11 戦闘の準備は念入りに
UBRの開催が告知され、そしてエコー達のクランSilentKnightもそれに参加する意思表示をしてから早数日。開催まで残すところあと1週間と数日となった。この日までエコー達はスキル強化に装備品の充実、そして三人での連携の訓練など優勝を目指す為に努力を重ねてきた。
そして三人の姿は今日、シティエリアの最深部にあるブラックマーケットにあった。
「そういや聞いたぞ? アンタらも今度のUBRだっけ? に参加するんだってな」
「その話をどこから聞いたんだ? って話は置いといて、参加するのは本当だ。もっともレイに誘われなかったら参加してなかっただろうけどな」
「あのアクティビティな猫耳ショットガンナーの嬢ちゃんが誘ったのか! そりゃあ納得だ。でないとそういったゲーム内イベントに出そうになかったからなアンタらは。大規模な戦闘が行えるイベントとかで自分たちの腕前を確認するのもいいんじゃないか? もっともアンタらの腕前はそこそこあると俺は思ってるけどな」
「おだてたって高い買い物はしないぞオヤジ」
「別に構わないさ! これからもウチの常連でいてくれればな。ドカンと一気に大きく稼ぐよりも細々と小遣い稼ぎをしていた方が性に合ってる。それにしてもSilentKnightかぁ。随分小洒落たクラン名だな。あぁ分かった、これもあのレイって娘がつけたな?」
「まったくもってその通り。そしてクランのリーダーは何故か俺って事になったがな……」
「別にいいじゃないかエコー。それだけ信頼されているってことだ。仲間に信頼されていることを誇れよ」
「そんなもんかねぇ……?」
「そんなもんだ」
店のカウンターでエコーは店主のオヤジと世間話も交えながら談笑を続けている。主に話の内容は今度のイベントであるUBRのことがほとんどであったが――。そしてエコーが話している間、トーゴーたちは何をしていたかというと、彼等は店の奥の棚であーだこーだと言いながら買い物をしていた。その買い物の殆どがレイの買い物のようで、トーゴーはそれに付き合わされているみたいであった。
その付き添いの合間合間にレイにこれはああだ、こっちはこうだなどとアドバイスしている姿がたまに見受けられた。それを横目にエコーとオヤジは雑談を続けている。
「そうだエコー。 あの二人は奥で商品を物色しているがアンタは大丈夫なのか? 準備は万全に万全を期しておいた方がいいと思うぞ? 後悔先に立たずってやつだ」
「そうそう、俺からも一つ頼みごとが有るんだ。オヤジ、このリストに書いてある物を用意してくれるか? これは人数分、ここから下のは一人辺り3、4個づつ持ってもらう予定だからその数掛ける人数分だ。頼めるか?」
そう言いながらエコーはステータスバーを開き、そこからいくつかの品物の名称が書かれたリストをオヤジへと送った。そのリストに書かれている品物の数は決して少なくはないようだ。
「どれどれ……。おぉ、こりゃまた大層なのを注文するなぁ。ここから下に書かれているのは消耗品関連だからどうとでもなるが、コレとコレがなぁ……。いや、こっちはどうにか出来るが、やっぱコレだけがねぇ? 用意できたとしてもこれがかさむぞ?」
オヤジは親指と人差し指で輪っかを作ってエコーに見せてきた。勿論それは金はかかるぞという意味だ。
「構わないさ。クレジットなら蓄えはある。あっちの二人のも買ってやれる分も、な」
「ほぉ? 仲間の分も買ってやるとは随分カッコいいねぇ。流石はリーダー、いい男だ。よし分かった! その注文引き受けよう!」
「本当か!? 助かる! オフィシャルストアじゃ手に入らない物も多くてな。流石はオヤジだ!」
「当たり前だろ? ここは何でも揃うブラックマーケット。非合法なツール以外ならば確かにここで手に入る。そんじょそこらのオフィシャルストアと一緒にしてもらっちゃ困るな。ただ、仕入れ先は企業秘密だ」
「ではよろしく頼む。できればUBRまでには間に合わせてほしいが大丈夫か?」
「大丈夫だ、間に合わせよう。仕入れが完了したらメールを送っておくよ」
「あぁ、よろしく頼む」
こうしてエコーはオヤジに大会までに間に合うようにある物の注文を頼んだ。あとは当日までに品物が届くのを待つだけだ。
「エコーさんこっちは終わりましたよ?」
ひとしきりエコーの方も話が終わるとちょうどタイミングよくレイが話しかけてきた。どうやら向こうも買い物が終わったようだ。
「グッドタイミングだな。こっちもちょうど終わったところだ」
「見たところエコーさん何も買ってないみたいですけど買い物は大丈夫なんですか?」
「俺の欲しいものは今在庫がないみたいでこれから仕入れてもらうんだ。UBRまでには間に合わせてくれるから大丈夫だ。さてと、それじゃあ一旦シティへ戻ろう。トーゴーにも声をかけてきてくれ」
「はーい」
そしてレイはまたトーゴを呼びに彼がいる店の奥へと戻っていった。
「あぁそうだ。オヤジ、もう一つだけ頼みが」
「なんだ?」
「さっきのリストの中のコレなんだが、一つだけ側面にこのイラストを描いてくれないか?」
そう言ってもう一つの、今度はある絵が描かれたものをオヤジに送った。
「今度はなんだ? あぁ、これくらいお安い御用だ。これはサービスでやっておくよ」
「何から何まで助かるよ」
「いいってことさ。なんたってウチの上得意様だからな」
スキンヘッドの黒人アバターであるオヤジの眩しい笑顔が輝いていた。それが営業顔なのか素でなのかは彼のみぞ知ることだ。
「じゃあよろしく頼んだ」
「あぁ任された。料金は仕入れが完了して受け渡しの時でいい。じゃあまた後日メールする」
各々の買い物を済ませた三人はオヤジのブラックマーケットを後にし、シティエリアへと消えていった。
UBR開催まであと数日――。