクリアです」


「OK。それにしてもPvPメインのこのゲームにまさかこんなクエストがあるとはな。何が有るのか分からないというのも案外面白いものだな」


「そうですね」


 チームメンバーのうちの二人が軽い雑談をしていた。その周囲では残りのメンバーが四方八方に銃を向けて周辺警戒を行っていた。


「で、今度のUBRには予定通り?」


「そのつもりでいる。面白そうなことは皆で共有しないとな」


 ここにいる彼等も先のForestFairyフォレストフェアリーと同様にUBRに参加予定のクランであった。彼らが優勝を目指しているのかどうかは分からないが、エコー達SilentKnightサイレントナイトの脅威になる可能性があることは明白だ。


「よし、総員弾の補給をしたらまた別のクエストを受注するぞ。大会まで後もう少しだ、それまでに各員の練度と連携、スキル上げに徹するぞ」


 各メンバーは無言で頷いた。そして装備を整え終えてから彼等はまた足を進めていく。


 彼らが先程まで居た場所の足元には撃ち終えた大量のショットシェルと映画などで出てくる所謂ゾンビと呼ばれるようなクリーチャーの死体があちこちに転がっていた。











 そして日にちは数日経過した。場所は海上プラットフォームにて――


 ここでは二つのクランが戦闘を行っていた。これはどうやらフィールドでの遭遇戦ではなく、互いのクランの交流や実力を計り合うためのバトルのようだ。因みに今回のルールは相手クランを全滅させた方が勝利のバトルロイヤル戦だ。


 その戦場の片方のクランに耐爆スーツをこれでもかとカスタマイズした装備を身に着け右目に眼帯を嵌めた男がいた。その彼の手には随分とマニアックな軽機関銃、M63ストーナーLMGが握られている。そして彼のクランの他のメンバーは皆一様に骸骨のプリントが施された目出し帽を被っている。


「いいぞ! このまま押し切れ! ここで負けるようじゃ今度の戦闘でも生き残れないぞ!」


「「「了解っ! ボス!」」」


 ボス――、そう呼ばれる彼がこのクランのリーダーである。そして彼が率いるこのクランが現在この戦場を支配しているといっても過言ではない。相手クランを押し切り、そのまま押し潰そうとしている。その勢いはまるで雪崩アヴァランチのようだ。


 そしてこの戦闘は数分後に終結した。彼等の勝利によって――。


「残存敵勢力無し、我々の勝利です」


 メンバーの一人が彼に自分たちの勝利の報告をしていた。


「そうだな……。全員お疲れ。警戒解除、全員楽にしていい。UBRの前哨戦としてこの対戦を受けてはみたが、あっけなく終わったな。もう少し骨のある奴らが相手だと思ったんだが残念だった……」


 それをボスと呼ばれる彼はストレージから葉巻を一つ取り出して、美味そうにそれをふかしながらその報告を聞いていた。葉巻と言ってもこれはゲーム内の一アイテム。ニコチンなど入っている筈もなく、所詮これはただの見た目だけのエフェクトアイテムでしかない。それを美味そうにふかすあたり、リアルでの彼は相当な愛煙家なのだろう。


 だがその彼の表情はどこか物足りなさそうであった。というのも予想以上に相手が弱かったのでそれに対して不満を持っていたのだ。彼は強者との戦いを望んでる。


 それも自分たちと対等に戦えるチームワークも優れた強い相手を――。


「さてと、今日はこれで終いにしよう。各員、UBRまであまり日が残ってない。残り数日は各々で体を休め、大会に全力を注げるようにしろ! 全力を出せずに負けるなど御免被るからな。今日はこれにて解散。

全員お疲れ!」


 敬礼をしながら解散の号令を出す。それに答礼しながら彼の仲間たちはログアウトしていった。


「それじゃあ俺も今日は上がるか……。UBRでは強い奴らが集まるといいがな……」


 そして最後に彼もゲームの世界から現実世界へと戻っていった。


 UBRでは参加する彼らの沢山の思いが込められていく。皆一様に優勝という名の栄光を目指し、まだ見ぬ強敵との戦いに向けて技術を向上させ、勝つために切磋琢磨していた。


 UBR開催まであと数日――

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